第20話 思いがけない「わーお!」なハプニング!

 「て、転移魔法ー!?」


 リーシャが、これまででも一番なんじゃないかってぐらいの大仰天を見せた。


 まあ転移魔法といえば、伝説的な魔法の中でも最上級。

 もはや神話クラスの魔法だからな。


「うん、条件は揃ったと思う」


 そんな神話クラスの転移魔法だが、実は理論は出来ている。


 前世の、日本の「ライトノベル」からヒントを得てる、とは言えるわけもないので隠しておくが、理論自体はそこまで難しいものじゃない。


 簡単に考えると「今の場所」と「行きたい場所」の超正確な位置の把握が出来れば、転移は可能。

 俺の趣味にはぴったりな魔法だったので、サブ研究として一年半の苦節の内に理論は完成した。

 

 では、今までどうしてやらかったのか。

 問題は、転移に使うその“魔力量”だった。


 人や物を、場所を超えて送ろうと思うと、とんでもない魔力量が必要になる。


 王国内でも空気中に漂う魔力だが、単なる俺の趣味で一気に大量に消費してしまっては、国民に魔力関係の病気が現れると考えていた。

 この世界で言う、酸素不足みたいな状況になりかねないからね。

 

 では、今。


 周りを見てみよう。

 どうだろう、この濃い濃~い森の魔力。

 

 それでもかなりの量は必要だが、人間社会に比べればずっと少ない量で、弊害をもたらすことなく使えると思う。


「でも、具体的にはどうやって?」


「うーん。説明すると難しいけど、聞く?」


「あ、やっぱりいいや」


「ぐぬ」


 俺のオタク趣味全開な理論の方には、興味が無かったよう。


「けど、今すぐに出来るってわけではないんだ。それなりに準備が必要だし」


「そうなのね。というより、神話クラスの魔法をほいほい使えた方が怖いわ」


 ということで、ここには俺の準備した魔法陣を敷いておくだけにする。

 転移魔法が完成した時には、ここへすぐ飛んでくることが出来るように。


「じゃあ悪いけど、帰りも乗せてってくれる?」


『もちろんだ』


 こうして、魚という食材をゲットして、俺たちはコテージへ帰った。







「よし、こんなもんか」


 コテージに戻った後、俺は色々と設備を追加するべく、コテージ内で黙々と作業を行っていた。

 

 帰ったら設置しようと思っていた時計、しっかりとしたキッチン、温泉に行くまでの直通の通路なんかだ。   


 時計は、日の角度から理論的に計算した。

 ちょうど十二時頃だったので、合わせやすかったのもラッキーだ。


 そんな作業も、とりあえず考えていた分は終わった。

 ちょうどいい時間帯だし、そろそろお昼にしたいな。


「リーシャー? ……は、いないんだった」


 リーシャは、フクマロと一緒に食材を採りに行ってくれている。


「んー、じゃあ温泉でも行くか」


 せっかくコテージから直通する通路も作ったし、作業後なのでさっとシャワーを浴びておこう。


 夕方また入るだろうが、家の隣にあんな最高の施設があるんだ。

 何度は行っても良いだろう!


 コテージからの通路を渡って、温泉へと歩く。

 

 うんうん、良い感じだね。

 ほんの数歩の距離なんだけど、もし雨が降ったら嫌だからね。

 

 ってことで、作業の事を考えるのはここまでにして。


 スポポーン! と衣服を放り脱いでいざ入湯!


「って、……え?」


 俺の見間違えか?


 中央の一番大きな風呂。

 その湯けむりの奥に、何やら人の影が……


「リーシャ?」


 だが返事はない。

 さらに、張り巡らせている魔力探知にも引っ掛からない。


 だとしたら一体……?


 俺は魔力で形作った剣を片手に、ちゃぷんと入水する。

 じりじりとその影に近づく中で、何やらうめき声が聞こえた。


「う、うーん……」


 待てよ……この声。

 まさか、のぼせてる!?


「こうしちゃおけない!」


 俺は瞬時に、全身に魔力を通わせ、水除けをしながら影に近づく。

 そこには……


「!?!?」


 わーお!

 なんと、サラサラの金髪をお湯につけて上を見上げる、すごく美人さんがいた。


 しかも、おっきなお胸を大胆に晒しながらお湯に浸かっている。


 タオルは巻いておらず、両肘は背側の石に付いているので、強調されたお胸が……もう、とにかくすごい光景だ。


 というか、金髪にこの横に長い耳。

 この人、もしかして……

 

「うーん……」


「!」


 って、何ぼーっと考えてるんだ俺!

 女性は目をぐるぐるさせ、意識は朦朧もうろうとさせている。


 このまま放っておくと危険だ!


「よいしょ!」


 女性にはタオルを一枚かけ、俺の肩を貸すようにして急いでお湯から出る。


「!?」


 小走りなので、すぐ隣で暴れるお胸に視線がいきそうになるが、歯を食いしばりながらなんとか目線を逸らす。


 死ぬ気で自分の欲望とも戦いながら、家に入ってすぐに彼女を横に寝かせた。


「このままではまずいな」


 女性だし、何よりその破壊力のあるお胸が隠しきれていないので、上からさらにその辺のタオルを重ねる。


 細かく体をふくわけにもいかず、とりあえずは風魔法で乾かそう。

 

 目はつむる。

 目は瞑るから!


「よし。かぜまほ──」


「ただいまー」


「──!!」


 その声に、何も考えられぬまま、ゆ~っくりと顔を玄関口へと向ける。

 当然、ばっちりと目が合った。


「や、やあリーシャ。ご苦労様……」


「……」


 リーシャの視線が女性、俺、女性と行き来した。

 そして、怒りがこもっていくのが分かる。


 女性は裸の上にタオル、俺は前を隠すためのタオルのみ。

 おまけに、俺の手が今まさに彼女に触れようとしているのだ。


 絶対に勘違いされてる。


「ち、違うんだ、リーシャ。これは──」


 リーシャは何も言わず、一切瞬きもせず、こちらにずんずんと歩いて来る。

 そして、にこっと笑った。


「なにしとるんじゃー!」


「──ごぁっ!」


 俺の体は窓を突き破って外へと飛び出た。 




★ 




<???視点>


 頭がぼーっとします。


 わたし、何をしていましたっけ……。


 そうです。

 あの、何やら気持ち良さそうな温かい水に浸かっていたのでした。


 そして、段々意識が朦朧もうろうとしてきて……。

 うーん、まだ目は開けられません。


 けど、何でしょう?

 この心地よくて、わたしの心をくすぐるような魔力は……。


 今までに感じたことのない、すごく温かい感じ。

 まるで、わたしを心の中から癒すような魔力です。


 ああ、もっと感じていたい……。


 あ、段々と楽になってきました。


 そろそろ目が開けられそうです。


「あ、起きた」


 目を開けた瞬間、男の子と女性と目が合いました。

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