第16話 魚が食べたい!

 時刻は、多分朝の十時ぐらい。

 

 朝起きて、リーシャはすっかり気に入った温泉、俺は野菜の魔力操作の研究、フクマロは散歩と、それぞれ思い思いの行動をしていた。


 そうして、早めのお昼ご飯。


「もぐもぐ」

「シャキシャキ、ムシャムシャ」


『ウォンッ♪』


 三人で昼ごはんを食べる。

 例のごとく野菜だ。


「……」


 というか、野菜か果物しかない。

 野菜自体を変えることも出来るし、森の中で贅沢ぜいたく言うな、という話かもしれない。


 だが、俺は自由に生きると決めたんだ。

 そんな俺の今の思いは、


「魚が食べたい!」


 三人とも食べ終わったタイミングで、俺は高らかに声に出した。

 食べている最中にネガティブな事を言われると嫌だからね。


「魚? まあ、たしかに。野菜ばっかりだと飽きてくるわよね」


「あ、ごめん。リーシャの料理は本当に美味しいのだけど」


「ううん、バリエーションがなくなるのも困るし。魚があるなら私も食べてみたい」


 リーシャも同じだったか。

 すでに言わずもがなだけど、彼女の料理はめちゃくちゃ美味しい。


 それでも、採れるのは野菜と果物のみ。

 料理に加えるのも、収納魔法に収納されている肉だけだ。


 収納魔法には、来るときに通った国々で頂いた食料も保存してあるが、何しろほとんどが内陸国だからな。

 自然と肉が多くなる。


 さらに、どの国の王も俺を敬ってくれたので、出されるのは一級品。

 となれば、やはり肉にいきつくのだ。


 収納魔法内では腐ることもなければ、匂いがつくこともないので大変ありがたいが、肉がほとんどの割合を占めてしまっているのは事実だった。


 だから久しぶりに、魚が食べたい!


「なあフクマロ、どこかに魚が獲れるとこってないのか?」


『……な、ないぞ』


「ん?」


 なんだ、今のと怪しげな態度は。


 フクマロはないとは言ったが、俺からふいっと目を逸らし、どこか誤魔化している感じがする。

 となれば、聞き出すまで。


「んん~? 本当かなあ~?」


『ぐっ……』


「そーれ、モフモフ」


『はぅあっ!』


 フクマロは気持ちよさそうな声を上げた。


「教えてくれないなら、もうこうすることもないけどなあ~」


 そして、俺は手をピタッと止める。


『ぐっ! わ、わかった! ある! 魚を獲れる場所はあるぞ!」


 よし、俺の勝ち!

 本当にちょろいな、神獣フェンリル様よ。


『だが……』


「?」


『その場所は、ここからは少し遠くてな』


「なるほど、そういう問題ね」


 フクマロはばつが悪そうに答えた。


 うーんと考えながらも、リーシャと目を合わせる。

 でも……やっぱりそうだよな。


「遠くても良い。案内してくれないか?」


「ルシオ……!」


『……仕方なかろう』


「でも、どのぐらいかかるんだ?」


『六時間はかかるぞ』


「まじかよ!」


 どうする、と再度リーシャを見るも、彼女の意思もやはり変わらない様子。


「行こう」


「うん!」


 よーし、今日は魚を食べるぞ!







「うおっ! はっええー!」


 ちょうど足がまたがるよう、体のサイズを調整してくれたフクマロの上に乗り、森の中を気持ち良く駆けていく。


「ちょ、はやすぎない!? こわいこわい!」


 気持ち良いのは俺だけみたいだけど。


 リーシャも同じくランガに跨り、俺に背中側からぴたっとくっついている。


 その怖さからか、彼女が回す手は俺の腹の方でがっしりと捕まっており、そのおかげで……。


 ふよっ。


 その豊満なお胸さんが背中に密着している。

 しかも、フクマロが上下することもあって、それがたゆんたゆん揺れるんだから、もう大変な事態だ。


 下には“モフモフ”、後ろには“ぱふぱふ”で、異種ハーレムってね!


 けどまあ、このまま自分一人だけ楽しむのも良くないと思うので、リーシャに提案してみる。


「リーシャ、目を開けてごらん」


「むりむりっ!」


 首を横に振ったのか、俺の背中でぐりぐりと頭が動いた。

 メイド時代はこんな彼女を見ることはなかったが、誰にでも苦手な事ってあるもんだな。


「大丈夫。フクマロは絶対に落としはしないし、俺も何重にも結界を張ってる。ここで逆立ちしても絶対落ちないよ」


「……絶対に絶対?」


「ああ。絶対に、絶対」


「……」


 俺の背中に埋めるようにしていたリーシャの顔と胸が、徐々に離れる。


「周りを見てみな。こんな綺麗な景色、他では味わえないぞ」


「わあ……!」


 昼過ぎという時間帯もあり、高い木々の隙間には真上からの木漏れ日が差し込む。


 一筋の光がいくつも降り注ぐ光景はまさに絶景で、フクマロの疾走感も相まって気分が高揚する。


 右を見てみれば、遠くには小川も流れており、景色を一層うるおわせる。

 

 前世では、幹翠葉かんすいよう、と言うんだっけ。

 俺たちが独占しているこの大自然の景色、すごく気分が良い。


「すごく……綺麗……」


「味わってくれたなら良かったよ」


 それからはリーシャも少しづつ話をしてくれたので、早いものだった。

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