第9話 これが魔法才能マンの真骨頂だ!

 生活に必要なものは衣食住。

 これは古来より決まっている事だ。


 では、今の状況を考えてみよう。


 「衣」:着ている装備、着替えも何着か持ってきているので大丈夫。

 

 「食」:先ほど食べた濃厚な魔力で出来た果物や野菜がある。最高。


 「住」:今いるここ。神獣もいて、安全以外の何物でもない。


「完璧じゃねえか!」


 考えてみると、そんな結論に至ってしまった。

 あれ、ここって天国かなにか?

 

 だがしかし、俺はこれで満足して終わるような男ではない。

 衣食住、それが揃っているなら、さらに快適に自分好みにしようじゃないか!


 魔法の才能を嫉妬されて追放された男の真骨頂、とくとご覧あれ!


『あれは、何をしておるのだ?』


「さあ……」


 後方からそんな声が聞こえるようだが、今に見ておけ。


「もう一回聞くけど、ここの木は使っても良いんだよね?」


『ああ、構わんぞ。構わんが……一体何を?』


「まあまあ」


 確認を取った後、俺は十本ほどの木を前にして、地面に手をついた。


「……」


 それぞれ、大体十メートルといったところか。

 それなら、


「――!」


 これぐらい?


 外見上はまだ何も変化がない。

 が、段々と……


「来た来た」


 俺が呟いた次の瞬間から、十本の木が一斉にこちらに傾き始める。


「おお!」

『なんと!』


 後ろの二人(一人と一匹?)が感嘆の声を上げた。

 

「よっと」


 俺が前方にあらかじめ展開しておいた『収納魔法』の空間。

 その空間に触れた木々は、しゅんっと音がして見事に収納されていく。


 周りからは、俺の前で突然木々が消えたように見えるだろう。

 収納魔法は楽でいいねえ。


『今の木々……一体何をしたのだ? その前も、何やら魔力を操っていたようだが』


 フェンリルが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

 魔法はさっぱりらしいが、魔力の流れには敏感なんだね。


「収納魔法だよ。俺の強さだと、大体この木が五十本は入るかな。木を切ったのは、魔力をちょっと操作したのさ」


『操作だと?』


「うん。この木の魔力を下の方に集中させ続けると、やがて膨れ上がってパンパンになる。その外へ逃げようとする力を利用して綺麗に切断したんだよ」


『な、なるほど……と納得してよいのか」


「フェンリルくん、ルシオは基本的におかしいのよ」


 魔力操作。

 魔法を使う際の基礎的能力ではあるが、それを極めれば割とどんなことも出来る。


 魔力が何たるかを考え抜いた結果に得た操作精度だけど、普通は出来ないらしい。


 この世界での「魔力」は、それこそ生命の命、人にとっては血液と同等の役割を果たす程に大事なものだ。

 俺がその気になれば、人に触れるだけで魔力を逆流させて、命を絶たせることだって出来る。


 まあ、そんな恐ろしいことはしないとして。


『それは分かったが、これから何をすると言うのだ?』


「まあまあ、見ててくださいよフェンリっさん」


『フェン……?』


 ここからは一気にいくぞお!


「おりゃ!」


 収納した木々を一気に放出。

 空中で、それらを魔法で切断・接着させ、思った通りに形を整えていく。


『な、な……』

「えー……」


 フェンリルもリーシャも、目の前の光景に信じられないという目を向けながら、俺の作業をじっと見つめる。

 ちょっと誇らしい、けどちょっと照れ臭い。


「仕上げ!」

 

 大体形が整ってきたので、最後にぎゅっと固定させて、どしーんとその場に建てた。

 

 するとどうなるか……


「じゃーん! 木で出来た家、“コテージ”です!」


『なあ……!』

「うっそお……」


 フェンリルもリーシャも口をあんぐりと開けて固まってしまった。


『お主、本当に人間、か……?』


「うん、そうだけど」


『複数の魔法を同時に扱っていたように見えたが……』


「使ってたね」


「複数同時になんて、それこそ伝説の大賢者レベルなんだけど……」


 リーシャが呆れたように言ってくる。


 この場合の大賢者は『森のけんじゃのたんけんきろく』のけんじゃではなく、魔法の始祖とされる偉大なる者たちの総称だ。


 文献によれば、魔法を創ったと言われる彼ら大賢者は、今では考えられないような魔法や現象を容易く起こす。


 複数魔法を同時に使うのも、その内の一つだ。

 魔法が発展したグロウリアでも、人は基本的に一度に一種類しか使えない。


 一挙に複数魔法を使おうとすると、全てがおろそかになる、らしい。


「まあ、隠してたからね」


「見せてたら大変な事になっていたと思うわよ」


「かもなあ」 


 でも、みんな伝説上、伝説上って言ってやろうとしないだけだと思うんだよ。


 本気で原理を調べて、本気で習得しようと努力したからこそ出来たのだから、俺は胸を張って使わせてもらう。


 リーシャの言う通り、王国で使ってたら大変なことになってただろうけど。

 これからは自分の力を思う存分使いたいと思う。


「あった方が助かるでしょ? コテージ」


「わ、私は別に、いいけど……ううんやっぱり助かる。ありがとっ!」


 リーシャは優しいからな。

 フェンリルに連れて来てもらって、文句を言うような人ではない。


 だから、雑魚寝は嫌だとも言えなかったと思う。


 俺のわがままについて来てもらったのだし、彼女の要望ぐらいは応えてあげたい。

 余計なお世話かもしれないけど。


「ってそうだ。フェンリルは、何か希望とかある?」


『希望? まさか我にも作ってくれると言うのか?』


「うん。安全な所に連れて来てもらったお礼もしたいし」


『そ、そうか。ならば遠慮なく。そうだな……』


 フェンリルの要望を聞き、早速作業に取り掛かる。


 思いの外、要望が多くて笑ってしまったけど、それぐらい素直だとやる気が出るってもんだ。

 リーシャには先に休んでもらって、俺は作業を続けた。


 体がでかいからなー、フェンリル。

 それなりに大変そう。





 そうして、苦節一時間ほど。


「出来た!」


『おおー!』


 意外とミーハーな反応をくれて、俺も頑張った甲斐があるってもんだ。


 洞窟の外に作ったのは、フェンリルサイズの犬小屋。

 神獣様を入れておくには少々可愛すぎると思うのだが、要望通りにした結果なので仕方がない。


 要望があまりにも犬小屋過ぎたので、実は前世の犬小屋って完成形なのでは……?

 なんて考えたりもしたほどだ。


『入ってよいのか?』


「もっちろん」


『ハフッ!』


 本当に犬の様な息遣いをして、ワクワクした顔で犬小屋に入って行った。

 もはや「小屋」ではなくて、「大屋」もしくは「巨屋」と言うべきサイズだけど。


『ワフゥ~ン』


 フェンリルはウキウキで犬小屋に入ると、自分の腕を枕にして丸くなるように目を閉じた。


 ……可愛い。


 よし、みんなの寝床は確保したな。

 後はコテージ内の設備などにも手を付けたい。

 

 でも、一先ずはこれで落ち着け──


「きゃああああ!」


「!?」


 リーシャの叫び声か!?

 果物が採れるエリアの方からだ!


 俺は急いでリーシャの方へ向かった。

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