第5話 膨大な魔力量の正体

 腰の高さまで生い茂る草原、身長よりも高い木々が密集した森の中を、手でかき分けながら進む。


 進むわけだが……


「うーん」


「いてっ」


「あ、ごめんリーシャ」


 俺が急に立ち止まってしまったことで、リーシャが俺に頭をぶつけてしまった。


「ううん、大丈夫だけど……何かあったの?」


「そうなんだよ。見てくれ」


 俺の後ろにぴったりと付いていたリーシャを、隣に来るよう手で招く。

 

 生い茂り過ぎている森林の中は、大変とは言ってもまだかろうじて進める。


 しかし、この先に見えるのが、


「うわあ……! すっごいね」


「こりゃ大変そうだぞ」


 さらに高く、高さ三メートルほどはあろうかという長さの草原。

 もはや、草原と言って良いのかすら分からない。


 それに比例するよう、当然木々も高くなる。


「どうするの」


「手は、ある。あるんだけど……」


「?」

 

「果たして草原を切り刻んで良いものか……」


 正直、今頑張って進んできたエリアも『風魔法』で周囲を刈っていけば、簡単に進んでこれた。

 けど、誰の所有物からも分からないものを簡単に切り刻んで良いのかなあ、と考えてしまっていた。


 それで、この森の主とかに目を付けられると面倒だしね。

 だから仕方なく、この草原エリアを抜けるまでは手でかき分けて進むことにしてきたのだが、


「さらに高くなるとはなあ……」


 周りを見渡しても、奥に進むにつれて木々は平均的に高くなっている気がする。

 

 傾向を考えると、奥に何か魔力の供給源的なものがあるのかな。


「どうしようか……。――!?」


 って、なんだこの膨大な魔力量!?


 常にかけている『魔力探知』を通じて、嵐のような膨大な魔力量を感じ取る。

 まるで「我はここにいるぞ」と言わんばかりの、災害のようなとてつもない魔力の塊だ。

 

 魔力量とは、簡単に言えば“生命力の量”。


 つまり、量が多ければ多いほど、より大きな力を持ってるという事だ。


 距離は……まだ遠い。

 いや、それほど遠くもない……?


「――!」

 

 違う!

 動きが速すぎるんだ!

 

 それに、こっちに迫ってくる!?


「リーシャ!」


 隣のリーシャを抱きかかえる。

 こうなれば止む無しだ!


 『風魔法』


 さぁぁぁ……スパッ! スパパッ!


 かまいたちのような風の領域を展開すると、周囲の草原がたちまち切れていく。


「……よし」


 そうして、あっという間に一帯の視界が開ける。

 これで、このに立ち向かおう。


 正直、この膨大な魔力量の持ち主に何か出来るとも思えないが、魔法の数や質で言えば俺も自信がある。


「来るなら来い!」


 俺も、普段は抑えている魔力を一気に放出して、あえて挑発してみる。


 効果があるかはわからないが、これは自分を奮い立たせるためでもある。

 すでにこちらを捉えているのは明白だしな。


 さあ、どう出る?


「……って、消えた?」


 だが途中で、一瞬俺の魔力探知をかいくぐられた。


 いや違う!


 速すぎてどこに行ったか追えなかったんだ!


「上だ!」


 リーシャを再び抱え、後方に回避する。


「ぐっ――!」

「な、なに!?」


 魔力探知は魔法の基本だが、普通の人間の範囲は十メートル程。

 魔法に関しては普通の人間程度であるリーシャからすれば、突然隕石か何かが飛んできたと思うだろう。


「なんだ、こいつ……」


 体を起き上がらせ、突然現れたその存在の前に、体が震える。


 大きな体躯たいくを覆うように生えたふさふさの白毛。

 鋭い眼下でこちらを睨み付けながら、四足歩行の狼のように構える獣。


 魔獣どころの話じゃない。


 神聖なオーラさえまとう、この圧倒的存在感を放つ生物は、


「まさか、フェンリルなのか……?」


『……』


 目の前に現れたのは、はるか昔に存在したとされる伝説上の生き物。

 魔獣などという野蛮な生物ではない、“神獣”と呼ばれる『フェンリル』だった。


「……」


「――ッ!」


 フェンリルが一歩前に出ると、俺は一歩下がる。

 

 さっきの速さから推測すれば、今のこの距離は無いに等しい。

 念のため、周りには三重の魔法防御壁を張っているが、こんなのでは役に立つとは思えない。


 どうする……。


『……ン』


 え?

 今、何か聞こえた?


 後方のリーシャを見るも、首をぶんぶんと横に振るだけ。


 じゃあ今のは……。


『……ゲン』


「!」


 やはりこいつか!


 でも、不思議とこいつ……。

 それにあれ、もしかして。


「ルシオ!?」


 フェンリルに向かって歩き出した俺に、リーシャが声を上げる。


『ヴオォォッ!』


「ルシオー!」


 一瞬の間に、俺の視界は暗くなった。 

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