第3話 魔の大森林
「左様で、ございますか……」
サタエル王も覚悟はしていたであろうが、俺が実際に名前を出しただけで顔が
『魔の大森林』。
それが俺が考えていた目的地であり、この大陸最南端の
ここトリシェラ国は最南の国ではあるが、大陸の最南
この国より少し南下したところに、その魔の大森林があるからだ。
そこは、
まあ、それも古い文献なので分からないけど。
魔獣とは、前世で言う動物みたいなものだが、そんなヤワなものではなく、中には大きさや凶暴さもかなり激しいものがいる。
人々は豚や牛といった、家畜・食用の魔獣を育ててはいるが、それ以外で“魔獣”を聞くことはほとんどなくなった。
国の外に出現したとしても、すぐに討伐できるような弱い魔獣のみだ。
そのため、“強力な魔獣”と言ってもどれほどのものかは分からない。
それでも恐れらているのは、文献や語りなどで情報が受け継がれてきたからだ。
「それは……くれぐれも、お気をつけ、くださいませ……」
「ありがとうございます」
あれほど敬ってくれた王も、魔の大森林という名の前では怯えるしかないか。
古い文献の、派遣隊の記録はひどいものだった。
やれ超巨大な魔獣に襲われただの、やれ森全体が攻撃してきただの、それはそれは恐ろしい表記の数々。
だが、魔の大森林側から魔獣の襲撃があったとか、外から魔獣が見えたという記録は、森から最も近いこの国ですら残っていない。
それでも、この怯えようなのだ。
それだけ、魔獣の存在が恐ろしい存在だということなのだろう。
「宿はご用意させていただいておりますので」
「「ありがとうございます」」
俺とリーシャはお礼を述べて、迎賓館を後にする。
★
夜、用意してもらった宿にて。
「サタエル王も、やっぱり魔の大森林には怯えてたね」
「うん。当たり前の反応って言われると、そうなんだけどな」
恐れるべき対象、魔の大森林。
では、どうしてそんな危険な森に俺は自ら行こうとするのか。
「またそれ?」
「ああ、もう一度読んでおきたくて」
その一つがこれ、『森のけんじゃのたんけんきろく』だ。
おとぎ話のような児童向け絵本なので、表記はこれで合っている。
この本には、怖い森に潜む危険の数々と、主人公「けんじゃ」の
暴れ狂う魔獣、魔獣よりさらに恐ろしく希少とされる『神獣』、地下に潜む秘密基地、精霊の存在、などなど……。
さらにこの本、児童向け絵本のていを成しているにもかかわらず、何故か世に全く流通していない。
たまたま俺の情報網に引っかかり手に入れた、幻の本なのだ。
その事実を怪しんだ俺は、この本を
そうして辿り着いた答えが「もし、これが全て事実だったとしたら?」
一見、面白おかしくコメディ風に書かれているが、大人びた文章に直せば、相当にすごいことが書いてある。
そして「森」といえば、やはり魔の大森林だ。
俺の胸の高鳴りは止まらなかった。
さらに、早くから自由願望があった俺にはうってつけでもあった。
俺は「グロウリア王国」のような疲れる上流社会ではなく、田舎でひっそりのんびり、辺境スローライフを送りたいと思っていたのだ。
それも、好きなように開拓できれば何も言うことは無し!
のんびり……というにはちょーっとだけ危険かもしれないけど、俺は憧れた。
魔の大森林という
だから、俺は誰になんと言われようと魔の大森林に足を踏み入れるのだ。
「リーシャは怖くないのか?」
けれど、今の俺は一人じゃない。
ここまで付いて来てもらってだが、最終確認はとっておきたい。
「世界で一番安全な場所は、ルシオ様の後ろでしょ」
「!」
にっこりと笑ったリーシャの顔。
は、反則級に可愛い……。
よーし、そういうことなら頑張っちゃうぞー!
「ふふっ」
「なんだよ」
「ルシオ様って、本当に王族っぽくないっていうか……子どもだよね」
「悪いのかよー」
「ううん。私も、楽しみにしてる」
「……おう」
世界中探しても、魔の大森林を楽しみにしてる人なんて俺たちぐらいだよ。
「じゃあ予定通り、明日には出発するぞ!」
「うん!」
明日の希望を胸に、リーシャと一緒に寝た(惜しくも違うベッドで)。
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