第四十話『誰も学生の権利を妨害してはならない』


「人を探す事が出来る我流魔法か……」


「いるんじゃね?探せば」


部屋に戻ってきたヤノカは、とりあえず書いてきた文字をフィルに見せる。それをしばらく見ていたフィルだが、知らない文字だとその紙を返す。


「しかし結構探してるのに見つからないなぁ、ガイカクノガラ」


「うん。今度探してみようと思うんだ、その人の名前を言ったらどこにいるか探してくれる人」


「いればいいけどな……。俺も聞いたこと無いし」


二人がそんなこんなで色々考えていると、部屋に戻って生活できるまで回復したリルが話しかけてくる。それはシンプルな一言であった。


「……。ねぇ、それより他校試合は大丈夫……?」


「それはそうなんだが……。なぁ、ヤノカ」


「何?」


「一回考えるのをやめないか?俺らは学生だ、他にやる事があるだろうし……。それに、深入りするのはいいが、深入りしすぎだと思うんだ」


ヤノカに対し、本気で咎めるフィル。ただの学生が関わるには、少し……。と言うか、かなり関わりすぎだと考えていた。実際、もう戻れないところまで来てしまっているのかもしれない。


「難しいこと考えないで、学生生活を楽しまないか?」


「……。そうしたいのは、分かってるんだけどね……。もしここで、僕があの犯罪者を無視して生活していたら、心のどこかで僕が決着を付けなかったせいでこうなったんだって、思うかもしれない」


「……呪いか。思考と記憶の……。確かにそうだな。俺も関わってしまった以上、そのガイカクノガラって奴を何とかするまでもう、止まれない。だがな?今じゃない。考えすぎだ。お前はいつも一人で何でもかんでも背負おうとする!……俺にも背負わせてくれ」


ヤノカは、あの時ノガラを逃した時からずっと後悔している。あの時逃していなければ、全てを終わらせられたはずだと、後悔し続けている。だがフィルはそれを諫める。それを考え続けていても仕方がないだろうと。


「……。分かったよ、フィル」


「よーし!んじゃスパーリングでもしに行くか!これから色々あるしな!おい二週間でガチガチに鍛えるからな!覚悟しとけよ!」


そして二週間が過ぎた。ガイカクノガラどころか、なぜかこの二週間、犯罪者すら出てこなかった。なぜかは分からないが、そりゃもう嫌な予感はした。


しかし、考えすぎるのもよくないと、思考を端に寄せ二週間勉学と修行に励んだ。そして、他校試合の日がやって来た。


「しかし最大三日間やるとはなぁ……」


「だね、お祭り騒ぎだ」


「当然、警備も厳重にしている。安心してくれ」


「あっはい……。あの、どちら様で?」


試合会場にやって来た二人。既に他の学校からやってきた奴らや、出店などなんか色々やってきていた。流石に観客はまだ来ていなかったが。今やっているのは選手入場だけである。


「でお前誰だよ」


「あぁ。私はここの警備員を担当する、『バッドレ・ドレドレ』だ。バッドと呼んでほしい」


「あ、あぁ……。まぁ分かったけど……」


何というか、距離を詰めてくる奴であった。出会ったばかりなのに、もう隣にやってくる。距離の詰め方バグってない?と言いたくなる二人。そんな二人の後ろ姿を見て、やってきた奴がいた。


「よぉ、ヤノカか!?」


「うわぁ誰!?」


いきなりやって来たのはあのランゲイジ。ヤノカに対して何も言われていない奴で、平民とかの偏見無しに話しかけてくる奴であった。


「俺はランゲイジ・ダスト!では殺しあおうか!」


「待て待て待て!馬鹿かお前!?やるなら試合で!いいな!?」


「お、サイか!すまないヤノカよ!では……決勝戦で会おう!またな!」


いきなり何か言いだしたランゲイジに対し、止めに入るサイ。そのままずるずると、自分の所属している学校の場所に引きずっていく。二人は会話の内容をかみ砕いていた。


「いや決勝で会おうって……。勝つ気満々かよあいつ。強そうなのは分かるが……」


「……」


「おいどうした?」


「あ、いや……。なんというか、だな。……気のせいだ」


サイと言う男に出会った瞬間、なぜか殺意が少し沸いた。なぜかは分からないが、少なくともただムカついてではないと分かる。しかしそれ以上に、気になる事があった。


「ねぇスターはどこに行った?」


「スター……。あっ、あの野郎どこに行きやがった!?現地集合だぞ!?」


「遅れる訳ありませんわ。と言うか、さっさと入りなさいな」


スターがどこにいるかと言う話。が、割とすぐ見つかった。既にそれぞれ分けられている部屋の中に、一人座りながらティータイムをしていた。飲んでいるのはお高い奴である。


「それで、一つ聞いてほしいことがあります」


「なんだよ」


「初戦の相手。ヤノカ?あなた一人だけで戦いなさい」


「はぁ!?なんでそうなる「いいよ!」っておい!」


それは、明らかに理不尽な感じの命令だが、一応スターには考えがあるようであった。と言うのも、彼女の中では平民の命令も指示も聞きたく無いのだ。


「そもそもなんでヤノカ一人でやらなきゃならないんだよ」


「えぇ。……私は平民の言う事を聞くくらいなら負けて構いません。ですが……。もし初戦をあなた一人で倒す事が出来たのなら、それ以降の試合あなたの指示に従って差し上げますわ」


「……」


フィルは何も言わずにヤノカの方を見る。ヤノカはやってやるよと言う感じの顔をしていたのであった。

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