第三十七話『次は二週間後』


「それで、なぜ来いと言ったのですわ?」


「まぁこれ読め。俺は寝る」


シャードは適当にそういうと、さっさと寝る。相変わらず掴めない奴だ……。と、とりあえず渡された資料(無駄にメルヘン)を読み込んでいく。


「……。地図だ」


無駄なページが多く、読み込むのも苦労したが、最後の最後にどこかへ向かう地図が書かれていた。しかしどこの何かはまるで分からない。少なくともこの町の中ではないようだ。


「そう言えば、どこで大会やるか言ってなかったね。ちなみに二人は分かる?」


「一応。ですがフィルの方が知っているのでは?」


「……そりゃな。ここ、俺の敷地内だ」


フィル、レギン・ド・フィルガ。彼の家はどちらかと言うと土地開発で大きくなった家。そんなレギン・ド家の作った凄い闘技場でやると言うのだ。なぜやるかは分からないが。


「それホント?なんで選ばれたの?」


「……俺の家にはお抱えの我流魔法使いがいる。その中の一人、『大地変化ドーン・バーン』なら、どれだけ派手にやっても簡単に作り直す事が出来るからな。しかしなんでウチで……」


その地は、フィルが幼い頃遊びに使っていた土地。デカい山も大きな池も、何でもかんでもぶっ壊していいと言われたので、もう幼い彼はメチャクチャにして回っていた。


「あぁ恥ずかしい……」


「何があったの?」


「色々……。グレる前にちょっと……」


顔を赤らめるフィル。かつての恥ずかしい光景が目に浮かぶ。何があったのかは知らない二人は、どうでもよさそうにその話を聞いて、返事を返していた。


「そうなんですわね。集合時間は再来週の十時、せいぜい私の為に頑張ってくださいな」


「お前……」


「当然!じゃあまたね!」


「お、おい!」


こうして分かれた三人。フィルは何故あの時ああ言ったのかと質問する。


「なぁ、なんでさっき当然とか言ったんだ?」


「そうだなぁ僕らは今仲間になったんだから、仲良くしないとね!それに、スターは僕がいない方が楽しそうだし」


結構気を使っているヤノカ。なんとなく理解はしているのだ。スターはヤノカがいない方が、楽しそうにしていると言う事を。それを知っているからこそ、距離を取ったのである。


「……そりゃ、スターとは仲良くしたいよ?でも、スターは距離を取ってるんだ。僕から。……僕が平民だからだよね」


とても寂しそうに、ヤノカは言う。フィルはその話を聞いて、そうだと頷くが、その後言葉を続ける。


「……だな。悲しい事に。俺はなんだかんだでヤノカ、お前って言う奴に出会えたから、平民も貴族もあんまり違わないんじゃないかって思えたが、他の奴らは違う。同じ家系に平民がいるならともかく、純粋に貴族として生まれた奴らは、平民を差別している」


「……だよね。でもなんで嫌ってるのかなぁ?」


「さぁな。案外、皆が嫌ってるからなんじゃないか?」


冗談めかすようにそういうフィル。流石にそれは無いだろうと少し笑いながら、二人はこれからどうするかと考える。


「二週間!期間が長いとやる事いっぱいだからな」


「そうだね。しかも授業もちゃんと行かなきゃね。えーっと二週間後は……休日になってるね」


「そりゃな。やっぱデカい学園だからな?普通ならさっきのアレでもいいんだが、今回は他校試合だ」


「みんなが見に来るって事?」


「そうだ。それに、あいつ……。今回はスターがいる。みんなこぞって見に来るだろう。……本来この休日は、学園に大会を視察に来る奴らの為にある」


「と言う事は……」


「今回、結構面倒なことになりそうだ」


そう言い終えると、ため息をつきながら歩く。どうせ禄でも無い事になる。フィルはそう考えていた。


実際、その通りだった。フィルの家に客がやってきていた。その男は、大量の現金の入ったバックを見せつけ、そして椅子に座る。


「さてと。お久しぶりですねぇ『フィルザ』さん」


「そうだな『ダラギッド』。それで何の用だ?」


「とぼけなくていいじゃないですか、我々他校試合に出場するのですがねぇ?地形を作るのはそちらじゃないですか」


「……」


「勿論タダでやれとは言いません。……ちなみに息子さんも出場するのでしょう?」


明らかに、脅している。暗に『協力しなけりゃ息子の命は無いぞ』と言っているようなものである。しかしその程度でひるむフィルザではない。


「貴様らの強さは知っているが……。なぜ未だに案山子を雇っているのだ?」


「……。何分経済難でね、雇う金もないのさ」


「ほぉ、私に買収を仕掛けておいてか?」


もうフィルザのペースである。煽りあいでレギン家に勝てる奴がいないくらい、相手を知り、そして畜生なまでに煽り倒す。それが彼らの戦い方。


「……いいんですよ?土地を値上げしても」


「されたところで、買わないだけですよ。それに……最近はあなたの土地も無くなって来ましたよね?」


「……。そうですか」


青筋を立てながら、事がうまく運ばないことに苛立ちを隠そうともしないダラ。これはもう無駄だと帰ろうとする。しかし、フィルザは帰ろうとするダラの背中に言葉をかける。


「ただ、今回はね。あえて乗りましょうその手に。金は要りません、サインをしていただくだけですよ」


「何?本当ですか!」


そういうと、ダラはサインするようにと命じられた紙に、サインをしていく。フィルザからすれば、これもまた試練であると考えたのだ。


(いずれフィルガは、このレギン家を受け継ぐ。ならばそれまで精神面も肉体面も成長させるのが親の使命。……。脅威に追い込まれても、それを跳ね除ける力を得たいものだ)


「それでどのように……」


「あぁ、では帰れ。こちらで全てやっておきますよ」


そういうと、フィルザはどこかに伝書鳩を飛ばすのであった。

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