第三十六話『可愛い?可愛くない?』


「なんだ!?あっセカンドナンバー・ツインだ!」


「誰?」


「げ、可愛くないのが覚えてる……」


相変わらず、可愛いか可愛くないかで全てを決めている女である。しかしそれが言えるくらいには強いのだろう、何か反応する前に、ツインはサイコロを取り出す。


「なんだ?」


「出た目で勝負、『乱数次第ダイス!』!」


そういいながら、サイコロを三つ投げるツイン。余りの事に手が出せないでいる二人。そして賽の目は合計で八を出していた。


「八かぁ……。ま、いいや」


そういうと、ヤノカに対し鋭い打撃が襲い掛かる。だが誰も攻撃してきてはいない。なんだと思っていると、再び賽を取って投げる。


「さっきのは……。あれか!」


「わかっても……、遅いんだよね!」


再び賽を転がし、今度の出目は合計十二。するとヤノカに向けて、地面からツルが襲い掛かってくる。何とか防御したが、クロクを破壊しかねない威力があった。


「要はサイコロを振らせなければ……」


「ダメダメぇ~。一度転がした運命からは逃げられないんだよ」


サイコロを手にしようとするが、賽はヤノカの手をすり抜けそのまま地面へ。どうやらサイコロはほぼほぼ意味のない物であるようだ。そして最悪な事に、賽の目はなんと全て六の目を出した。


「……十八?」


「な、何が起こるんだ……?」


「あっヤバい」


十八と言う、普通なら最高の出目が出たのに対し、なぜかやらかしたと言うような表情になるツイン。なぜそんな顔をするのかと思っていると、異変はすぐに始まった。


『な、なんだァッ!?』


『ありゃ隕石ですね。落ちてきます』


解説席から冷静に判断するシャード。慌てるカマセ。なんと学園全てを破壊しかねない隕石が降ってきたのである。疑似的に再現していなければおしまいであった。


『さて、どうしますかね?』


『そんなこと言ってる場合かぁ!?全滅だぞ!』


『アレから生き残った奴が勝ちに決まってる』


だが、中にいる生徒たちは命の危機。全滅もあり得る話である。ヤノカは全てのクロクを出し、防御しようとするが、明らかに無茶な大きさである。そんなとき、隕石に突っ込む男が一人。


「フィル!?」


恐らく我流魔法を使ったのだろうか、凄まじい勢いで隕石に飛んで行くフィル。そしてそのまま隕石を砕いた……が、破片の勢いは止まらない。むしろ余計に被害が出そうである。更にフィルはそのまま落ちていく。アレでは助からない。


「あいつ余計に被害を出してないか!?」


とはいえ、まだ防御出来そうなくらいに小さくはなった。ツインはサイコロを転がし続け、リルは何かを考えた後決断した表情で、面を張る。


「リル?」


ヤノカの周りにである。


『あぁ着弾したぁ!!』


『……さて、どうなるやら』


隕石が着弾して、すぐに見える範囲に、立っているのは三人。スター、ツイン、そしてヤノカ。だがヤノカは明らかに理解が出来ていない様子であった。


「リル……?」


何故リルが自分を守る様に魔法を使ったのか。


「リル!?」


隕石が着弾し吹っ飛んだリルの元へ走るヤノカ。この怪我では明らかに脱落であろう。だが気絶するまでに、ヤノカはリルに何故守ったのかと聞いた。


「なんで……」


「……ごめん。なんか……使ってた」


そういって気絶するリル。観客の誰もがこれでメンバー選出かとそう思った瞬間、十の目を出し壁を出して生き残ったツインは、ヤノカにぎりぎり聞こえるくらいの声量でつぶやいた。


「なんで可愛いのがやられて、なんで可愛くないのが生きてんの?」


その瞬間、ヤノカはキレた。何様のつもりだと、ブチ切れながらツインに殴りかかる。


『あぁ!?三人になったのに何で殴りかかってんだあいつ!?』


『……』


訳の分からぬ魔法で無差別に被害を出し、その上自分の言っている可愛い物に攻撃をする。これのどこが可愛いのだろうか。普段怒らないヤノカが、珍しくブチ切れていた。


「何が可愛いだ!?お前のどこが可愛いんだ!?」


『感情的になっているのかぁ!?アレじゃ残ったとしてもメンバーに入る訳がない!』


クロクを使い恐ろしい程の打撃を、何度も繰り出していく。ツインは薄れゆく意識の中、賽を振るう。そして最後の一撃が顔に叩きこまれた時、サイコロの目は全て一を指していた。


「ねぇ……私、可愛い?」


「……いいや。全くだ」


血を吐きながら気絶するツイン。そして生きていた者たちがグラウンドに召喚される。


「ん、終わりましたか?」


寝ていたスターが目を覚ます。続いてやってきたのはヤノカ。だがそんなヤノカを煽り立てるカマセ。


「おい平民!三人で決着したのに何で続けた!?僻みか?我流魔法を持ってる奴らへの僻みかぁ~?そんな奴選抜メンバーに入れるわけにはいかない!帰れ帰れ!」


観客全員ヤノカに対してブーイングをする。明らかに平民差別である。だがそれをシャードが止める。理由は単純、うるさいからである。


「黙れ。お前らは目が見えないのか?」


「な、何を言うんですかシャード!あぁして生き残ったのが三人……三人?」


それは、自然と口から出た言葉であった。普通なら、三人いた状況から一人倒れたのだから、当然二人になっているはずである。しかし確かに三人いるのだ。


「え?」


「そもそも、三人になっていたのなら、その時点で俺が止めている。あいつはまだ終わっていないと判断したから殴りかかったんだ」


「え、じゃ、じゃぁ……」


そう思っていると、なぜか一緒に飛んできていた岩を破壊して、ボロボロなフィルが起き上がってくる。


「ぐぁっ!はー……。ここぞの為に我流魔法取っておいてよかった……」


あの、隕石を破壊した時。実は身体強化ではなく、二段階目の強化魔法を使っていたのだ。しかしそれでも貫通せず、ただ壊すことしかできなかった。墜落するフィルは、ここぞの時にとっておいた身体強化を使い、落ちてくる隕石を破壊しながら生きていた。


が、最後の最後で隕石の破片の下敷きになってしまった。それでもしぶとく生きていたのだ。潰されないようにと何とか必死に抵抗しつつ、ギリギリまで生きていた。


結果、最後まで立っていた。


「えーっと……どういう状況?」


まだ戦いが続いていると思っているフィルは、一瞬身構えるがすぐにそうじゃないと判断する。ただまだ、状況は呑み込めていないようであるが。


「あっヤノカにスター……。って事は俺勝ったってこと?」


ヤノカはともかくスターがいると言う時点で、ここが勝利者の立場にあると確信するフィル。


「さてと。節穴のお前らにも伝わるように言ってやるが……。勝者、『ポラリス・スターロード』!『レギン・ド・フィルガ』!そして『ヤノカ』!この三人だ。お前ら、後で第一教室に来い」


そういうや否や、一人影に入りどこかへ去っていく。三人は顔を見合わせると、とりあえず言われた場所に向かうのであった。

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