第三十五話『周囲半径全て敵』


「なんか僕狙ってくる奴多くない……?」


ヤノカは向かってくる奴ら全員叩きのめしながら、外に出ようかと思っていた。だがなぜかガラスは割れず、人は増えるばかり。ちょいちょいゾンビが混ざっていたが、腕を折って武器にしながら戦っていた。


クロクを使う事もせず、多数の敵がいながら一対一になるよう戦っていた。この辺はヤノカ自身の強さである。そもそも五分間しか使えないのだ、そうなるのも仕方ない事である。


「と言うかビゾンいるな?無駄に密集してるのはそのせいだな……。よし、まずビゾンを潰そう」


ヤノカは、ビルでの攻防にてビゾンの厄介さは理解していた。アレは集団戦で強さを発揮する奴だと。なのでクロクを切ってでも、真っ先に潰しに行く価値があると、そう判断したのだ。


「『出入禁止フラットゾーン』……。入ったが最後出れねぇぜ」


「そしてそこに私のゾンビを送り込めば!平民も倒されるって言う寸法よ!」


『バルビン・ルベルベン』。彼の我流魔法は出入り禁止と言っておきながら、出ることも入ることも許可さえ出せば自由に決められる。今は入ることを許可している為、人ばかりが増えていく。


別に、最初から倒せるなんて思っていない。なのでこの校舎に人を集めまくり、質量で潰してしまおうと言う作戦である。確かにそれがこのバトルロイヤルと言う場面で、最大の武器となるだろう。


ただし、出れる者だけ指定して、出れる物を指定していなかったのは怠慢と言った所か。窓から見えた二人をみて、間違いなく入らない二人が何かをしているのは確実、更に言えばビゾンの顔は覚えている。


「これであいつも確殺よ!じゃ死ねっ!?」


頭にクロクを叩きつけられ、倒れるルベルベン。何事だと見た途端、窓ガラスを割り出てくるヤノカ。意味を理解し逃げようとするが、クロクを全身に叩きつけられ気絶。あえなくリタイア。


「一回クロクを使っちゃったら、もう使い続けるしかないね」


五分で消えると言う制約上、一度出してしまったらもうひたすら使うしかない。ぶつけ、刺し、倒して気絶させる。クロクの射程内に入った瞬間、攻撃を恐ろしいスピードで当てられる。


「おい何とかしろよお前!」


「無理だろ!俺の我流魔法はああいうのに強くないんだよ!」


そして、今まではヤノカが共通の敵だったから共に戦っていたのだが、明らかに状況が悪くなるや否や、仲間割れを始めていく。だがそこにとどめを刺しにやってくるリル。


「『線刃弦せんばつる』」


ヤノカから逃げようとする奴らを、線で囲い切り裂いていくリル。如何に同室の、普段よくしてくれている友達とはいえ、こういう場面では容赦しない。


「……」


「言葉はいらない?」


「ん。ろ」


互いにファイティングポーズを取ると、即攻撃してくるリル。点と点を結べば、即座に攻撃に移れるので、拳を握った体制でヤノカの脳を貫こうとする。


「そのくらい……。見てるよ!」


ヤノカはそれをしゃがんで避けると、背中にクロクを集め、低空姿勢で飛んで行く。しかしリルは防御を選び、線と線を繋いで面にする。かなり強固な壁と化し、ヤノカのタックルを事前に防ぐ。


「……。こっちも」


「そうだね!でも……。僕も視線外からの攻撃なら出来るよ!」


背後から突き刺すようにクロクを動かす。リルは後ろを少し見ると、点だけで防御をする。点が弱いが遮蔽物程度にはなる。クロクを防御したと確信し、そのまま攻撃に移る。


「『火の二重魔法ニ・フレア』!」


我流魔法ではなく、あえて普通の魔法。これに不意を突かれたヤノカは顔を焼かれるが、意に介さず接近する。ヤノカは覚悟を決めていた。恐らくこの状況で、避けられない攻撃をしてくるだろうと思っていた。


「なんで?」


「気合!」


「?!」


気合ガードに驚いたのか、一瞬緩む面。それを見逃さず、ヤノカは拳を叩きつける。クロクを密集させていたので、更に威力は上がる。


「ぐぅ……っ!」


思いきり吹き飛ぶリル。顔に傷が付くが、その目から闘志は消えていない。むしろより高まっていた。


「まだやれるよな?」


「勿論……!」


「上々!」


クロクを使い四方八方からの攻撃、そしてヤノカ自身も肉薄しようと走る。リルはクロクを点で潰しながら、受け止めようと線を発動させていく。


「真正面だぞ!」


「……来い!」


小細工などいらぬと、真っ向勝負を選んだリル。クロクを体に纏う事で、更に加速していくヤノカ。リルは拳に面を乗っけることで、その攻撃を受けようとしていた。


「沈める……!」


「やってみろ!」


だが、その拳が着弾する事無く、何かが間に入ってくる。それはジャンガルグ。まさか邪魔しに来たのか?と思ったが、既にボロボロにされていることから、誰かに投げ込まれたであろうと言う事が分かる。


「ジャンガルグ!?」


「あっ粉々……」


それはそうとジャンガルグは死にかけていた。大丈夫ではあるが、ここまでひどい一撃を、モロに食らったとなるともうダメそうである。しかし誰が投げたんだ?と思っていると、リルの方に誰かが着地する。


「私の可愛いに何してんの?」


それは、セカンドナンバーだった。

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