第三十四話『素手VS魔法』


「中々威力が高いんだなぁ!」


 通常魔法をドラの我流魔法、『上方修正アップグレード』で強化して放ち、近寄られたら『転移魔法テレポート』で逃げると言う、強いと言うよりウザイと言った感じの戦法で戦うドラ。


 フィルはと言うと、放たれた素手で魔法を弾きながら近寄り、攻撃を当てようとするが逃げられると言う感じである。いくら鍛えているとはいえ、何十回も繰り返せば疲れがたまる。


 ではドラはどうかと言うと、魔力が尽きそうになったら回復薬で回復、そしてまた射撃……と、フィルの体力が無くなるまで戦おうと言うのだ。なお他の奴らは校舎内へと向かっている。


「なんか校舎内に行く奴多くない?」


「おい隙を見せたな?」


「その程度で隙ならお前死んでるよ」


 校舎の方を向くフィルに対し、ドラはブチ切れながら接近してくる。この男、ナメられると言う事を極端に嫌い、つい頭に血が上ってしまった。その結果フィルの裏拳をモロに食らい、派手に吹っ飛ぶ。


「鼻から血が……ッ!」


 だがそこで終わらないのがフィル。再接近すると、再び鼻っ面に殴りかかる。今度は普通のパンチだが、先ほどの裏拳より威力は高い。鼻っ面をへし折られ、鼻を抑えるドラ。


「正拳突きのが威力高いんだぜ?」


 これに怒り狂ったドラ。魔法を上方修正するのではなく、自らを上方修正することで身体能力を上げ、フィルに殴りかかる。


「死ね!」


「おっ、早い!」


 と言いつつ、平然とその攻撃を受け止めるフィル。普通に攻撃をいなすその姿は、だれの目から見ても遊ばれていると言った感じであった。観客もこれには苦笑い。


「フーッ!フーッ!」


「で?」


 煽る煽る。冷静さを欠けさせる事で攻撃の腕を下げる、相手が人間で、思考をする場合なら誰でも使う戦闘手段である。無論、使わずとも勝てそうだろ、と言いたくなるが、対戦環境が違う。バトルロイヤルで勝つには、如何に被弾と疲れを最小限にして倒すか、と言うところである。


「もうこの後の事なんか知るか……!ぶっ殺してやる!」


 ここでドラ、怒りの三連続強化魔法を発動。フィルですら滅多にやらない三回もの強化魔法。使えば肉体に恐ろしい負荷がかかるからである。それを上方修正で強化して、更に放つと言うのだ。


 恐ろしい程強化されている。蹴り一つでフィルの体を吹き飛ばすと、更に追撃をしようと着弾した壁に飛び込む。多少壁に叩きつけられたフィルだが、更に攻撃は続く。一方的に殴られている。


「いてぇなぁ……」


 五分間の連撃から、フィルは何とか生存していた。ただ明らかに服はボロボロ、呼吸も乱れていた。ドラは勝ち誇ったようにしゃべり始める。


「お前が俺に勝てると思っていたのか!?」


「それで……。全力か……?」


 地面に倒れたまま、フィルは問う。ドラはそんなフィルを見下しながら、バカにしたように喋り続ける。


「平民も!平民と仲良しこよしのお前も!最初から気に入らなかったんだよ!」


「そうか……。ま、俺の気持ちなんか、弱いからって十二代目になったお前には、わかんないんだろうな」


 ここでフィル、ドラに対し痛恨とも言える煽りを放つ。ドラの兄、ビルは、とっても強かった。我流魔法は『倍加ダブルアッパー』と言う、単純明快に弟の上位互換。ただ強化するだけの魔法ではなく、何度も強化出来ると言うのだ。一回しか強化出来ない弟は、それはもうバカにされていた。


 そんな折、兄がこう言った。


『俺家に興味ねぇからお前がこの家継げよ』


 それは、プライドだけは高いドラにとって、最悪ともいえる一言であった。マ・マジカ家では双子が生まれた際、この家では代々家を継ぐ為に戦うのだが、どうせ戦っても俺が勝つし……。と言う感情、つまりは憐れまれて譲られたのだ。


 その結果、ドラは拗れた。兄にコンプレックスを抱き、ついでに平民を嫌うようになった。ビルは平民に優しかった。と言うかすべてを見下していたので、平民も貴族も同じやんけ……。と言う思考なだけであるが、兄に関係するものすべてが嫌いなドラは、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと言わんばかりに平民を恨むようになった。


「うるせぇんだよぉカス野郎がァッ!」


 顔面を捉えた打撃。それが命中した瞬間、勝ったと確信したドラ。だがしかし、そこにフィルの姿は無かった。どこに行ったと顔を上げた瞬間、自分が椅子のように使われていることに気が付く。


「お前、椅子としちゃ使い勝手があるな」


 フィルに座られていることに気が付いたドラは、思いきり腕を振って殴ろうとする。しかし余裕で避けられ今度は机にされる。しかもご丁寧にどこから持ってきたのか、レモンティーを飲みながら一服までする始末。


「我流魔法を使ったのかぁ?!」


「いいや?」


 辺りを破壊しまくるドラに対し、フィルは真っすぐ心臓めがけ、拳を叩きつける。その瞬間、心臓は止まり意識を失う。そして倒れたところで、反対側から殴って意識を取り戻させる。


「これは第一強化魔法を使っただけだよ」


「ハッ、ハッ、ハッ……。俺が……。負ける?」


「そうだ。お前は我流魔法を使ってない俺に負けたんだよ」


 フィルは、あの時ヤノカを平民呼ばわりされた事に結構怒り心頭であった。だがそういう思考もあるかと、調べるまでは思っていた。調べれば特に理由もなく、ただ兄が優しくしていると言うだけで恨んでいると言うのだから、少し頭に来たのである。


 だからこうして、完全なる敗北を与えようとしていた。


「魔法なら……。魔法なら負ける訳ねぇんだよ!」


 そう言って魔法を放つが、それすらフィルに押し負ける。別に魔法が使えない訳じゃない。使っても旨味がないだけである。


「お前。何が強いの?」


 完璧に負けていると言う事実と、一度は殺されたと言う敗北を味わいたくないドラは、その言葉を聞いた瞬間気絶する。脳が理解を拒み、思考したくないと考えたからである。


「ま、強くなりたいなら鍛える事だな」


 そう言いながら、疲れたので少し座るのであった。

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