第三十話『出来る事、出来ない事』
「まぁ、警察署に名前を言ってきたが……」
「スターが来た」
「そうか。……なんか言われたか?」
「……僕は、手の届く皆、救おうとしてたんだ」
フィルが帰ってきたところで、恐ろしく部屋の空気が重苦しくなっている事に気が付いた。何があったのかとリルに問うと、ヤノカは一人喋り始めた。
「僕には、それが出来ると思ってた」
「……それがクロクになった理由か?」
「……違う。僕は……何の理由もなく、誰かを救ってた」
そもそも今活動しているクロクと言う名前自体、他人から勝手に付けられた名前なのである。つまるところは、彼はヒーローになりたくてなったわけじゃないのだ。
「自惚れてた。僕ならだれでも助けられるって、そう思ってた。でも違った。助けられない命があった」
「色々言いてぇんだけどよ。理由いるか?誰かを助けるのに」
「……むしろ今は、理由が欲しいよ」
かなり参っているようである。ただスターに言われたことはちゃんと理解しているようで、
「でも僕はクロクなんだ。みんなヒーローを待ってる」
「そうだな」
「だから僕は、もうだれも見捨てない。この手で守れる範囲にいるなら、誰だって守って見せる。……もう奪わせない」
ヤノカはヒーローであろうとしていた。
「……俺はな、クロクじゃないお前も好きだぞ」
「……ありがと」
そしてもう大丈夫だろうと考えたのか、フィルは部屋に帰りリルも自分の部屋に戻る。ヤノカは一人だけの部屋で、一人眠る。なお授業は欠席した模様である。
一方警察では、既にガイカクノガラの指名手配が始まっていた。警察もその名前は知っていたので、半分程自覚ありと言う感じである。頭を抱え嘆く警察の面々。
「奴か……。動機もあるし犯行を行う理由もある、しかも肉体を変化させる我流魔法を持っていると来れば、間違いなく……。だろうな」
「しかしどうやって探します?実際問題奴の魔法で肉体を変えて、能力を偽ればどうやっても判明出来なくないですか?」
「……アレを使う。『
「なんですかそれ?」
仰々しい雰囲気を醸し出しながら取り出したのは、手に付けるタイプの機械。これを使う事で、なんだかんだあってどんな我流魔法を持っているかを見る事が出来ると言うのだ。
「ただこれ最近発明されたし、正直不具合も凄いが……。まぁ、無いよりマシだろう」
今から大体三年前くらいに作られた機械。ただ普通に使いにくく、二度三度使っても判明しないときもあると言う、まぁハッキリ言ってアレな機械である。
「大丈夫なんですか?それ」
「とりあえず一回図ってみるか?ちなみに私がやったときは我流魔法を持っていないと言われた」
「無能では……?」
「数はあるから安心しろ」
それ以来街にコレが付けられることになった。ほぼ使われることは無かったが、ある一か所の機械が破壊される事件があった。そこはスラム街少し前あたりにある店屋。
この町にもスラム街と言う場所があり、この町に来たはいいが、結局あぶれた我流魔法使いや、そもそも魔法を持っていない奴がくる場所である。お世辞にもいい場所と言う事は出来ず、十人いたら十一人があの町はクソ呼ばわりするくらい、ひどい場所である。
「クロクすら来ていない場所か……」
「一応一回行ってみたことはあるようですが、最低でもここ少し前で炊き出しするくらいしか、関わりを持っていません。中で起こる事件は我々も口出しできないのです」
「マジ?そんなひどいの?」
「ええ。……って誰だお前?!」
そんな二人の会話に、シレッと紛れ込むスラム街に住んでいる男。凄い面倒くさそうな顔をしている。関わり合いになりたくない人間性をしている奴が多い。
「ここに入りたい感じ?やめとけ警察の兄ちゃん!最近来た化け物が居座ってんだよここにゃ!」
「……。化け物?」
「なーんだ知らねぇでやんのか?あー名前なんだっけなぁ……。確か『ザン』とかいう名前だったかなぁ」
なんというか無駄に喋る喋る。話を聞くだけで嫌になってくるが、ザンと言う名前は聞いたことも、住民表にも書かれていない。つまりは偽名を使っていると言う事。
「ザン……。苗字は無いのか?」
「無いな。興味もねぇし。それより情報提供したから鐘くれよ!」
「ほらよ」
一応情報提供してくれたので、男に小銭を投げ渡すと、応援を呼ぶため一度警察へ戻る。
「で、スラム街に何かがいると……?」
「そうだ。そうらしい」
「みたいだな。もしかしたらガイカクノガラかもしれんぞ」
「だがあのスラム街に入るとなると……。それなりに数が必要になってくるな」
スラム街の謎の男、ザン。一体何者なのかは分からないが、少なくとも事件に関係がありそうだと言う訳で、調べることにした。
それはそうと、昨日のゼロの死体についてどうするかと話し合う。
「そういえば昨日の事件もガイカクノガラがやったんですかね?」
「だろうなぁ……。だがそれにしては死体が変なんだ」
「変?」
「ゼロ、本名『ウベリ・ジャック・バル』。彼は……。頭部を撃たれて死んでいた」
「撃たれて……か」
「だが銃弾はどこからも検知されなかった。……これがどういう意味か、分かるか?」
「……今回の犯人はガイカクノガラではない……?」
謎について調べるほど、謎が深まるばかりである。
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