第二十八話『ゼロ番目の悪意』


「あー……ファン?」


「その通り!俺ちゃんはァ……あんたに会いたくて犯罪してたんだよなァ!」


「じゃあ警察行こうか……」


 色々と言いたいところはあるが、とりあえずクロクで出来た手錠をかける。何が起こったかわかっていない表情で手錠を見た後、全力で驚愕する。


「えーッ?!なんだってェ!?」


「いやその……。言っちゃ悪いんだけど……。犯罪だし……」


 至極まっとうな事を言い出すクロク。しかしシレっと手錠から抜け出ると、カメラを取り出し顔を無理やり近寄せ、写真を撮る。無駄にゼロはいい顔であった。


「おい」


「じゃあなァ!」


「なんなんだよあいつ……」


 今度会ったら絶対に捕まえてやろう……。そう確信するヤノカであった。その後はそろそろ時間なので、飛んで学園に帰る。相変わらずガバ警備な学園である。


「ほぼ毎日、俺はここから出てってるけど……。出てって大丈夫だったんかなぁ?」


 そして仮面を取る。目の前にリル。


「……あ」


 寝ているならともかく、結構ガッツリ見られてしまっている。しかも仮面を取るところすらも見られた。完全にフリーズしているリル。今日に限って間違えてしまった。


「……」


「あー……。偽物だよー」


「……クロク?」


 モロバレ。全バレ。まさか本気でやらかすとは、一遍も考えていなかった。フィルすら考えていなかった。この状況をどうするか、思考を駆け巡らせていた。だがそのうちリルが口を開く。


「……ヒーロー……?」


「スー……。あぁ」


 もう誤魔化す事は不可能!そう判断したヤノカは、全てを打ち明けることにした。リルは以外にも、それを全て受け入れた。そもそもスターのような狂信者ではなく、『クロクってヒーローがいるんだ』程度の認識であったが故の反応である。


「ふーん」


「まぁなんだ……。黙っててくれない?」


「いいよ。別に気にしてないし。それよりご飯」


 だから、ひたすらマイペースである。今日の夜食をもきゅもきゅと食べながら、どんな事をやってきたのかと質問を投げかけるリル。それに対し、色々な事を事細かに教えていくヤノカ。


 二人の会話は、その後眠るまで続いたのであった。


「さァて」


 一方ゼロはと言うと、初めて出来た推しとの写真に、ウキウキで路地裏を歩いていた。人気の無い場所だが、向こうからある爺さんが歩いてきた。別に気にする事でもないと素通しようとして、ふと気が付く。


「あ?お前どっかで……」


「……」


 ゼロはその顔を見たことがあった。どこで見たかと言われると、思い出すことは出来ないが、確かにどこかで一回見たことがあったのである。なので確認するため近くに寄るゼロだが、急に爺さんがその見た目に見合わない動きを見せる。


「あァ!?」


「この『ボディ』を見たことがある奴がいたのか……。他に人もいねぇしなぁ」


「お前ただのジジイじゃねぇなァ?」


 急に後ろに回られたゼロは、得意の瞬間移動で逃げようとするが、身体能力のみで対応されてしまう。そのまま地面に倒されると、あっさりと両手を切り離される。


「ギ……ッ!」


 だがそれでも、何とか足で馬乗りになっている爺さんを蹴り飛ばすと、そのまま逃げる。明らかにあれはジジイではなく、中に別の人間がいると、そう判断したゼロ。


(あれは……ナニだ!?)


 両手は最悪元に戻す事が出来るが、命は戻らない。それを知っていたからゆえの、全力逃走。しかし、爺さんは我流魔法を発動させる。指から空気弾を放つ『空気銃エアガン』と言う我流魔法。


「カッ……」


 撃ち抜かれたのは脳天。即死である。ゼロは死ぬ間際、クロクにこの爺の事を託すことに決めた。誰かがこの爺さんを殺さなければならない。即死してなお、体が本能で動き血で出来た文字を作る。


「無駄なことを……」


 と、消そうとするが瞬間的にクロクがやってくる。普段使っている羽ではなく、クロクを集めて手を作る『人之腕』を発動させ飛んできた。普段はよっぽどの事が無ければ飛んでこないが、ちょうど監視していたところに犯人が現れれば、すぐに飛んでくる。


「げっ」


「この……クズ野郎!」


 人之腕で爺さんの顔面を殴ると、そのまま全身を手で拘束し全身をタコ殴りにしていく。一発一発が肉を凹ませ骨をへし折る程の威力。だが殴り飛ばした後、そこにあったのは老人の皮だけであった。


「何ッ!?」


 奥を見ると、何か逃げていく影を見つける。しかし追うには時間が足りず、倒すには射程距離が足りない。仕方ないのでゼロの遺体を回収することに。


「……」


 ヤノカは、このゼロと言う男の事を嫌いではなかった。犯罪は当然いけないことであるが、それはそれとして自分の為に動ける人物は凄いと思っていた。


 それがゴミのように殺された。歯を食いしばり止められなかったことを悔やむヤノカだが、ここで血で出来た文字を発見する。


「ガイカク……ノガラ?」


 それは誰かの人名。誰かは分からないが、少なくとも無駄な文字ではないだろう。


「……今度、調べるかな」


 それだけがゼロに対する手向けになると、考えたからである。

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