第二十七話『他校事変』


「さて……」


 ここはヤノカがいる学園とは別の場所の学園。名前は『心窩シンク学園』。そこの校長室に、三人の生徒が呼び出されていた。当然今回の他校試合に参加する者達であるが、何やら物々しい状況であった。


「今回、平民がこの大会に出るかもしれないと言う話だ」


「何それ?最悪」


 まず初めに校長の会話に反応したのが、今回他校試合に参加することになった一人、唯一の女子学生である『ワグナス・ダスター・O』。平民と言うワードを聞いて、明らかに嫌そうな表情をする。


「で?」


 二人目は、それを死ぬほどどうでもよさそうな表情で聞いている男。ちなみに名前は『ジャクサ・リッド・ゲン』。どうでもいいが今日の夜飯はチキンカツと決めている。


 最初から平民と言うワードで判断するのは、一人だけだろうと思っていた校長は、完全にやる気になるようにと、ある単語を切る。


「とりあえず、平民はともかく優勝したなら、貴様ら三人の学費を免除しよう」


 その単語に一人が反応する。今まで全く興味なさそうに話を聞いていたが、その一言に動揺すら覚えたらしい。名前は『ブリッジメン・ズ・カルヴァル』。


「……本当に免除してくれるのか……?」


「私に二言は無い。約束しよう」


 これが一日前の話。今は違う。まず一つ、この学園にいる奴らが三人を残して病院送りにされたと言う事。そして二つ、残されたのがやや不安と言う言葉で表せないくらいに、やばい人材であると言う事。


「ワグナスは無事だったか……」


「えぇ。おかげさまで。ところで何があったの?」


 そう聞くワグナスの後ろから、校長室のドアを破壊しながら入ってくる生徒一人。その男の名前は『サイ・ピリオド・ゴー』。


「まぁまぁ、そうかっかしなさんな校長さんよぉ……」


「……サイか。一体何を……」


「何を、って。この学園にいる奴、この隣にいる奴と、あと俺が選んだ奴以外参加券すらねぇって言ってんだよボケ」


「まさか病院送りにしたのは……」


「そ。俺だよ。いいだろ?俺を平民狩りに参加させろよ……。聞いてたんだよなぁ?」


 このサイと言う男、恐ろしいことに、今回の他校試合に参加するために、他全ての生徒を病院送りにしたのである。しかもそれを悪びれる事すらしていない。


「私は賛成ですよ。ここまで目的の為に非情になれる奴は、今時珍しいですから」


「……それは別にいいのだがな?もう一人がいない」


「あっ遅れましたぁ!……。ってあれ?もう話し終わってました?!」


 サイの入場から遅れて入ってきた男、彼こそが生き残りの一人である『ランゲイジ・ダスト』である。むしろほぼ返り討ちにしているくらいの強者だが、シンプルに強い奴と戦いたいが為にこの学園に入ったと言う奴。


「それで何をすればよろしいんでしょうかぁ!?」


「敬語いらないよこんなのに。それより今回、俺らが他校交流試合に参加することになったんだよ」


「……へー。それって強い奴と戦える機会って訳?」


「そういうことだ。やるだろ?」


 どうやら友人らしいので、ワグナスが二人の関係性を問う。


「友達とかか何か?」


「いや?」


「昨日会ったばかりだけど?」


 出会って一日でこれと言うのは、仲がいいのかそれとも陽キャなのか。何はともあれ、参加すると言うなら文句は無いし、狙いはヤノカ一人。それさえ殺せれば誰でもいいのだ。


「よし。とりあえず大体二週間後だから、一週間で準備をして来い。あの学園に行くぞ」


 このダストと言う男、こいつには詳しい事を話すと、言う事を聞いてくれない気がするので、二人にだけ平民抹殺命令を下し、準備を一任させる。


「……しかし、サイと言う男はあんな性格だったか……?」


 首を傾げ、サイと言う男がどういう男だったか思い出そうとする校長。しかしよく考えてみれば、まるで話し合ったこともないのに分かる訳がないと、考えるのをやめ準備に入るのであった。


 一方のヤノカは、今日もパトロール。と言っても今日は全く事件のない、平和な一日であった。と言う訳で、今日もとりあえず困ってるやつを助けることにした。


「大丈夫ですか?」


「あっすみません!ついでに手伝ってください!」


「あっ良いですよ。それで何をすれば……」


 今日は手が足りない店の手伝いをするようであった。


 しばらく店員として働いていると、何やら変な男が話しかけてくる。よく顔を見てみると、それは巷で噂になっているゼロという男であった。


「これ持ってねェ」


 スッと紙を差し出すと、そのまま帰っていく。なんだ?と思ったが、今は仕事中、気にしないふりをして仕事を続ける。そして終わった後、紙を開いてみる。中にはこう書かれていた。


『路地裏来て?』


「……」


 色々言いたいことはあるが、一回行ってみる事にした。しばらく歩いていると、ヤノカに似た仮面を付けた奴がいた。


「俺がゼロだよォ」


「そうか……。なんで泥棒なんかしてんだ?」


「そりゃァ……。あんたに合うためだよォ!マジで会えるなんて思ってなかったがなァ!おい記念写真クれよ記念写真!」


「は、はぁ……」


 厄介ファン、本人との出会い。紛う事無く、本人その物であった。

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