第二十五話『乙女心は彼には永遠にわからない』
「大丈夫?」
「わ、我はも、問題ないぞ!……。と、ところで、どこかで休まないか……?」
(アレを食いきるか……。頑張ったなぁリジュ。まぁ死にかけてるけど)
店に入ってから三十分後、リジュは死にかけながらもパンケーキを完食した。なおヤノカは十分もしないうちに完食していたが。フィルはそれを見届けた後、どこに行くのか観察する。
「そうだね。それでどこに行こうか?」
「そ、そうだな……。一度我の部屋に向かわぬか?」
どうやら寮に帰るらしい。そういえばリジュは誰と一緒の部屋なのか、二人とも知らない。服を持ち帰りながら部屋に入ってみると、そこにはアルカの姿が。
「げっお前は……」
「お~。お二人さん、あとヤノカ。宇宙と交信しましょう?」
「なんで僕だけ?」
名指しで呼ばれるヤノカ。彼女曰く『最も宇宙と近い生き物だ』との事。どういうこと?と聞いても何も答えないので、とりあえずフィルが参戦、外に連れ出すことに。
「おぉ、フィルか。なぜ私は引きずられているのだ?」
「いいからこっちに来い!そしたら宇宙との交信でもなんでも手伝ってやるよ!」
ずるずると引きずられるアルカを尻目に、部屋の中にはリジュとヤノカの二人だけになる。ヤノカはそれほど気にしていないようであるが、リジュは勢いで男の人を連れてきたことに、若干狼狽えている様子であった。
「なんで今フィルがいたんだ?」
「そ、それよりも何か飲むか?!お茶ならあるぞ!」
「あぁ、僕が用意するよ。座ってていいよ」
「い、いや!ここは我の部屋なのでな!我が茶を用意しよう!」
リジュが茶葉を用意している間、ある事を考えていた。それはヤノカが自分に対して、恋愛感情を持っているか否かと言う事。ハッキリと言うが、リジュはヤノカに対して恋愛感情を持っている。片思いと言う奴だ。
(……。私がヤノカの彼女になっていいのかな……)
片思いであるから、こういう不安感が出てくるのは当たり前。この際直接聞いてしまおうという魂胆である。とは言え直接聞くのも怖いので、回りくどく聞くことにした。
「な、なぁヤノカ」
「どうしたの?」
「……その、ヤノカは我の事をどう思っている……?」
お茶を渡しつつ、とりあえずそれとなく聞いてみるリジュ。ヤノカはそれに対し、少し考えた後、やや笑いながらこういう。
「そうだなぁ。……可愛い妹かな」
「……そうか。……そうだよな」
いたたまれなくなった空気に、隣で聞いていたフィルが乱入!とっさに防御したヤノカを貫き部屋の外に。ついでにアルカも部屋に戻り、何事もなかったかのように茶を嗜むのであった。
「あのさぁ!?いやお前にとってそうなのはわかるけどさぁ?!」
「な、なに?言っちゃいけなかった?」
「人の気持ちくらい考えよう!?」
あの場面で妹としてみてると言う事は、暗に恋愛感情を持っている訳が無い、そうと言っているような物である。いくら何でも恋を覚えたての女子に対して、その一言は無いだろうと言うくらいフィルにもわかる。
「お前ェ!お前お前お前!!!!!?」
「……もしかして悪い事しちゃった?」
「そうだよ!?……けどなぁ!もう言ったことは撤回できねぇからな!?お前は乙女心を致命的に理解していない!……謝って来いとは言わねぇが、次から気を付けろ。……次からな」
部屋の中でしくしく泣いているリジュ。この雰囲気の中、まさかさっきの言った事が真実ではないと言える訳がないし、言ったところで焼け石に水、覆水盆に返らず、後の祭りである。そもそもヤノカは良くも悪くも真っ直ぐなのだ。一度思ったらマジで変わらない。なので、もし仮に恋人になったとしても、確実続かないだろうと判断出来る。
「……リジュ」
「……我はもう大丈夫だ!気にするなヤノカ!」
部屋にヤノカが入ると、目を赤くしたリジュが空元気そうに答える。心配をかけたくないのだろう。アルカは厳しそうな目でヤノカを見る。一応同室な関係上、気にかけているのだろう。
「……宇宙もお怒りです」
キツい言葉を刺すアルカ。
「おい……」
「……。僕はリジュの事は可愛いとは思う。でも、そうじゃないんだ。多分恋愛感情は……持てないと思う」
こじらせるくらいなら、いっそ本音を言ってしまおうという判断。リジュはとても辛そうにその言葉を聞いていた。そして上を向いた後、無理やり笑顔を作りヤノカへ返事を返す。
「……そうか!……それなら、それなら仕方ないな!うむ!……我は寝る!」
それは彼女にとって初めての失恋。ヤノカとフィルは、後ろめたさを抱えながら、部屋を退出する。そしてヤノカの部屋の前にまで来ると、ようやくヤノカが口を開く。
「僕は……。アレでよかったのかな」
「さぁな。ただ、本人の意思を尊重しないで恋愛をすると、大概ロクなことにならない。嫌いなら嫌いと、好きになれないなら好きになれないと。……はっきり言ってやれ」
リジュは枕を抱きながら、一人泣いていた。ヤノカはパトロールをしながら、一人悩んでいた。それでも日は暮れるのだ。
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