第二十四話『デートだ!デートしてるぞあいつ!』


「あっヤノカだ。おー……」


「で、では今日はよろしく頼むぞ……」


「じゃあ行こうか?」


 三日目。フィルは今日も町に来ていた。と言っても今日は休日なので、外に出てきていた。町の中心部に来たところで、何やらヤノカの姿を発見。今日のトレーニングメニューは終わらせていたので話しかけようとすると、隣にはリジュの姿が。


「買い物か?」


「何やってるんですわ」


「げっスターかよ……。帰れ帰れ」


 二人の姿が見えた瞬間、なぜか咄嗟に隠れるフィル。リジュの方は普通の買い物に行く格好ではないが、ヤノカの方はだいぶ普通の服を着て来ている。これはもしやデートなのでは?と思った思考は、クソダサいヤノカの私服を見て吹き飛んだ。


 それはそうと、なぜかスターが話しかけてくる。恐らく買い物帰りなのか、大量の荷物をバリアに載せて運んでいた。そしてシレっとヤノカの様子を見ると、ちょっと不機嫌そうな顔に変わる。


「あぁ、あの平民産まれですわね……。帰りますわ」


「それが一番だ。帰れ」


 と、言いつつ帰らない。なぜか二人とも尾行を続ける。一方のヤノカとリジュは、服を買いに行っていた。何を買うのか?と気になったフィルと、シンプルに、普段平民産まれが何をしているのか気になったスター。


「服……?ヤノカに一番似合わない物だぞ」


「そこは概ね同意ですわ。まぁどうせ、リジュがデートする為に連れて行ったんでしょうけど」


 今回、リジュのデートプランは『服屋に行って可愛い服を買う→いい感じの店に行って食事をする→考えてない』と言う感じである。なぜ考えていないのか……?と言うと、そんなことを考えられるならもう告白している。


「だな。おい、近くに行くからその荷物持って行けよ」


「もう既に寮に運んでますわ。と言うか割とあなた、私の事嫌ってますわよね?」


「お前が平民産まれってだけで差別するからだが?」


「……別に、とりあえず平民産まれが嫌い、って言う訳ではありませんわ。理由があって嫌いなのですわ」


 それどういうことだ?と言おうとしたところで、どうやらフィルの選んだ服を着たリジュが、試着室から出てくる。ヤノカにしてはそれなりにいい服を着せていた。一般的に言う白いワンピースである。


「服のセンスいいなあいつ」


「眼帯は外さないスタイルですわね。とりあえず麦わら帽子被せてみては?」


「……いや俺らが言ってても意味ねぇな。俺はそれとなく奴の元に行くが、お前は来ないんだろ?」


「えぇ。どうぞ」


 と言う訳で、まるで今来たかのように振舞いながらフィルが合流。ここでリジュが外行きのテンションに戻る。外行きと言うのは、あの中二病スタイルである。


「わ、我の友人の友人!えーっと」


「フィルだフィル。とりあえずヤノカ」


「なに?」


「とりあえず金やるから服買え。お前の服クソだよクソ」


 クソ呼ばわりされて服を確認するヤノカ。少し見てそんなに変かな?と首を傾げる。そもそも、自覚無しとは言えデートに誘われたと言う時に、キャラ物のTシャツを着てくるような奴なのだ。制服があって本当に良かったと思っている。


「ってかクロクTシャツじゃん。お前普段着なのそれ?」


「その辺の店で売られてたし……。安かったから……」


「幾ら?」


「五ヒャルク」


 投げ売りじゃんか。と言いたくなったが、後ろにスターの気配を感じ、何も言わないことにした。恐らくスターがまだまともなのは、このクロクプリTシャツのおかげなのだろう。


「お前な?今度からな?女の子と一緒にどこかに行く時はな?俺に一回服を見せろ」


「は、はぁ……」


 あからさまに何故?と言う表情をしてくるヤノカ。美的センスは人それぞれとはよく言ったものだが、こればっかりは流石に口を出さざるを得ない。ちなみにリジュはどう思っているのか?と言うと、そういうこともあるんじゃないか?と思っていた。


「そ、それでフィルは何の用があってきたのだ?」


「散歩してたら見えたんでな。もう帰るけど」


 などと言いつつ、再び尾行体制に入るフィル。なお服はそれなりに良い物を買っていた。


「馬子にも衣裳とはこの事ですわね」


「なんであいつキャラT脱いでないんだよ!?」


 なお、クロクプリTは脱いでいないようであった。


 そんな訳で尾行を続ける二人。続いて二人が向かったのは無駄におしゃれなカフェ。大丈夫かな……。と思いつつ、フィルだけが着席。スターは服を買った所で帰って行った。


「とりあえずコーラフロート一つ」


 さて何を頼むのかとやや遠めの席から見ていると、リジュはパンケーキを注文していた。


「僕も同じ物で」


 あれなら大丈夫だなと、ズズズ……。と無駄に音を立てコーラをすすり、そこで思い出す。この店のパンケーキはクッソデカいのだと。


「ま、まぁあいつなら大丈夫だろ……」


 一度『こんなおしゃれなカフェのパンケーキとか小さいだろ』と思って頼んだら、明らかに二人前の量が出てきた経験を思い出すフィル。そして二人の目の前に、更に増量したパンケーキが運ばれてきた。



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