第二十三話『厄介ファン&厄介ファン』
「お集まりいただきありがとうございますですわ皆様」
「おぉ!会長が来たぜ!みんな集合してるよ!」
「えぇ……。では始めるとしましょう。月に一度のクロク様集会を!」
(……。こいつらこんなことしてたのか……)
二日目。フィルはトレーニングメニューをこなした後、暇なので街に来ていた。午後九時までは外出許可さえ取れば誰でも外に出れる。現在時刻は夜七時、フィルが買い物をしていると、なぜかスターが外に出ているのを発見する。
「……何やってんだあいつ?」
今日はクロクがこの辺りをパトロールするのは事前に聞いていたが、まさか追っかけてきたのか?と後ろを付けることに。しばらく歩いていると、デカい館に辿り着く。
「はいそこの人」
「え?あぁ……。知り合いがこの中に入ってよ。なんかあるのか?」
「……クロク殿を知っているか?」
「……」
入ろうとすると、門番らしき男に止められる。正直、ここで帰ってもよかったのだが、何をしているのかくらい知っておくべきだろうと中に入ろうとする。
「あぁ。よく知ってるよ」
「ではこれを」
嘘は言っていない。すると門番から一枚の紙を渡される。手にしてみると、そこには『クロクファンクラブ会員』と書かれていた。フィルはアホかと思った。
「なにこれ」
「会員書だ。クロクファンクラブ192番。次からはそれを見せてくれ」
「……」
会員192人もいるの?と困惑するフィル。一個人にそんなにファン出来るの?とは思ったが、考えてみれば割といる人はいると思い出しそうでもないか……と改めなおす。
(とりあえず入ってみるか……)
中で何やってんの?と言う疑問を解消すべく、中に入っていくフィル。ちなみにヤノカは今日この辺をパトロールするとは言っていたが、何時にするかとは言っていない。
「言ってねぇのにこの盛況っぷりよ」
「クロク様は今日ここをパトロールされる!と言う訳でここの地区のファンに集まってもらった!」
「映像用意出来ています!」
(……時間ピッタリだな……。なぜわかる?怖いんだけど)
壁に掛けられた紙に、付近のカメラから出力された映像が映されていく。その中に、クロクが今まさに詐欺を働こうとしていた現場を捕まえていた。
『その魔導書偽物ですよね?』
『うるせぇ!これのどこが偽物だって!?』
『じゃあ使ってみます?これ』
『うぐ……。なら出たら本物ッてことだよなぁ?!』
今回の詐欺は魔導書詐欺。適当な紙にそれっぽいことを書いて、知らない奴に魔導書として売ろうとする詐欺が結構横行している。今回の男は確かに魔法を放ったが、クロクは腕に仕込んだ魔導書の切れ端を見逃していなかった。
『詐欺の常習犯だな。こうして本物に見せかけるのはよくある事。そもそも俺が使えなかったんだから、偽物に決まってんだろ』
『クソッ!あばよク』
『逃げられると?』
流石にこの状況で使える弁解の言葉は無かったようで、即逃げることを決めた男。しかしクロク相手に逃げる事は愚の骨頂。顎を叩き割られ、地面に這いずり回ることになった。
「流石クロク様ですわ……!鮮やかで素早い解決!」
「流石だぁ……。あっ今回も映像に焼いておきました!」
「そろそろ円盤にしますか?で売ります?」
「一枚五ヒャルク程度で売りましょう」
(映像にしてんのか……。と言うか本当に変声機付けててよかったなぁ。こんな奴らに知られたら、最悪とんでもないことになる……!反転アンチが出かねない!)
今は素性が知られていないから問題ないが、もし仮にヤノカが平民産まれのであることが知られれば、最悪反転アンチが生まれるぞ!?だってあいつら平民産まれを親の仇もかくやってレベルで恨んでるからな!?
「最初の頃は喋らなかったですが、喋った今も格好いいですわ!」
「結構渋めな声……。もしかすれば彼は我らより年齢が高いのかもしれないぞ」
(お前らより若いよ!スターと同い年くらいだよ!と言うかオッサンいい年齢だろ!?なんだその服!ダサいぞ!)
流石のフィルも、クロクの痛Tを見れば冷静になる。それどころかドン引きしている。しかも、いい歳こいたオッサンがそれを着ているというのであるから、もうドン引き加減が反転して一旦冷静になるくらいである。
「クロク殿に助けていただいた時の事は忘れません……!地元に魔物が出た時に退治していただいた恩は決して!」
「俺はクロク様に食事をいただきました……!今では自分が料理人!」
「喋らない頃に、一度落とした財布を拾っていただきました……。一ヒャルクしか入ってないのに、小さいのに……!」
(そういえばあいつが何してるか一回も聞いたことなかったなぁ。やっぱり人助けしてんだあいつ。初期の頃は喋ってない……。あ、俺があのハイスペック仮面渡すまで喋ってなかったのか)
そりゃそうか。とか思いながら、とりあえず外に出ようとするフィル。少なくとも、悪い奴らではないので放っておいても問題ないと判断したのか。
しかしまさか、今世間を騒がせているゼロがこの場にシレっといるのには誰も気が付いていなかった。
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