第二十二話『一週間だ』
「さて。今日の授業は終わりだ。寄り道しないで寮に帰れ」
「そういえばですけど先生」
「なんだ?」
今日の授業を終え、帰路につこうとしたシャードに質問を投げかけるヤノカ。先ほど六人をエントリーすると言っていたが、全員で行くのか?と疑問に思っておいたのだ。
「予選とかあるんですか?」
「あるぞ。一ヶ月後に本戦が開始されるから……。予選は一週間後だ。仕上げて来いよそれまでに」
流石にそんなことは無く、どうやらちゃんと予選大会があるとの事。何人が大会に出れるのかも分からないとの事。つまり本気でやらなければならないのだ。
「なるほど……。って事は他のクラスの人と戦うて感じになります?」
「そうだ。ただ誰が出るかは分からん。その辺は俺らしか知らんが、だれが出るか言うなって言われてるんでな。あと先輩も出るが、容赦するなよ」
「……あっ、僕に言ってます?」
「お前割と手を抜きそうな奴だからな?」
名指しで文句を言われるヤノカ。それもそのはず、流石に一か月くらいもすれば、そいつがどういう性格なのかくらい、教師にはわかる。このヤノカと言う男が、非情になり切れないタイプの人間であるくらい。
「お前、割と手を抜きそうだからな」
「流石にしませんよ……。真剣勝負で」
「……ならいいんだがなぁ」
と言う訳で、一週間の間肉体を鍛えるメニューを作った二人。ちなみにどうせ動かないだろうという理由で、リルも共に参加させられていた。あとスターも視察に来ていた。彼女は体を動かす気はないようだが。
「一緒にやる?特訓」
「いやですわ。そんな物……。それより平民産まれが本気で大会に出れると思っているのですわ?」
「たぶん笑われるだろうね。そのくらいは慣れてるけど」
「一応言っておきますが、今回の他校試合は我が校の名誉がかけられています。負けることは許されませんわよ」
厳しい言葉を使ってはいるが、確かに事実でもある。今回初めての試みであるとは言え、他校と戦うのは選ばれた者のみが参加できる名誉ある戦い。負ければ不名誉と言う言葉では表せないくらいに、名が落ちる。
「まぁあなたには落ちる名前も無いでしょうが」
「俺は負ける気ねぇし?どうせお前は入るだろ出場メンバーに」
「えぇ。そこは確実なので、選ばれるのは指定人数から一、引いておくよう言っておくつもりですわ」
「……傲慢」
こうは言っているが、スターの実力はこの町に暮らしている者ならだれでも知っているほど、名家であり強者である。まず間違いなく、どうせ勝つんだろうなぁ……。と、三人とも確信めいた物を持っていた。
「それよりジャンガルグとビゾンの二人、まず勝ち上がることは無いと思うのですが……。どう思います?」
「なんで俺らに聞く?」
「そうだよ。本人に言えばいいよ」
「流石に本人を前に『お前負けるぞ?』とは言えませんわ」
恐ろしく歯に物を着せない話し方。ドストレートすぎる物言い。しかし実際二人とも何となくそのくらいは理解していた。あの二人が弱い訳ではない、が。
「……シンプルに弱いよね。ビゾンは」
「ジャンガルグか。能力は申し分ないんだが、本人がなぁ……。よく言えばアホ、悪く言えば知能不足……。言いすぎか」
「……つまり弱い、と」
「ほとんど言おうとしていた事を言ってくれましたわね。そもそもあの二人が仮に何かあってメンバー入りしたとして、活躍できると思いますか?」
「「「……」」」
「であれば、まだ平民産まれの方がマシですわ。……私の為に、勝ちなさい」
長々と話していたが、要するに激励のつもりらしい。恐らくマシと言う部分が本音になるのだろうが、それでも暴言を吐かれるよりは気分がいい。まぁすぐにスターは帰って行ったが。
「……ねぇ、アレどう思う?」
「そりゃお前……。一応励ましてんじゃね?少なくともあいつにその気は無いと思うが」
「……。ツンデレ?」
三人は顔を見合わせて、それは無いな……。と微笑しつつ首を振る。その後は特に何事もなく、訓練メニューをこなす。これでようやく一日目。特訓を重ねながらも、クロクとしての活動は忘れない。
「でも最近は大人しいな……。以前の襲撃で流石に懲りたか?」
しかし最近、とにかく犯罪者の数が減っている。普段なら三時間程度のパトロールで、五~十人は平気で犯罪者を捕まえているのだが、今日はたったの二人しかいなかった。
「しかも軽犯罪、わざわざ警察に持っていく事でも無いし……。減ってきているならいいんだけど」
「あっクロクだ!今日もありがとね!」
「どうも。また明日」
クロクはなんだか嫌な予感がした。何が?と言われると正直言葉にできないのだが、言いようのない不安感がそこにはあった。この町の犯罪者が減っているのは多分合っているのだろうが、今日の減り方は異常である。
「どこかに犯罪者がいっぱい集まっているんじゃ……?」
しかし、仮にそうだったとしても、クロク一人に何とかできるか?と言われれば答えはNO。その時は警察に任せようと考えているクロクなのであった。
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