二章前編『他校との闘い』

『後ろ暗い噂』

第二十一話『過去と未来の狭間の日』


「怪盗ゼロ……。ねぇ」


 パトロールに来ていたクロクの耳に入ったのは、ゼロと言う名前の怪盗であった。曰く、取っていく物は価値が薄いが、その美術館の悪事やら何やらをバラまいて帰っていくのだという。


「何が目的なんだ?」


 特に貴重な物を取って行く訳でも無く、単純に悪事を暴いて誰にみられるでも無く帰っていく。何がしたいのかと言われれば、恐らく悪事暴きなのだろう。


 しかし、それにしては疑問が出てくるような事ばかりしているのだ。何せその悪事と言うのも極悪と言うよりは、ちょろまかしやぼったくりや贋作だと……、いわゆるみみっちい犯罪のみを摘発しているとのこと。


「何がしたいんだよ本当に……」


 聞けば聞くほど意味不明である。何のためにそんな事をしているのだろうか。しかし知ったところでどうでもいい話なので、気にせず今日のパトロールを終了させる。


「……。行ったかなァ?」


 ヤノカがパトロールを終え、少しした後ゼロが出現する。見た目は普通の少年と言う感じだが、右眼球から左頬にかけて、凄い深い切り傷が出来ている。


「さァて……。今日もお仕事頑張っちゃいますかねェ!」


 少し、奇妙な喋り方をする男である。ゼロはクロクがいなくなったのを見計らい、颯爽と美術館に入る。彼も我流魔法を持っている。名前は『飛び上がる閃光《ジャンピング・フラッシュ》』。指から放つ銃弾が着弾した場所に、瞬間移動する事が出来るというシンプルな能力。


「さ、早速……。吹っ飛びますかねェ!」


 適当な隙間から銃弾を放ち、着弾したのを見計らい瞬間移動する。これで楽々内部に入り込めるわけだが、これで持って帰れるのは小さな物くらい。


「まァ?物なんかどうでもいいんだけどなァ」


 今日この美術館に入り込んだのは、ここに不正の証拠があるからである。手慣れた手つきで所長室に入ると、昨日手に入れた新しい証拠を取り出し部屋の机に置く。


「あァ!早く会いてェなぁクロクによォ!一目お会いしてェ!」


 何かしみじみと、思いをはせるように空を見上げるゼロ。その後能力を使って外に出ると、何事もなかったように街を歩きだす。まるでそこにゼロと言う者がいなかったかのように。


「こうしてバカやってりゃよォ!?いつか捕まえに来てくれるかなァ?」


 ゼロの目的はただ一つ。クロクに出会う事であった。彼もまた、厄介ファンの一人なのである。スターがファンの鏡的な後方系腕組みファンだとすれば、ゼロはどこにいようが凸ってくる厄介ファンと言った感じである。


 とは言え、一度も本人には会えていないのだが。それもそのはず、時間帯がまるで違う。大体クロクが出現するのが六時から九時くらいだとすれば、彼が行動する時間帯は十時から午前一時程度なのである。


 ちなみにヤノカだが、現在寝ている。クロクを消費しすぎると極端に疲れるのである。なのでどこでも寝れるのがヤノカの特技。


「ん」


「……朝かぁ……。おはよ。飯食うか」


「んー」


 この二人、どっちも朝に弱すぎる。ヤノカが多少強い程度で、リルはもうほぼ寝てる。食堂はあるが、普通に飯作った方が安上がりなので基本使わない。


「旨いかー?」


「ん-。旨い」


 もきゅもきゅと食べ進めるリルに対し、ほぼほぼ飯を食わないヤノカ。ヤノカは一応食いだめの手段を得ており、最悪一か月食わなくても死なないくらいには蓄えがある。


 他の兄弟に一杯飯食わせるために身に着けたものである。


「ほら行くぞー」


「んー……」


 食事を終えた後、ずるずるとヤノカの腰にしがみ付くリル。ドアから出ると、朝から元気なフィルが話しかけてくる。無駄にハイテンションなので、ほとんど圧倒されている。


「おはよう!」


「んぁ-……」


「おはよ。今日も眠いな」


「そうか。それより今日も授業だから行くぞ。今日はたぶんアレがある」


「……アレ?」


 教室に入ると、二人よりもさらにダルそうなシャードが入ってくる。今日はと言うと、もうほとんど引きずられている。影人間意識あるのか?と思ったが考えてみれば、割と命令を便利に聞くあたり知能はあるのだろう。


「はーいお前らー。聞けきけーっと。今日は対抗戦があるんで、お前らの中で出たいって奴、挙手」


 それを聞いて手を挙げたのは六人。ヤノカ、フィル、スター、ジャンガルグ、リル、ビゾンの六人。一応手を挙げた理由を聞くシャード。


「なんで挙げたか、言える奴は言え」


「まぁ……、賞金ですね。出るって聞いたので」


「俺は強い奴と戦いたいからだ!他校と戦う事なんかないからな普通」


「私が出なければ、家に泥が付きますので」


「理由?無いが」


「……お金」


「とりあえず!」


「……あ。終わったか」


 人に理由を聞いておきながら、自分は寝るという蛮行を繰り出すシャード。言いたい事はあるが、教師と言うのは結構厳しいんだろうと、特に誰も文句を言うことはしなかった。


「とりあえずエントリーしておくが……。ケガとか自己責任だから。その辺気にしておけよ」


 そういうと、普通の授業に戻るのであった。

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