第二十話『誰っ?!×3』


「さて。そろそろ上がるとするかな。ではさらばだ」


「はーい。また会いましょうねー」


「……」


 先ほどの会話の後は、特に中身のない話を繰り返しつつ、グダグダと風呂に入っていた三名。流石にのぼせる寸前だったのか、シュレは風呂からあがる。二人はまだ風呂に入ることにした。


「はー……。対抗戦かぁ」


「他校の奴らを呼ぶ?……妙だな。今までそんなことなかったはずだぞ?今年からそうなったのか?」


 父から聞いていた話と違い、首をかしげるフィル。しかしそういうこともあるだろうと結論を出し、先に風呂から上がる。体をふき、牛乳の瓶を手にした所で、ややのぼせたヤノカが脱衣所にやってくる。


「熱いー……」


「そりゃ風呂だしな。ほれ牛乳飲むか?」


「ありがと。ん-……、実家の方がおいしいね」


「そりゃ鮮度の違いだな。……てか、聞いてなかったけどお前の地元ってどんな感じなんだ?少なくともここから近いってことくらいしかわからんが」


 ここで、フィルはヤノカの実家に関して唐突に質問を投げかける。ヤノカはそれに対して、少々考えた後にどういう村だったのかを説明し始める。


「自然な感じ?……って言ってもわかんないよね。みんな必死に生きてるよ。そりゃ魔法使える人もいるけど、ほとんどの人は使えないから」


「我流魔法どころか魔法すら使えないのか?」


「そうだよ。……と言うか僕、我流魔法を持ってはいるけど魔法苦手だからね?」


「そういや使ってねぇなぁ……。なんで使ってないんだと思ったが」


 ヤノカの実家は、この町から山一つ越えたところにある小さな村である。住民だけ無駄に多く、家が十数件程度しかないのに五十人近くの村人がいる。そんな訳で割と皆仲良くやっている。


「魔法を使えないと?」


「うわっ何?」


「失礼。私は『ドラ・マ・マジカ』です」


 そんなことを話していると、ふと後ろにやってくる男が一人。片眼鏡をかけて、銀髪隻眼、服は脱いでいるが筋肉が凄い男。マジカと言う名前を聞いて、フィルが反応する。


「マジカ?っていうとあのマジカ家の長男か?」


「いえ、私は次男です。長男は『ビル・マ・マジカ』と言います」


 マジカ家。我流魔法はともかくとして、魔法と言う立場が危うくなった時、魔導書を作り上げ誰でも魔法は使えるようにしたという、結構凄い人物なのである。


「魔導書すら無かったのですか?」


「うん。そういうのを買う前に食費ですっからかんになるんだ」


「……田舎というのは恐ろしい……。やはり平民か」


 平民と言う単語を聞いた瞬間、つい少し前まで興味を失っていたフィルが勢いよくドラの方を向く。


「おいコラ。俺の親友を侮蔑する気か?ん?」


「失礼。そういう意図はありません。……しかし、ではどうやって生活を?」


「自給自足だね。村で食糧を育てたり、あと野生動物を狩ってみたり……」


「中々アグレッシブなのですね。……参考になりました。それと先ほどの失言は謝ります。今度魔導書を一冊送らせていただきますので」


 そういうと風呂に入っていくドラ。その後は何事もなく風呂場から出る。が、今度はリルが変な奴に絡まれていた。


「わー!かわいいー!この子ウチの妹にしちゃおうかなぁ!」


「ん-!」


「……何やってんの?」


「げ。可愛くないの二人……しかも一人は平民じゃん。かーえろっと」


 外見から彼女の事を言うのであれば、使われる言葉は『メンヘラ女』と言う感じだろう。髪は紫色が地毛で、そこに白や赤色などで無駄なグラデーションをつけており、身長が地味に高くおおよそ180センチ程度。リルが持ち上げられてジタバタするしかないというレベルの大きさである。


「大丈夫?」


「……」


「泣いてる……。なんだあの女?」


 いきなり知らない奴に絡まれた挙句、持ち上げられて振り回されていたリル。流石に目に涙が浮かんでいる。名前は知らないが面倒な女であると認識をした二人は、とりあえず注意リストに入れておくことにした。


「確か僕ら以外にも今年入学した生徒がいるんだよね?」


「そうだ。体育館で三クラスいるって言ってたが……。恐らく、ほぼ全員があのクソ……。じゃなかった選別を生き残ったエリート、恐らく強いと言う事だけわかる」


 歩きながら話を続ける二人。フィルは、アレでも強い方にいると説明をする。ヤノカはそれを聞いて、本当か?と言う疑問を抱き始める。なおリルはヤノカに背負われている。


「あれが?」


「アレがだ。まぁもう今日は寝ろ。明日も早いんだからな」


「そうだね。じゃあお休み」


 そして互いに部屋に入ると、ベッドで眠りにつくのであった。


 一方その頃、とある美術館で窃盗の被害が多発していた。犯人はわかるのだが、未だに捕まえることは出来ていない。名前は『ゼロ』。宿屋の屋上から人混みを見下すその男は、クロクについて興味津々だった。


「俺ちゃんも、ちょっとマジになっちゃおうかなぁ?」


 そういいながら、夜の街に消えていくのであった。

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