第十九話『心構えの問題』


「さて……」


「よぉ、今日はどうだった?」


「犯罪者達が襲い掛かってきた。全員ぶちのめして警察に入れてやったけどさぁ」


「そりゃまた災難だったな……。倒したならいいんだけどさ」


 ヤノカが部屋に入ってすぐ、フィルが話しかけてくる。今日は何やら胸騒ぎがしたので、ちょっと何があったか聞いてみることにした。帰ってきたのは犯罪者達を相手に立ち回りしてきたという返事。


「しかし、お前結構恨まれてる感じ?」


「かもね。悪い奴らからはかなり嫌われてるよ僕。たまにあるんだ襲撃事件とか。少なくともこの半年で五回」


「多くない?」


 悪い事を戒めさせると言う事は、当然その悪い事を好んでする奴らから恨まれると言う事。しかし警察相手に報復をする奴が平気でするこの町では、クロク相手にガチで殺しに来る奴が結構いる。


「実際、『右手で触れた物をコピーするって我流魔法』と『触れた物を操作する我流魔法』のコンビネーションは流石に苦戦したなぁ。しかも一発一発の弾丸が血を抜くためのベンズナイフだからやってられないっていうか」


「色々あったんだなぁ……。ん?触れた物を操作する我流魔法?なんか聞いたことあるような無いような……?」


 首を傾げ考察モードに入ってしまったフィルをよそに、ヤノカは自分の部屋に戻る。部屋では相変わらずリルが食糧をもちもちしていた。ヤノカはどれだけ食べるんだとか思った。


「ん。お帰り」


「ども。ところで町に行ってシュークリーム買ってきたけど食べる?」


「ん」


 何も言わずに手だけ伸ばすリル。どうやら公定と言う意味の『ん』であるらしい。手にシュークリームを乗せると、凄い勢いでシュークリームが口に入っていく。


「んまんま……」


「結構大きいんだけどねぇそれ」


 ほぼ一口ですべて平らげると、満足したのかソファでゴロゴロし始める。どちらかと言うと猫みたいな奴である。


「美味しい?」


「ん。また買ってきて」


「わかった」


 この寮には一応風呂場がある。だが大浴場があるのでほとんど使われることは無い。今日も風呂セット片手に風呂場に向かう。リルは頭に乗っけて行くようだ。


「よっヤノカ。あとリル。ほれお菓子」


「わー」


 風呂場に着くと、ちょうど風呂に入ろうとしていたフィルと出会う。リルに持っていたお菓子を差し出すと、それをとってもきゅもきゅし始める。しばらく他愛のない話をしていると、先に男湯から人が出てくる。


「この前の戦いは厳しかったな」


「だな。おっヤノカとフィルとリルだ」


「この前は負けたが今度は勝つからな。それまで首を洗って待っていろ!」


 それはリルにボロ負けしたジャンガルグとロックの二人。ジャンガルグはリルに再戦を申し込み、そのまま帰っていく。その後リルがぼそりとつぶやく。


「……誰?」


「覚えてないのか?」


「……。うん。興味ないし」


 ジャンガルグに聞こえていなかったのだけが、不幸中の幸いと言った所か。とはいえどうでもいい話ではあるので、適当に風呂に入ることに。案外浴場は広く、本当にタダで入っていいの?って程には大きい。


「マジかサウナまであるぞ!」


「マジ?急激にはやったよねサウナ。一年間くらいに変な奴が広めてたけど」


「そういやそうだったなぁ。名前もわかんないし、なんだったんだろうなぁ。あいつ」


 大浴場から露天風呂、寝湯にサウナまでよりどりみどり。早速二人が風呂に入った後でサウナへ向かうと、そこには圧倒的な威圧感を放つ男が。最上段に座っており、裸一貫でその熱を受け止めていた。


「おぉ……。ってかアレ、先輩じゃね?」


「へー。……なんかこっち見てない?」


「……サウナでは静かにするのがマナーだ」


「あっはい」


 入り口で喋っていた二人に、注意を促すと二人とも反省し、とりあえず最下段に座ってみることに。大体八分くらい経ったところで、限界が来たのかフィルが先に脱出、その後一分くらいした後でヤノカも脱出。


「あちー……」


「よぉ、隣の椅子空いてるぜ」


 その後水風呂にダイブ。ここの水風呂は全身洗ってさえいれば、潜っても大丈夫なのだ。と、しばらくすると先ほどの先輩がサウナから出てくる。


「先輩なんですか?」


「そうだ。名前は『シュレ・ン・ディガー』だ。シュレと呼んでくれ」


「はい、シュレ先輩」


「さて……と。ところで一年の二人は今度の大会に出るのか?」


 かなりリラックスしている三人。しばらくするとふと何かを思い出したかのように、シュレが話しかけてくる。


「なんのですか?」


「我流魔法を使った大会だ。今回は少し志向を変えて、他校との大会を開催するという噂だ」


 とのこと。ヤノカは初めから出場するつもりでここに来たので、当然出ると宣言する。だがフィルは今の一言に奇妙なものを覚えたようであった。


「出ますよ。ねぇフィル」


「え?まぁうん……。ところで出るんですか?先輩は」


「ん?出ないよ」


「……そうですか」


 なぜここまで疑問に思うのか?と言われればそこまでだろうが、何か言いようのない疑問感が、フィルの中で渦を巻いていたのであった。

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