第十六話『私が決める!』


「どうしたの?」


 眼帯を取ったリジュの目を、一切躊躇する事無く見るヤノカ。リジュにとって、自分の我流魔法を知ってなお、自分の目を一切躊躇なく見たのはヤノカだけである。リジュは涙目になりながらも、後ろを振り向きスターの目を睨みつけ叫ぶ。


「『動くな!』」


「ッ!?」


 眼からは涙が出てきているし、足は震えてまともに動けない。だが目は一直線にスターの事を見ていたし、もはやその言葉を言う事に一切の躊躇も迷いもなかった。


「何故?」


「うるさい!……。私の我流魔法は!悪いことに使えるってみんな口を揃えて言うんだ!……。だから本当の友達なんていなかった!」


「リジュ?」


「隠してることも!知られたくない事も!知られるからって目を合わせなくなった!……。だからああやって演じてた!」


 喉が張り裂けんばかりに叫ぶリジュ。その一言一言に、重苦しい雰囲気があった。


「でも!でも……。ヤノカは!知ってなお目を見てくれた!……。その事実だけで!お前なんかより心から信用できる!私の友達は私が決める!お前なんかに決めてほしくない!」


「……そうですか。では私の負けですわ。さっさとボタンを押して終わりにしてくださいまし」


 何かを察したのか、ボタンを守っていたバリアを解くスター。しかしリジュは最後の最後まで催眠を解くことはなかった。


「いや、『お前がボタンを押せ』」


「……流石に分かりやすかったですわねぇ」


 最後のトラップとして、ボタンの押す部分に見えないバリアを付けていたスター。それすら看破されたので完全に負けを認めたようであった。


『そこまでだ。さっさと戻ってこい』


「……。お、終わった……?」


「みたいだね」


「あうぅ……」


 張りつめていた気を解いたせいか、へにょりと座るリジュ。歩けないようだったので、そんなリジュを背負ってシャードの元に向かう四人。


 そして戻ってくるなり、反省会が始まる。上での会話に関してはあえて関わらない事に決めたらしいシャード。重要なのは戦闘の方なので仕方ないと言えば仕方ない。


「さて。まぁとりあえず悪い所しかなかったが、とりあえず一人ずつ問題点を挙げていくからよく聞け。まずビゾン」


「はい」


「何怒ってんだお前。まあいい、とりあえずお前の問題点は指示された事すらできていないのに、それ以上を望んだことだ。足止めを指示されていたはずなのに、なぜヤノカを狙った?」


 死ぬほど口が悪いシャード。しかもネチネチ言ってくるのでまたタチが悪い。歯切れが悪いと言った感じでなぜそう思ったのかを答えるビゾン。


「それは倒せると思ったからです」


「無理に決まってんだろ。お前ギリギリで入学できた程度の実力だぞお前。自分の強さを自覚してからだお前は。足止めも出来ない奴が倒せると思ってんじゃない」


「……」


 苦虫を嚙み潰したような顔になるビゾン。しかし大体事実であるから何文句が言えない為更にムカつくのである。


「とりあえずお前は、まず自分が出来ることをちゃんと知っておけ。戦場じゃ雑魚が前に出てくる事が、一番邪魔な行為だからな」


「ボロクソに言いますわね」


「そういう点ではスター。お前は割と上出来な方だ。結局は十分間の間ボタンを守ればいいんだからな。我流魔法を使ってはいけないと言うルールは無いし、高々手が切れた程度ならウチの校長が余裕で治せるから問題は無し」


「……」


「だがお前は余りにも他人に興味が無さすぎる。その結果普通に足を掬われまんまと策にハマったんだからな?確かに強い力だと言う事は誰もが知ってるが、今みたいに相手の能力次第じゃお前も完封負けする事になるからな」


 相変わらず口は悪いが言ってることは正しいのでムカついてくる。そして続いてはヤノカの批評に入る。


「とりあえずだな。お前はいくら何でも相方を過信しすぎだ。いくらスターが慢心していたとしても、ビゾンが二階にゾンビを配置していたと言う事実がある。もし仮にビゾンの奴がリジュを襲うように言ったらどうしてた?」


「その時は僕が止めます」


「その考えは良いことだが、それが出来ない時があったら?お前が何でも守れると思うか?相手を信用するのは悪い事じゃないが、それはお前の慢心によるものだ。戒めろよその慢心」


「はい」


「さて最後にリジュだが……。お前はこの中じゃ一番仕事をしてたと言えるだろうな」


「は、はい……」


「しかしお前の能力はお膳立てしなきゃ使えないのか?もっと簡単に催眠出来る方法を考えることだ。でなきゃ強くなれ。初見殺しと言うのはある程度の強さがあるから使えるのであって、いくら初見殺し特化としてもその前に倒されてしまっては意味がない」


「……はい」


「以上だ。と言う訳で次行け次」


 四人全員結構ボロクソに言われ、かなり凹んでいる様子であった。とりあえず観戦席に向かう四人。その前にスターがヤノカに話しかけてくる。


「平民産まれ」


「何か?」


「いえ。あなたもクロク様のように精進する事ですわ。そうしたら少しは見直して差し上げますわ」


「は、はぁ……」


 ヤノカ以外なら問題なかったのだろうが、クロク本人にこれを言うのは大分アホである。しかし正体を明かしていないので、クロクとヤノカが別人だと思うのは仕方ない事である。


「では。後リジュ」


「ぴぃっ!?」


「先ほどはすみませんでしたわ。では」


 そしてリジュに謝った後、かなり離れたところに座るスター。そのまま第二試合が開催されるのであった。

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