第十五話『中二病患者と異常平民嫌悪者』
「とりあえず簡単に五十体から行くかなぁ!」
「流石に多いなぁ……!」
ビゾンは即座にゾンビを生成し、ヤノカへけしかける。とは言えゾンビ程度ではヤノカを足止めする事すら不可能。とは言えビゾンもその程度は知っている。
「死ねっ!」
「おっ銃!?」
『おい。さっきも言っただろ』
「麻酔なんで死なねぇっすよぉ先生!」
ゾンビの大群の中、ヤノカの体をめがけて銃を放つビゾン。麻酔銃と言っているが、実際は猛毒の入った銃弾で、一発で致命傷になるくらいの恐ろしい毒を使っている。
『言っとくが、こっちには試合をいつでも止めれる権限があるんだからな。こっちでアレってなったら本気で止めるからな』
ゾンビ程度なら素手でなんとでもなるが、流石に武器を使うと言うのならば、クロクを使わざるを得ない。と言う訳で剣の型に作って、ゾンビをバッタバッタと切り裂いていく。
「死ね!」
「危なっ」
「無駄に反射神経がいいなぁ平民産まれの癖に!」
たまに撃ち込まれる銃弾を弾き飛ばしながら、徐々にビゾンに接近するヤノカ。だがビゾンはある一匹のゾンビに隠し玉を仕込んでいた。
(まぁこっち来たら釘爆弾を仕込んだゾンビでボン!するんだけどな)
そう考えながらビゾンが近寄ってくるのを待っていると、ヤノカは四本の剣をクロクで作り、ビゾンの体に投げる。あまりに不意な攻撃に対応できず、そのまま制服を貫通し壁に固定されてしまう。
「あぁ?!」
「よしこれで僕のやることは終わり」
「お前!何が終わりだ!?まだ負けてねぇよ?!」
「……でもゾンビをけしかけたとして、素手で対応される程度の強さ、そしてキミがいないならそんな強くない……って事は、ここに君を釘付けにすれば事実上キミは負けてるって事だ」
そのまま、ゾンビを適当に切り裂きながら上へ進もうとするヤノカ。本来ビゾンは二階にもゾンビを配置していたのだが、欲が出たのか我が出たのか。ヤノカをここで殺してしまおうと全てのゾンビをヤノカを倒すために集中させてしまった。
その結果、完全に裏目に出たと言う感じになってしまった。
「こっち来いや平民産まれ!平民産まれの癖に強い我流魔法持ってんじゃねぇよ!」
「じゃあね。僕はリジュのところに行くからね」
そのまま三階へ向かうヤノカ。一方その頃スターとリジュはと言うと、なぜかお茶を嗜んでいた。なぜこんなことをしているのかと言うと、話は大体三分前くらいにさかのぼる。
「我の名前はリジュ!我が下僕の作戦で貴様の元にやって来た!」
「あら。てっきり平民産まれの方が来ると思っていたのですが……。好都合ですわ」
「何が好都合だ!我の異能を食らわせてやる!」
「その前にお話ししませんこと?」
どこから取り出したのか、イスとテーブルとお茶を部屋に置き、もう片方の椅子に座るよう指示するスター。案外素直なリジュはその誘いにホイホイ乗ってしまう。
「ま、まぁ良いだろう。どれ、では一つ……」
「さて。お話ししたいことは一つですわ」
「なんだ?」
「あなたの能力でヤノカを自死させることは可能ですか?」
「……は?」
理解不能と言った表情をするリジュ。割といいところどころかそれはもう、とんでもないくらいに両親に甘やかされて育てられたリジュからすれば、そんな我流魔法の使い方など一切考えつかなかったし、理解することも出来ない。
「何言ってんの?」
「それが素ですわね?えぇ、至って真面目ですわ」
「何言ってんの!?」
声を荒げテーブルを叩くリジュ。しかしスターは一切怯むことも、言葉を遮ることも無く淡々と話を続ける。今度は少し近寄って話しかけてくる。
「平民産まれなどと付き合うよりも、我々ポラリス家に仕える方がいいと思わないのですわ?」
「だからって人を殺すことが良い事なの!?そんなに嫌いなの!?何がそんなに嫌いなの!?」
「全てですわ。平民産まれの全てが嫌いなのです。ですから奴の事も嫌いなのですわ」
全く理解が出来ないと言った表情を崩さないリジュ。そして再びスターはリジュに話しかける。今度は顔を更に近付け、ほぼ隣に行くまでになっていた。
「あなたは中学の頃、一人も友達がいなかったそうですわね」
「!」
「もし私の言う通りにするのならば、私が友になって差し上げますわ」
リジュはこの中二病をこじらせまくった結果、今の今まで友達と言う人物が一人も存在していなかった。最初にヤノカに話しかけた時、下僕にすると言ったが、アレは友達になって欲しいと言う意味であった。
「ビゾンには足止めを命じていたのですが、どうせ負けます。相性と言うよりシンプルに弱いんですわ。ですから……。あなたが先に来たのは想定外でした」
「……」
「ちなみにあなたに一応の決定権は存在しますが、……。いい返事を期待していますわよ」
思わず過呼吸になるリジュ。目の前にいるモノが本当に人間なのかと疑ってしまう程、この目の前にいるモノは恐ろしいモノであった。決定権があると言いながら、実質あってないようなモノ。
「あっリジュ!大丈夫?」
「ヤノ」「では、よろしくお願いしますわ」
吐き気すら催してくる。ここで逆らえば、恐らくスターはどんな状況だろうが、こちらにとって最悪な行動をしてくるだろう。そう思わせる凄みがあった。
「ヤノカ……」
「なに?」
やや身長の低いリジュに目線を合わせるヤノカ。そしてリジュは、右目に付けていた眼帯を外してヤノカを見るのであった。
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