第十二話『敵とある敵』


「さて今日もパトロールしてるけど……」


「あっクロク様よ!」


「こっち向いてクロク様ー!」


 何と言うか。クロクはかなり目立ってしまっている。正直これなら見られなかった方がいいのかもしれないと思うほどに。しかし今日は特にこれと言って事件は起きず、困っている人を助けることに殉ずるクロク。


「大丈夫ですか?」


「えぇ~。大丈夫よぉ~。この年になると荷物が重くてねぇ~」


「持っていきますよ。いえはどの辺ですか?」


「あっちだよぉ~。すまないねぇいつもいつも~」


 事件解決以外にも、こうしてシンプルに誰かを助けている。それがクロクの人気の一つでもあるのだろう。そして早めにパトロールを切り上げると、今日は帰ることにした。


「っと」


「お帰り。どうだった?」


「いやぁ……。そんなに何かがある訳じゃなかったね。事件も」


「そうか。……ならいいんだけどな」


 ヤノカがパトロールを切り上げたその一時間後、フェルメとガルバニアの二人が路地裏を散策していた。と言うのも、ここでクロクの姿を見たと報告があったのだ。


「流石に治安が良くなっているとはいえ、ああいうのがいると面倒なことになるからねぇ……」


「どっかで大人が止めるべきだな。大人かもしれんが」


 だがその路地裏にクロクはおらず、代わりによぼよぼの爺が一人座っているだけであった。二人は爺を見ると、ため息をつきながらその爺に話しかける。


「大丈夫ですかお爺さん」


「お~?なんじゃったっけ~?」


「痴呆老人だな、どうするアナゥ」


「知るか。放っておこうこんな爺さん」


 二人は期待外れだと言うように踵を返し、爺から離れようとする。が、その瞬間フェルメの腹を貫通する刀。何事だと後ろを見ると、そこには先ほどまでの痴呆老人ではなく、笑顔で刀を突き刺す爺の姿が。


「よぉクソガキ」


 即座にガルバニアは自らの我流魔法を使おうとするが、その前にナイフで指を切断されてしまう。彼の我流魔法は指が無ければ使えないのだ。呆然とするガルバニアの首を爺は掴み上げ、そのまま首をへし折る。


「じ……ジジイ!」


「貴様らが弱いのが悪いんじゃよなぁ」


 腹に刀がぶっ刺さったまま、何とか捕まえようと我流魔法を発動させようとするフェルメだが、なぜか我流魔法が使えない。それに驚愕するフェルメ、対して爺はフェルメの我流魔法である粘着細胞を発動させる。


「じゃじゃ~ん」


「あ……あ?あぁ……?」


「まぁなんじゃぁ……。やはり、お主らが弱いのが悪いんじゃぞ?」


 それでフェルメの体をぐるぐる巻きにすると、爺は刀を引き抜く。そのまま動くことも喋ることも出来ない状態にすると、絶命するまでその様子を見ているのであった。


 そして翌日。夜にどこかに行ってから帰ってこない二人の捜索が始まった。捜索は難航を極め、どこにいるのかさっぱり分からないと言った様子。すると一人の警官がある事に気が付く。


「なぁ。警察署の屋上に旗って何枚あったっけ?」


「あ?『平和』『平穏』『正義』を掲げた三枚だぞ」


「……じゃあ、なんで五枚あるんです?」


 急いで屋上に向かう警官たち。そして旗を降ろしてそれが何なのかを確認する。そこにあったのは、内蔵も骨も筋肉も抜き取られ、布のようにされたフェルメとアナゥの姿が。


「フェルメ!?アナゥ!?」


「おい鑑識呼んで来い!急げ!」


「うっ……うげぇっ」


 余りに悲惨な姿態に、吐き気を催す者もあらわれる始末。これにより警察は大混乱、ただでさえクロクのせいで市民から白い目で見られているのに、これ以上問題を起こしてはもはや機能しなくなると、この事実を隠蔽する事に決めた。


「二人の内蔵やらを探して来い!」


「はーい」


「しかしいったい誰が……」


 何故皮だけにした挙句、わざわざ目立つ警察の旗にしたのか、犯人の目的がさっぱり分からない。ただ一つ分かるのは、この町に凶悪な犯罪者が入り込んでしまったと言う事実だけであった。


 一方ヤノカはと言うと、普通に学校の授業を受けていた。と言っても、さほど重要とは思えないようなモノばかり。特に座学は眠ってしまいそうになるほど退屈で、事実フィルは半分程寝ながら聞いていた。


「我々我流魔法を持つ者は持たざる者の為、そして他人の為に力を使わなくてはいけません」


「……ねぇ(小声)」


「ふごっ?!……なんだよ?(小声)」


「わざわざ言わないと使わないの?(小声)」


「全員が全員、お前みたいな善人じゃねぇんだよ。この世界は(小声)」


「はいそこ!喋らない!」


「すみません……」


「はいはいすんません」


 怒られてしまった二人。さて、この学園は外と半分くらい隔離されているのだ。なのでこの中では先ほどの警察官殺害事件の情報など知る由も無いのである。


「我流魔法を悪用する者は特急犯罪者として裁かれます。基本は能力を剝奪されるか、死刑になるかの二択と言う厳しい罰を受けます」


「それでも悪用する奴はするけどな」


「えぇ。ですがこの町ではかなり犯罪者は少ない方です。それは……」


「クロク様が守っているからですわ!」


「……警察です」


 しょんぼりしながら座るスター。何がしたいんだよと思うが、その辺を突っ込んだら負けなのであろう。その後は何事も無く授業は進み、遂に実技の時間に移るのであった。

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