一章『奇妙なクラスメイトと平民煽り』
第九話『入学初日と……誰?』
「しかし制服あるのか。僕じゃ買えないくらい高い奴……」
「そう言うのも格差助成の一旦なんだろうなぁ」
入学が決まった数時間後、二人は仕立て屋に来ていた。学校指定の制服が必要なのだと言うのだが、それがまぁ高い。具体的に言うとヤノカが今まで稼いできた金額の二倍以上くらいはする。
「お支払いの方は」
「じゃカードで」
「ありがとうございました」
そんな二人分の制服をカードで買いつつ、父親に見せる為に着用する。
「オヤジ!どうだこの服!?」
「おぉ……。似合ってるぞ。……と言うか、やはり急だな」
制服はちゃんと測定して貰ったのでピッタリ。胸には青い時計のマークと、名前を入れた刺繍。ズボンは藍色染めで両端にポケットが付いている。後カバンも買っており、これは手さげ系のカバンであった。
「だよなぁ。俺らはともかくヤノカだったら買えなかったと思うんですけど」
「そうなったら借金するしかないよね」
苦笑しながらそういうヤノカに対し、フィルは割と真面目に忠告してくる。
「そう言うのは間違っても言うんじゃねぇぞ。この辺の借金とかクソの極みだからな。なんかあったら俺が出す。その方が健全だ」
「そ、そうなんだ……。まぁ自分の事くらい、自分でやるよ。バイトも割とあるし……」
「あっ、あの学園バイト禁止だぞ」
それを聞いた瞬間項垂れるヤノカ。まぁ最近は新しいバイトも増えて来たらしく、持て余していたと言えばそうなのであるが。店長にバイトを辞めると連絡鳩を飛ばしつつ、これからどうするか考える。
「じゃお金どうすれば……?」
「シンプルに学園内でバイトはあるが……。大会に出るとかか?」
「何大会って?」
「オヤジ。確かあったよな?賞金出る奴」
「あぁ」
大会があると言う情報は知っているが、具体的にどういう物なのかは知らないフィル。その辺はフィル父が追加で解説をする。
「まず大きく分けて三つの大会がある。『武術』『勉学』『我流魔法』だ。これは才能のある者を優遇しようと言う、よく言えば実力主義、悪く言えば弱肉強食なシステムだ」
「うーん……。ちなみにフィルのお父さんは大会に出たことはあるんですか?」
「一度な。我流魔法大会に出て、優勝した。武術も我流魔法も一見同じに見えるが、その中身はかなり違う。武術は我流魔法も無い純粋な技術を競い、我流魔法は我流魔法で戦う対決の事だ。……見世物のように扱われる事になるが」
「そりゃまぁ……。確かに厄介だな。俺は別に気にしないけどな」
とりあえず資金面は何とかなりそうである。と言ってもまだ確定した訳ではないが、二人共毎日のように修行しているので、それなりに強いのだ。
「とりあえず二人共。今日は寝なさい」
「はーい」
「そういえばオヤジ、あそこに寮あったよね?」
「そうだ。ただ同じ部屋になるかは分からないが」
まぁ考えていても仕方ないので、とりあえず今日は寝ることにした二人。翌朝、二人は目覚め、寮生活の為に荷物を詰め込めるだけ詰め込み、フィル父に一旦の別れを告げ学園に向かう。しばらく歩くと学園にたどり着き、ヤノカは学園を見上げる。
「やっぱり大きいよね、この学園……」
「だな。なんでも元々山一つあったらしいが、それをぶっ壊して土地に変えたって噂がある」
「へー。ところでなんか視線を感じるんだけど」
「気にすんな。とりあえずクラスは……」
「初めましてだな二人共!」
やはり平民産まれであるヤノカは珍しいのか、ヤノカを見る目は色々な感情を感じる。大半は負の感情であるが。さて、基本的に大体の生活は学園の中で済む。面倒なチェックインを終えると、ほぼここから出る事は出来ない。そんな面倒な学園の中に入ると、いきなり中二臭い女が話しかけてくる。
「誰だお前?」
「あっリジュ・メ・ナだ」
「我の名前を憶えているとは、殊勝な心掛けだな!もう一度言うが我の名は『リジュ・メ・ナ』!メ・ナ家の一人娘である!」
いきなり話しかけてきたリジュに対し、フィルは訝しげに見るが、ヤノカは名前を憶えていたので、とりあえず話しかける。ヤノカは大概の人間の名前は憶えているのだ。聞いた場合は。
「それでそのメ・ナ家のお嬢様が俺らに何の用?」
「うむ!我の下僕になる事を許そう!」
「そうか。そう言うの俺ら余ってるんで。おい行くぞヤノカ」
「え、話くらい聞いてあげても……」
「あの、ちょっと……」
そしてリジュは、自信たっぷりにこんなことを言い出す。しかしこれでは呆れられるだけである。実際、フィルは早々に話を切り上げ立ち去ろうとヤノカの手を引く。
「あ、あうぅ……」
何やら悲しそうな顔をするリジュだったが、二人共それを見ることなく教室に向かう。既に何人かが教室におり、それぞれ席に座っているようであった。その中にはスターの姿も。
「あら。買えたのですわね、制服」
「まぁな。ところでさっきいたリジュとお前の服じゃ全然毛頭が違うな?オーダーメイドか?」
「ですわ。ある程度のカスタマイズは認められているのですわ。まぁ平民産まれに出来るとは思いませんが」
「一々とげがある言い方だなぁ……」
先ほどのリジュの制服がゴスロリのような制服であるとすれば、スターの制服は派手な格好の服であった。無駄に。スターとフィルが言い争っていると、トボトボと教室に入ってくるリジュの姿が。
「……。ん!我の名はリジュ・メ・ナ!よろしくだ!」
「あっリジュ。よろしくね!」
「……しかし、それよりまだ来ていない者がいるのですわね。平民産まれですら時間内に来ると言うのに」
一時限目開始まで、残り五分と言ったところ。ヤノカらは間に合うようにちゃんと来たのだが、まだ来ていない奴もいる。と、そう言っていると二人分の足音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん!だから言ったでしょ遅くなっちゃうって!」
「す、すまんリン!しかしまだ必要な物があると思ってだな」
「だからって遅れちゃダメでしょ!ほらもうみんな来てるよ!」
大きな足音を立て、入って来たのは兄弟二人組。兄の方は無駄に多い荷物を背負ってきており、妹の方はそんな兄を引きずりながら教室に入って来た。
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