第八話『試験終了とやはり事件』
「あれって平民産まれの……?」
「なんでも我流魔法使えるようになったんだって」
「誰かから貰ったとかじゃないの?」
「さて」
ボールの前に向かうヤノカ。そしてボールを持ち上げようとするが、なぜか異様にボールが重い。持ち上げようとしても全く持ち上がらない。既に砂時計は計測開始されている。
「おいどうした?」
「……フフ」
「……まさか?!」
観客席を見ると、不敵に笑うスターの姿が。ボールをよく見てみると、何か膜のようなもので覆われていることが分かる。これが持つのを邪魔しているのであろう。
「……くっ!」
まさか嫌っているとはいえ、普通に邪魔してくるとは思っていなかったヤノカ。だがこれは自分が考えなかったのが悪いと判断し、何とかする方法を思考する。影人間は、落ち着いて戦えばまず倒されることは無いが、時間が問題である。
(どうする!?飛んで持っていく……いやダメだ!クロクを使っての飛び方はもうほとんどみんなが知ってる!使ったらバレる……!どうする?!)
そうこうしているうちに、時間が半分程になってしまう。一分と言うのは案外短い物だ。しかしどうにかしなければ入学出来ない。能力を公にする事はリスクしかない。
「なら……!」
ここで、ヤノカはズボンに入れていた黒い手袋を取り出す。これはフィルがもしを備えて渡していた物。クロクを最大限に使えるように、念の為に持たせていた物。
「……」
「使うのかヤノカ……!」
「あれ良いんですわ?」
「別に。武器だろうが何だろうが入れりゃ勝ちだ。お前の二人前の奴も使ってたろ?まぁ逆にゴールに入れられたが」
この意図を知っているのはフィルただ一人。使った瞬間に腕のパワーが思い切り上昇。しかし既に影人間に囲まれている。
「フォーメーション・ガードだ。まぁ切り抜けられるならやってみろ」
「十人がかりで邪魔されると……凄い邪魔!」
とりあえず一体一体ボコボコに殴り、前へ前へと進もうとする。だがそこは影人間、全く意に介さないでヤノカを殴ってくる奴もいる。人形には痛感とかが存在しないのだ。
「残り十秒な」
「ヤノカ!急げ!間に合わないぞ!」
「……」
進もうとしても、足にしがみついてまで足止めしてくる影人間達。そして無情にも砂時計の砂は落ち切ってしまう。
「……」
「ヤノカ!」
「待て。まだ試験は終わってない」
だが。この戦闘の勝利条件はあくまで『ボールをゴールに入れる事』である。確かに、ヤノカ本人は全く進むことはできなかったが、ボールだけならちゃんとゴールに入っていた。
「あの野郎……。中々策士だな」
ヤノカは残り三十秒の時点で、恐らく本人がゴールに向かう事は出来ないと判断した。その為、黒い手袋にクロクを詰め込み、その手袋にボールを隠してぶっ飛ばしたのである。
「ゴールに入れろってだけなら……。これでいいんでしょう?」
「ヤノカぁ!」
「ま、合格だ。制限時間内に入れてたからな。今年の合格者は十六人……。上々だ。お前ら明日から来いよ。午前十時に集合な」
入学が決まったことで、ヤノカとフィルは抱き合って喜ぶ。スターはそんな二人の姿を、どうでもいいモノと思いながら帰っていくのであった。
「さて……。帰りますわ」
入学が確定したので、早速家に帰って報告をするフィル。フィル父も無表情ながらに喜んでいることがなんとなく伝わってくる。
「オヤジ!入学したぜ!」
「そうか。……。ヤノカは大丈夫だったか?」
「僕も入学出来ました!合格だそうです!」
「そうか。今日は良い店を予約していたのだ。一緒に行くぞ」
そしてかなり高い店に向かうのであった。
そんな訳で三人(と部下やらメイドやら)がワイワイしている最中、町では変な奴がやってきていた。確かに老人なのだが、姿がファンキー過ぎるのである。
「なんだあいつ……」
「ふぉふぉふぉ……。あんた我流魔法欲しくない?」
「なんだこのジジイ。帰れ帰れ」
相手にされない老人。この町ではよくある事である。しかしこれに食いついた奴らがいた。それはクロクに一度ぶちのめされた奴らであり、クロクに対して凄い逆恨みを持っている。
「あのクソガキ!……。殺してやりたいぜ!」
「あいつのせいで俺は何度もスリの犯行現場を押さえられちまってんだよ!」
「商売あがったりだこの野郎!詐欺られねぇじゃねぇか!」
「ふぉふぉふぉ……。なら持てばいい。我流魔法をな……」
そして、四人の人間に我流魔法を与えた老人は夜の闇に消えていく。この四人も平民産まれだが、平気な顔をして悪の道に落ちた奴らである。
「これで犯罪し放題だぜぇ!?」
「ハッハー!俺スッて来るわぁ!」
確かに、三下のどうしようもない奴らであるが、少なくとも我流魔法を持った悪人がその力をまともに使う訳も無く、波乱な状況になる事は確かであった。
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