第七話『ゴールを決めろ!』


「さて。今からお前らには試験を受けてもらう」


「あの……外に出る意味は……?」


「流石に室内でドンパチする訳にはいかんのでな。さてルールは一つ。俺の分身をゴールに叩き込め」


 相変わらず影人間に自分を運ばせながら、校庭に出るとゴールポストの前に現れキーパーの格好をする影人間。ここまで見れば大体シャードの我流魔法がなんなのかはわかりそうなものである。


「とりあえず言っておくが……俺の我流魔法は『影人間ドッペルマン』。俺の影から影人間を出現させられるって言う能力だ。さて……。じゃぁこの影人間をゴールに叩き込んだ奴が入学できる、一人五分……は、ちょっと長いかな、一分でやれ」


 そう言い放ち、シャードは寝る。さてどうするかと考えていると、一人の男が挑戦しに向かった。なんというか強そうな男であった。


「ふん。何がゴールに叩き込んだらだ、一分もかからねぇよ!」


 そう言うと、その男は両腕にエネルギーを溜める。彼の我流魔法は『爆破魔弾チャージショット』。まぁ力を溜めれば溜めるほど強くなると言う我流魔法である。


 しかし、影人間はそれを見るや否や男の体を殴り飛ばし、そのままゴールに叩きつける。よく見ると、フィールドには十一人の影人間が立っていた。


「……は?」


「サッカーだからな。はい次」


「っふざけんじゃねぇよ!?」


 流石にこれにはキレる男。しかし影人間がそれを許さない。頭を掴むとそのまま地面に叩きつける。何度も。何度も何度も。そして男が意識を失ったのを確認し、適当にその辺に投げ捨てる。


「私は去年、無駄に人間をこの学園に入学させてしまってなぁ。才能ナシと判断したから全員退学させた。くだらない学力の試験などやる必要なし。私が判断する」


「あ……。あが……」


「じゃ……次」


「マジ?ヤバいじゃん」


「まぁ十一人をどうにかしてゴールに叩き込めばいいってだけだろ?何とかなるだろ」


「あの程度で怒るとは……。平民産まれより無様ですわね」


 その後も何人か挑戦するが、ことごとく失敗する受験生達。しかしここで自信満々に一人が挑戦しに行った。今度はかなり小柄な少女。言い方は悪いけど弱そうであった。


「我の名前は『リジュ・メ・ナ』!リジュと呼んで貰おうか!」


「いいから行け」


「うむ!では行かせてもらおうとする!」


 なんか変なしゃべり方をする女であった。オレンジ色の無駄に艶が良い髪をしている、無駄に顔がいい女。早速フィールドに入ると、右目に付けている眼帯を外し、目を見開き何かを叫び出す。


「『我が支配下に飲まれよ!絶対厳守の法コンパクトラブ!』」


 静寂に包まれる校庭。が、どうやらその効力は絶大なようで、実際影人間達が完全にひれ伏している。どうやらアレが我流魔法に値するらしい。催眠魔法と思われる。


「ハイ合格。次」


「適当だなぁ……。じゃ俺行くわ」


 合格者の一人が出たところで、遂にフィルが試験を受けに行く。凄い自信満々である。しかしその実力を知らない奴らは、前評判だけを見て若干バカにしている。


「あのボンボンが?」

「行けるとは思えないけどー」

「前が行けたからって行ける訳じゃないだろw」


「うるさいですわね……。そういうのは平民産まれだけにしておきなさい」


「キミは何?僕の事を侮辱するだけの機械か何か?」


「いえ。しかし事実ですわ」


 フィールドに出ると、早速ボールを手に取る。誰も蹴って入れろなどと言われていないし、さっきの奴も実際最終的に手で入れてたし。我流魔法を発動し、すぐに肉体強度魔法も追加で発動する。


「せー……。のっ!」


 二重の身体強化を使ったフィルの体は、メチャメチャ強い肉体になっている。その状態で投げられるボールがどれほどの威力になるかくらい、大体察することはできるだろう。


「へぇ」


「……。え?」

「あれ?あいつ身体強化とか言う地味な奴じゃなかったっけ?」

「何あれ」


「よぉ。ゴール決めて来たぜ!」


「やっぱ十一人全員ぶっ飛ばすを見ると気持ちいいね!」


 ボールを止めようとした一影人間がボールもろとも吹っ飛び、それを止めようとした影人間が吹っ飛び……。と、影人間は『ボールを止める』事と『対戦相手をゴールにぶち込む』事のみ指示されている結果、全員がボールを止めに行き、全員吹っ飛ばされていた。


「合格。そういやさっきの奴に名前聞いてなかったな……。まぁ後で聞けばいいか。で名前は?」


「フィルガだ。フィルで頼む」


「あいよ。……次からフルネームで言えよ。じゃ次。行け」


 その後も何人かは合格するが、最終的にヤノカ試験前に残ったのはたったの十数人。他の奴らはボールを入れられないか、逆にゴールにぶち込まれていた。


「流石に低レベルですわね」


 と、ここで今まで動かなかったスターが動く。ボールの元まで向かうと、ボールをバリアで囲い、そのまま真っすぐゴールに向かわせる。影人間は全く歯が立たない。そのままゴミクズのように弾き飛ばされる。


「終了ですわ」


 開始十秒足らずで、即終了。流石に名家の産まれらしく、強い能力らしい。聞いていた話以上の強さである。


「……やっぱああ言うだけの事はあるよな」


「レベル違うよね、根本から……」


「ポラリス家のお嬢か。じゃ最後」


「……あっ僕か」


 ここまでやってきて、ついに最後の出番がやってくるヤノカ。だが少しだけ問題がある。それはこのヤノカが提出した我流魔法について。と言うのも、ここに来る前にフィルと話していたのだ。


『シンプルに、バレる可能性あるからお前はあまり能力を使いこなすな』


『やっぱり僕がクロクだってバレると……不味い?』


『非常にな』


 なので、現状ヤノカは本気を出せない状況にあると言う訳なのだ。

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