第四話『ファン?』


「えっと……。何?ファン?」


「えぇ。私はクロクファンクラブ会長のスターロード。スターと申します。どうぞこれを……」


「は、はぁ……」


 スターから渡されたのは恐らく手作りのクッキー。困惑しながらもそれを受け取り、色々話しかけてくる。その見た目からは想像もつかぬほどのマシンガントークである。


「クロク様が現れる行動パターンを研究し、今日は確実にここに来ると知っていましたわ。ですので張り込ませていただきました。あぁ心配なされないでくださいまし、既にそこの暴漢などは倒していますわ」


「えぇ……」


「はっ!暴漢に襲われるフリをして助けていただくのもアリでしたわね……。いえしかし、それはポラリス家の家名がけがれると言う物、絶対にいけませんわ……。しかし!しかしですわ!『あぁスターロード……助けに来たぞ』などと言われた時にはもう!」


「……あっちに悪人が現れたから、行くね……」


「待って!待ってくださいまし!」


 これには流石についていけないクロク。とりあえず泥棒が出たので早速始末しに行こうとするも、足を捕まえて離してくれない。しかも着いて来ようとする始末。


「あっ危険だから!飛ぶから!」


「いえ!ご一緒させてくださいまし!」


「無理!じゃあね!」


「あーっ!クロク様!クロク様ーっ!」


 流石に引っぺがすのはかわいそうなので、クロクはブーツ(フィルに買って貰った服)を自ら脱ぎ、そのまま飛んでいく。なんだか騒々しい娘だったなぁ……、とか思いながら、泥棒三人組をとっととぶっ飛ばす。


「あっクロクだ!こっち向いて!」


「ども……」


「喋ったぞ!口あったんだな!」


 一体クロクと言う人物はどんな感じに見られているのだろうか?疑問は尽きないが、知ったことではない。自分がどう見られていようが、自分の信じた事を行えばきっといいことがある。そう信じているのである。


「さて……こいつらを警察に引き渡すかな」


「おいクロクと言う奴!警察われわれの仕事を取るんじゃない!」


「じゃあお前らが動けよ!クロクの方が速いんだぜ!」


 警察に引き渡そうとしたところで、警察と住民の大乱闘が始まった。これは不味いと一旦避難。見えない場所で仮面を外すと、自分のいた病室に入る。


「で?どうだった?」


「いやまぁ……。なんか凄い事になってるなぁって……」


「実際、クロクって言う名前を言えば誰でも知ってるレベルだからなお前。半年の年月の積み重ねは伊達じゃねぇってこった。うん」


 この半年、クロクはほぼ毎日この町に現れる悪人を倒したり、パトロールなどを繰り返していた結果、名物になる程知名度が増えていたのだ。ともすれば、当然面倒な奴も増えると言うのが当たり前。


「成程なぁ……。でも辞めるつもりは無いよ」


 あっけらかんとそう言い放つヤノカ。フィルもこいつならそう言うだろうと、ベッドに寝転がりながら安心した表情で一枚の紙を見せつける。


「だろうな。ところでお前のファンクラブあるって聞いたぞ」


「……さっき出会ったばっかりだよ」


「へー。名前は?」


「確か……。スターロードだったっけ」


 隣に置かれたクッキーに手を出し、口にくわえようとした瞬間、その名前を聞いたフィルは、思わずクッキーを噛み砕いてしまう。その顔には明らかに困惑が出ていた。


「えっスターロード?あのポラリスってあの……?あの?」


「知ってるの?」


「まぁうん……。と言うかポラリスって名前はとんでもない名家だけど?知ってなきゃおかしいレベルだけど?」


「僕は平民産まれ」


「あっそうか……。そういやそうだったな。ポラリス家ってのは、代々バリア系の我流魔法を持ってる一族で、スターロードはなんと十三代目のメチャクチャ強いバケモンって噂だ」


 初代ポラリス家『ポラリス・スペースオペラ』はしょぼいバリアを出すだけの我流魔法を持っていた。そんな中、彼はいち早く『同じ系統の我流魔法同士で子供を作ると強力な我流魔法の子供が生まれる』と言う事を理解し、自らを売った。それから、ポラリス家は有り余る財力を使い、同じ系統の我流魔法の持ち主を嫁や婿に誘い、我流魔法を強くしていったのである。


「……確かに、ちょっと出会っただけだけど、凄く強そうだったよ。少なくとも僕より……かも」


「ただでさえ十二代目が化け物呼ばわりされてたのに……、その娘とか、もうあり得ないくらい強いと思うぞ。まぁまだ問題はあるけど」


「何?」


「いやその……、言い方悪いんだけどさ」


「うん」


「スターロードってメチャクチャ平民産まれ見下してんの」


 若干呆れが入っているフィル。と言うのも真面目にスターと言う少女は、凄く平民産まれを見下している。その見下し方は凄まじく、ちょっと目に入っただけで暴言を吐きまくると言ったレベル。


「そうなんだ……。それは別にいいけど、彼女僕らが入学する学園に入学する感じ?」


「ま、だろうな」


「……大丈夫?気付かれない?と言うか見下されない?」


「大丈夫だろ。変声機付けてるんだから、まずバレる事は無いと思うぞ」


「と言うか僕らの場合……。試験勉強の方が難しくない?」


 スターがどれだけ問題かを言っている間に、それ以前の問題が出現してしまった。二人とも勉強はまるで出来ないのである。さてどうするかと考え始める二人なのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る