第三話『入学するにあたっての色々』


「結構強くない?その我流魔法」


「まぁ鍛えれば強いって奴だけどなぁ……。俺の両親の我流魔法、メチャクチャ派手で強かったもんで、そういうのが身に付くものだと」


「あー……、考えてた奴との違いが大きすぎて困っちゃった訳ね」


「そういう事」


 組み手を始めて約五分後。フィルの我流魔法が解けたので、一旦休憩を取りながら、なぜこんな強い我流魔法を持っていながら不良行為をしていたのかを聞いていたヤノカ。


 帰って来た答えは、大体考えていたようなモノであったが、それを自分の口から聞けたと言う事が成長なのである。ヤノカはそう思っていた。それはそうと、今後どうするかの話をする二人。


「で、高校入学に関してだけど……。ちょっと面倒な書類関係はオヤジに押し付けちまった」


「そういうのは自分でやったら?」


「そりゃ自分でもやりたいと思ってるけどさぁ。ちょっと難しいんだよねぇ」


「まぁ。こういうこと言ってるけど?僕もそういうのは全然だし」


「だよなー。書類見るだけで嫌い」


 高校生的な会話をしつつ、再び身体強化を使えるようになったので、早速再度スパークリング。今度はクロクで体を強化しながらの組み手。割と打撃一発一発がクロクを破壊できる程の威力なのだが、その辺は技術で補っている。


「その体術!びっくりするなぁ!」


「僕からすれば、その攻撃力がびっくりだけど?しかもスピードまであると来た。クロクでガードしなかったら本気で砕けてたよ?」


 流石に直撃するとヤバいので、回避するヤノカ。だが全力で振りぬいた拳を地面に突き刺し、もう片方の腕でヤノカの服を掴み、地面から腕を引き抜き両手で投げるフィル。途中で離すのではなく、思い切り掴んだまま地面に叩きつけるガチの奴。


「俺からすれば……。そのクロクって物質の方が気になってんだよなぁ!口から出せんのか?武器になんのか?なんだその硬度は!」


「そういうの……。僕にもわかんないんだよね!と言うかクロクって呼んでるだけで、我流魔法の名前すらわかんないし」


「ま?適当でいいんじゃね?俺も適当につけられたしなぁ!」


 地面に思い切り叩きつけられたが、クロクを背中にクッション代わりに仕込んだためほぼ無傷、それどころかそのまま攻撃に転じるための布石として、既に腕にクロクを移動させていた。


「じゃぁそうするよ!」


「そうだよなぁ!」


 クロクを纏った腕で、全力で顔を殴るが、全く意に介さない。前に投げ、飛んで行ったヤノカを追うように走り、全身をタコ殴りにするフィル。何とかクロクで防ぐのが精いっぱいで、反撃も出来ない。


「ちなみにクロクは……口から出るんだよ!」


「うおっ見えねぇ!」


 壁に叩きつけられる寸前、口から出るクロクを顔にぶちまけ視界を奪うヤノカ。そして素早く拳を掴み、勢いのまま壁に叩きつけようとする。


「っ……らぁっ!」


「この程度……対応出来んだよなぁ!」


 だが、フィルは壁に足を付けると、逆に腕を掴んで上に投げる。壁を走り更に追撃を仕掛けようとするフィルに対し、ヤノカはどちらかと言うと冷静になっていた。クロクを槍のように集合させ、そのまま下に落とす。


「やっぱそれ応用力ありすぎだろ……うがっ!」


「あっヤバいクロクが尽きた!」


 と、ここでヤノカは出せるクロク量の全てを出し切ってしまっていた。大体三万個くらい出すことが出来るのだが、この一戦だけでその全てを出し尽くす程。


「なら……っと!俺も時間だ」


 それを聞いて、追撃をしようとしたフィルだが、フィルもまた身体強化の効果時間が切れてしまった事に気が付く。そしてそのまま二人は地面に激突する。


「……これ、勝敗とか……ある?」


「ねぇな!……引き分けって事にしようぜ!」


 結局二人は色々な骨が折れていたので、病院に連れ込まれることになってしまった。幸い、一週間程度で退院は出来たが、その間はクロクとしての活動は出来ずじまい。


「よし」


「待って?」


「何?」


 と言う訳で病室を抜け出しクロクとして活動しようとしたところで、呼び止められるヤノカ。その手にはヤノカが付けている仮面を模した物が。


「そういえばお前の仮面って……買った奴?」


「そうだけど……。何か?」


「これさ。俺がコッソリ作ってた仮面なんだけど。こいつ結構性能いいからこれ付けて活動したら?その単なるマスクよりは良いと思うし」


「うーん……。デザインがね」


「そこぉ!?」


 デザインに文句を付けるヤノカだが、その辺は後で変えてもらえばいいかと、その仮面を付けて夜の街を飛ぶヤノカ。今日もまた、異様に治安の悪い街である。


「これ結構性能良いね。変声機とか飛行補助とか……。にしても、ひどいな」


「オラオラ俺を誰だとぉっ!?」


「たった一週間何もしないだけで治安が悪くなってる……」


 相変わらず最悪の治安の中、今日は張り切ってパトロールする事を決める。そしてしばらく悪人やら何やらをクロクでぶっ飛ばしていると、ふと誰かに呼び止められる。


「クロク様ですの?」


「?」


「あぁ、わたくしは『ポラリス・スターロード』と申します。この町の平和を守っていらっしゃると聞き、こうしてお初にお目にかかろうと思ったのですわ」


「は、はぁ……」


 目の前に現れたのは、メチャクチャ凄い貴族の一人娘であるスター。長い金髪を縦ロールでまとめ、かなり整った顔に無駄にでかい胸、そして何より、目の中にある十字がポラリス家であることを示していた。


 ポラリス家と言うのは、かつてこの世界に我流魔法が産まれた時、初めて我流魔法を持った者同士で結婚すると、我流魔法を持った者が必ず生まれてくるという発見をした超絶名家である。


 そんな彼女が何故クロクに話しかけたのかと言うと。


「私……。あなた様のファンなのです」


「え?」


 単なる一ファンと言う理由であった。



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