第二話『結局、能力はパワーだよな!』
「オヤジ!帰って来たぞ!」
「……そうか」
「じゃ、俺ちょっと着替えてくるから!ちょっとヤノカと話しててくれよ!」
家に案内されたヤノカは、凄く大きな部屋にいる父親にあわされていた。部屋の大きさだけで、ヤノカの家と同じくらいの大きさがあった。そしてフィルの父親はと言うと、凄く厳格そうな父親であった。
「……」
「……」
話すことが無い為に、気まずい空気に包まれる部屋の中。と、ここでようやく父親の方が口を開く。
「……おい」
「は、はい!」
「……そう固くならずともいい。……それより、平民産まれだな?」
「ま、まぁ……。はい」
「そうか。なぜ我が愚息が人を連れて来たのかと思ったが……。まさか平民産まれと来るとはな」
何やらトゲがある言い方だが、このくらいはいつも言われていることなので特に気にしない。むしろフィルの事を愚息呼ばわりした方に若干怒っているヤノカ。
「愚息?」
「……特に何をするでもなく、ただ毎日下らん事ばかりするような息子を、愚息と呼ばずになんと呼べばいい」
「それはそうかもしれないけど。……でも変わろうとしてるんだから。今に目を向けるべきでしょ」
「……お前に言われるでもない。……そのくらいは分かっている」
そう言われると、父親は頭を抱え静かに目を伏せる。
「……分かっては。……いるのだがな……」
その一言には、何やら言いようのない自責の念が含まれているような気さえした。とは言え、そこに突っ込んだところでたいして何かできるとは思わないので、口を噤んで話を聞くことにした。
「奴の我流魔法が判明した時、奴はこれ以上ない程に落ち込んでいた。……そして、奴は奇行に走った。私は何も言わなかったが……、正直。見ていて辛いものがあった」
「……」
「分かるか?……分からんか。奴が一番望んでいた物は、奴が一番望まない物であったと言う事なのだ」
「それは……ひどく、つらかったでしょうね」
一通り言い終えた父親は、静かに天を仰ぐ。
「だが帰って来た奴の顔を見て……、何かいいことがあったのだろうと思った」
「ですか」
「……久しぶりだった。奴の笑顔を見たのは……。あれほどいい笑顔が出来ると知ったのは……。初めてだった」
そう言うと、即座に脇に連れていた部下を下げさせ、部屋の中に二人だけの状態を作る。
「あいつ、いい笑顔するんですよ」
「あぁ。……今から言う事は、私の独り言のようなものだ」
「は、はぁ……」
「私の妹は、我流魔法を持っていなかった」
「え?」
「……故に、貴様が平民の産まれだろうが、何者だろうが関係あるまい。我ら『レギン』家は貴様を全面的に支援するとしよう!」
「……え?」
「以上だ。そろそろ奴が帰ってくるだろう」
そう言い終えると、部屋に勢いよくフィルが入ってくる。シャワーでも浴びたのか、かなり小奇麗になっていた。出会った時とはまるで違い、メチャクチャ輝いている金髪に金色の目、そして明らかにおニュー感のある服を着て来ていた。
「オヤジ!訓練所貸して!」
「自由に使え。そして一度お前が決めた事なら、最後までやり通せ」
「分かったぞ!よーしヤノカ!ちょっとスパークリング付き合ってくれよ!」
「あ、あぁ!ちょっと待ってよ!僕場所分かんないんだけど!?」
生き生きと走り出すフィル、それを追いかけようとするヤノカだが、それを少し止めるフィル父。
「少しだけ」
「あっはい?」
「……ありがとう。息子を、救ってくれて」
座ったまま、頭を下げるフィル父。そこには、レギン家の長としてではなく、ただ一人の父親としての人間がそこにいた。当然、ヤノカも平民ではなくただ一人の人間として接していた。
「いえ、僕は特に……」
「息子は本当は凄い力を持っている。それを出さずに腐らせるのはもったいないと思っていた。……フィルガをよろしく頼む」
そう言い、再び深々と頭を下げるフィル父。ヤノカはそれを見て、自分も頭を下げるのであった。
「さて。……ちなみに訓練所はあの一際大きい建物にある。呼び止めて悪かったな」
「あ、わかりました!」
そしてヤノカが訓練所に着くと、既にサンドバッグを数個破壊しているフィルの姿があった。恐らく我流魔法を発動しているのか、謎のオーラがフィルの周りを覆っていた。
「ふぅ……まだまだだな」
そして追加でもう一つサンドバッグを破壊したところで、やって来たヤノカに気が付く。とりあえずヤノカはフィル父に渡された水筒を手渡し、汗を拭きながら自らの我流魔法がなんなのかを説明するフィル。
「コレお前のお父さんから」
「おっ、水筒か。とりあえず後で飲むとして……。俺の我流魔法に関して言ってなかったことがあると思ってな」
「名前?」
「ま、まぁ名前も言ってなかったような気が……。するな。俺の我流魔法は『
「確か身体能力を倍加する我流魔法……。だっけ?」
「そうだ!よく覚えてたな。それでな、さっき試してみたんだよ、普通の
「へー。確かに、シンプルな我流魔法だからそれと混ぜて使うことが出来るのかもね」
現在、フィルは肉体強化魔法の上位版を自らにかけた後、我流魔法である身体強化を使っている。これにより、現在彼の肉体は鋼鉄をも素手で砕くことが出来るくらいには強化されている。
「これなら他の我流魔法にも目劣りしないくらいに強いぜ!」
「確かに。ところで組み手……。やる?」
「よっしゃ頼むわ!さぁ来い!」
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