第44話 犬プレイしているときの優花も魅力的なんです!
「何を言い出すかと思えば。犬プレイしている優花も可愛いだと? 冗談はほどほどにしたまえ」
「冗談なんかじゃありません!」
少々語気を強め、表情の真剣さを高めながら俺は自分が本気であることを示す。
それを見て、賢一さんはますます嘲りの色を濃くする。
「正気かね岩瀬くん? 犬プレイをしている優花を可愛いと思うなど、普通ではない。もしそんな感覚を持っているのだとしたら、今すぐに捨てたまえ」
「俺はいたって正気です。彼女びいきになってるわけでもありません」
それから俺は、犬プレイしているときの優花を思い浮かべながら話を続けていく。
「犬として振る舞っているとき、優花はすごく甘えてくるんです。撫で撫でをせがんできたり、積極的にスキンシップを取ろうとしてきたり」
「それが何だと言うんだね?」
「普段の優花は頭もよく品行方正で隙がないイメージです。そんな優花が犬プレイしながら俺に甘えてくる姿は、いつもの凜とした様子とギャップがあってすごく可愛いんです!」
「犬プレイという変態行為を通して甘える優花を愛でる意味がわからないね。犬プレイをせずに甘えられたほうがいいのではないかね?」
「素の優花は甘え方もよくわからない甘え下手です。でも犬プレイを通してなら、優花は思う存分甘えることができます。やってることは歪んでいても、本人が気持ちよくやれるならそれでいいじゃないですか」
初めはどうせ甘えるなら犬プレイ抜きにして甘えて欲しいと思っていた。
それでも優花が犬プレイに目覚めたきっかけを聞いて。犬として振る舞うことが優花なりの甘え方だと知って、俺の考えは変わっていったのだろう。
そんな今なら断言できる。
優花にとって一番の甘え方は、犬として振る舞うことである。他の方法に代えることはできないと。
「彼氏として、俺はずっと犬として振る舞う優花を見てきました。そんな俺だからこそ、言えることがあります」
すうーっと息を吸ったのち、俺は一段と大きな声で自分の主張を解き放つ。
「素の優花も十分魅力的です。ですがそれ以上に、犬プレイしているときの優花も魅力的なんです!」
「……何をバカなことを。その理屈だと、優等生としての優花が、犬プレイしているときの優花に劣ることになるではないか。変態的なプレイをしている優花が、優等生の優花に負けるわけがなかろう!」
「いいえ、犬プレイしているときのほうが魅力は上です! 優花は犬プレイしているときが一番自然体で、可愛さが引き出されますから!」
まさか俺が犬プレイしているときの優花のほうが魅力的と言う日が来るとは。自分でもびっくりだ。
こうなったのは優花のせいだ。優花がことあるごとに犬として振る舞ってくるせいで、俺はおかしくなってしまったらしい。
でも、おかしくなったおかげで優花の新たな魅力に気付くことができた。
だから、これでよかったのだろう。
「最初は俺も優花に犬プレイをやめさせようとしていました。ですが今では、優花のためを思うなら犬プレイを禁じてはならないと思っています。優花が優花らしくあるには、犬プレイが必要なんです!」
犬として振る舞うのが好きで、俺との犬プレイを楽しむ。それもまた優花の個性だ。なくしてはいけない個性なのだ。失ったままになどさせない。
「お願いします! どうか優花が犬プレイすることを認めて下さい!」
一通り主張をぶつけ終えた俺は頭を下げ、賢一さんに懇願する。
賢一さんはしばらく無言だった。
やがて沈黙を破った賢一さんは、冷淡な様子を崩さぬまま答える。
「岩瀬くんの言いたいことはよくわかった。だが岩瀬くんの話を聞いてもなお、私の考えは同じだ。優花が犬プレイすることは、認めない」
これだけ俺が思いをぶつけても揺らがないというのか。
犬プレイしているときの優花も魅力的ということ。優花には犬プレイが必要ということ。俺が伝えたかった優花に対する気持ちはきちんと伝えられた。それでも、賢一さんには響かないというのか。
賢一さんは正論で武装して俺の主張を殺しに掛かってくる。その武装を打ち壊すには、感情に訴えるだけではだめだったらしい。
まあ、予想はしていたけどな。警視総監を務めるお堅い賢一さんは、簡単には優花が犬プレイすることを認めないって。
でも、だからといって諦めるわけにはいかない。
優花を救えるのは俺だけなんだ。
一個だけ、事前に考えていた秘策がある。それなりの効果も期待できると思う。
しかし効果がなければ、賢一さんの不興を買うだけで何も収穫を得られない。
それでも、今はこの秘策にすがるほかない。
「どうしても、優花が犬プレイすることは認めてくれないんですね。だったら俺にも考えがあります」
「何?」
「優花が犬プレイすることは認めない。その考えを賢一さんが変えないのなら、俺は優花を連れてどこか遠いところへ逃げます」
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