第四章

第38話 これから康士郎くんには、私のお腹を撫でてもらいます!

「これから康士郎くんには、私のお腹を撫でてもらいます!」

「ごめん。ちょっと何言ってるか理解できない」


 犬プレイしているときの優花も可愛い。そのことに俺は気付いたのだと理解した日の一週間後、俺は優花と共に再び別荘に来ていた。だが別荘に入ってまもなく、優花に意味不明なことを言われ困惑しているところだ。


「どうして理解できないんですか。私のお腹を撫でるだけですよ? とてもシンプルじゃないですか」

「確かにシンプルだけども! だからといってなんで優花のお腹を撫でなきゃいけないんだよ!」


 俺が疑問をぶつけると、優花は落ち着いた声音で意図を説明していく。


「犬の行為の中に、飼い主にお腹を見せるというのがあります。あれには様々な意味があるそうですが、飼い主に甘えているという意味もあるんです」

「それがなんだというんだ?」

「康士郎くんは犬として振る舞う私を可愛いと思うようになってきました。そこで、もっと可愛いと思ってもらうために、お腹を見せて甘えようと思ったんです」

「それならお腹見せるだけでいいじゃないか。わざわざ俺が優花のお腹を撫でる必要はないだろう」

「そうはいきません! 犬は飼い主にお腹を撫でられると気持ちよくなり、ご主人様の温もりが感じられて幸せになります。飼い主は犬との関係を深められて、それ以降もっと犬が甘えてくるようになって幸せになります。この循環が大事なんですよ!」


 声のトーンを少し上げて優花は力説する。

 よくこんなどうでもいいことを熱く語れるな……。


「康士郎くんだって、私のお腹を撫でてみたいんじゃないですか?」

「そっ、そんなことないし」


 口では否定の意思を示したものの、俺の心中は違っていた。

 正直に言うと、優花のお腹は撫でてみたい。

 だって彼女とは言え優花のお腹を拝める機会なんてそうそうないんだよ? しかも見るだけじゃなく撫でられるんだよ? そりゃあ男なら撫でたいって思うさ。


 けど、お腹に触るってのはちょっと恥ずかしいんだよな……。少なくとも頭とか手に触れることよりは絶対難易度が高い。なんかこう、普段隠されてる箇所を触るのがいけないことしているみたいに感じられて。


「自分で言うのもなんですが、私はけっこういいお腹の持ち主なんです。くびれもありますし、触り心地も上々です。私の言う通りにしてくれたら、そのお腹を好きに触れるんですよ? それでも康士郎くんは、お腹を撫でたくないんですか?」


 挑発的な笑みを浮かべつつ、優花は自らが着ているトップスの裾に手を掛ける。

 そのままトップスをほんの少したくし上げ、お腹をチラ見せしてきた。


 僅かに覗く優花の白い下腹部。それが俺の情欲をかき立てる。

 もっとよく優花のお腹を見たい。見るだけでなく触ってみたい

 そんな気持ちが荒波となって俺の心に襲いかかってくる。


「どうしますか康士郎くん? 私のお腹、撫でますか? 撫でませんか?」

「……撫でさせていただきます」

「ふふっ、素直なのは感心ですね」


 くそっ、優花ってばずるいんだよ。目の前でお腹チラ見せなんかしてきて。

 あんなことされたら優花のお腹に興味湧くに決まってるじゃないか。ちょっとしか見えない分物足りないって気分にさせられたし。


「では、準備をするので私は二階の一番手前の部屋に行きますね。準備ができたら康士郎くんのスマホにメールするので、メールを見たら私がいる部屋に来て下さい」

 そう言い残すと、優花は階段を上がって二階へと消えた。

「準備って、一体なんだ?」


 □□□


「いやあ、実にいい会食だった」


 専属の運転手の車で移動中の賢一は、先の会食を振り返り感想を述べる。

 先ほどまで賢一は新宿区の警察署長らとプライベートな会食をしていた。今は会食を終え、藤川本家への帰路に就いているところだ。


「そういえば、この近くにはうちで所有している別荘があったね」

「ああ、優花お嬢様にお与えになった別荘のことですね」


 賢一の言葉に、運転手の男性が応じる。


「思い返すと、最近は様子を見ていないな。すまない。一旦別荘に寄ってもらっていいかね?」

「かしこまりました」


 賢一は知らない。

 別荘に優花と康士郎がいることを。

 優花に頼まれた康士郎が、これから優花のお腹を撫でる犬プレイをすることを。


●●●


「なっ、なんて恰好しているんだ!?」


 しばらくして、俺のスマホに『もう来ていいですよ』というメールが優花から届いた。なんでわざわざメールしてきたんだ? 疑問に思いつつも、俺は優花がいる二階の一番手前の部屋へと向かった。そうして部屋へ入った瞬間、俺は優花の姿に思いっきり驚かされた。


 なぜなら優花が、犬のコスプレをしていたからだ。

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