第36話 また康士郎くんの料理が食べたいと思っていたので、今とっても幸せです!
俺としては早く食べて欲しいんだけどなぁ。でも優花の好きなようにさせるってさっき決めたばっかりだし、ここも優花に従うか。
「『待て』」
命令を出すと、優花はお座りの態勢のままじっと待機する。
目線は料理を盛り付けた犬用の皿に向いているが、決して食べようとはしない。
「『よし』」
「ちょっと、康士郎くん! まだ5秒も経ってませんよ!? もう少し『待て』の状態でいさせて下さい!」
短すぎて文句言われた。理不尽な……。
「次は30秒でお願いします」
「長すぎないか?」
「構いません。ちゃんと『待て』を実行して、お利口な犬だと証明してみせます!」
「……『待て』」
指示通り俺は30秒間優花に待ってもらうことにした。
だが今すぐ食べたそうに料理を見つめる優花を見て、方針変更を試みる。
「なあ、優花。もう『よし』って言っていいか?」
「また30秒経ってません。もう少し待って下さい」
「けど、たくさん運動してお腹空いてるだろう? 食べたいなら食べていいって」
「大丈夫です! まだまだ耐えられま──」
ぐううぅぅううう。
「あれ? 今のは?」
まだまだ耐えられますと言いかけたところで、優花のお腹が大きな音を奏でる。言うまでもなく、空腹でお腹が鳴った音だ。
「~~~!」
優花はお腹を両手で押さえたままりんごのように顔を赤くする。相当恥ずかしかったらしい。
まあ、あれだけいいタイミングで鳴ったら恥ずかしいか。
しかし、こう思うのは優花に対して不謹慎かもしれないけど。お腹が鳴って恥ずかしがってる優花の姿には、ちょっと萌えを感じてしまった。
「もう『待て』とか『よし』とか関係なく食べていいよ」
「……そうします」
大人しく俺の言う通りにした優花は、「いただきます」と言ってから鶏の唐揚げを犬食いする。
よくためらいもなく犬食いできるな。お腹が鳴って恥じらうなら犬食いも恥じらえばいいのに。
「うーん……! とても美味しいですぅ……!」
鶏の唐揚げを一口食べた優花は、恍惚な笑みを浮かべながら感想を口にする。
「衣はサックサクで、中の鶏肉は柔らかくジューシーで。それにほどよく味付けされたレモンの風味がお肉と絶妙なハーモニーを奏でていて。これほど美味しい鶏の唐揚げを食べたのは初めてです!」
「そっ、そうか。喜んでもらえて何よりだよ」
こうして好意的な感想をもらえると作った側としてはすごく嬉しい。ましてや恋人の優花に褒められたわけだから、喜びが半端ない。もう顔がにやけるのを堪えるので精一杯だ。
「康士郎くんと付き合えたら、また康士郎くんの料理が食べたいと思っていたので、今とっても幸せです! はむっ……んっ……。うーん……! フライドポテトもホクホクで美味しいですぅ……! これならいくらでも食べられますね!」
にしても、あれだな。俺が作った料理を食べて笑顔になってる優花を見ていると、可愛いって思えてくるな……。
って、どうして可愛いと思っちゃったんだよ俺は。
優花は犬食いしているんだよ? しかも犬耳と犬尻尾着けたままだから、完全に犬って感じなんだよ? その様子に好意的な感情持ったらまずいじゃないか。それなのに可愛いって思うなんて。
やっぱり俺は、犬プレイを楽しむ変態になってしまったのか……?
「あれ? どうして康士郎くんは肩を落としているんですか? 私に作った料理を褒められたというのに?」
「いや、その……。優花との犬プレイを楽しんでいる自分がいるような気がして」
「ついに康士郎くんも感じるようになったんですね! 犬として振る舞う私の飼い主として過ごす時間が楽しいと!」
「食いつき早っ! ちっ、違うから! まだ確定したわけじゃないから!」
リーチが掛かってるところまで来てしまった気がするけども。
「でも不思議ですね。これまで私が犬として振る舞っても、康士郎くんは乗り気じゃないときばかりでした。それなのにどうして飼い主として私と接することを楽しんでるかもと思ったんですか?」
「最近、犬プレイ中の優花を可愛いと思うことが増えたんだよ。頭を撫でたときもそうだし、今優花が俺の作った料理を食べている間もそうだ。それで、犬プレイ中の優花を可愛いと思うってことは、俺も犬プレイを楽しんでいるんじゃないかと思って」
話を聞いた優花は一瞬首を傾げながら考え込む。
「いくつか康士郎くんに尋ねます。初デートのとき、康士郎くんは私に首輪を着け、リードで引っ張ってくれました。そのとき康士郎くんは、私をリードで引っ張っていて楽しかったですか?」
「いや、楽しくはなかったな」
そもそも女子に首輪を着け、リードで引っ張ることをどう楽しめというんだ。
「先ほど私は康士郎くんの作った料理を犬食いしていました。その光景を眺めていて楽しいと感じましたか?」
「俺が作った料理を食べてるときの優花の笑顔は可愛いと思った。けど犬食いしている姿を眺めていて楽しいとは思わなかったな」
「なるほど。となると、康士郎くんは飼い主として私と接することを楽しんではいないですね。私としては残念ですが」
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