第34話 犬としては、頑張った分だけ褒めて欲しいんですよぉ!

「頭を撫でながら褒められたい?」

「私、たくさんご主人様が投げたボールを拾って、ご主人様のもとに返したじゃないですか? 犬としては、頑張った分だけ褒めて欲しいんですよぉ!」

「まあ、頭を撫でて褒めるくらいなら」


 俺は少しだけ腰を落とすと、優花の頭を優しく撫でながら褒め言葉を送った。


「よく頑張ったな、優花」

「もっと、もっと褒めて下さい!」

「もっと? えーっと……。体操服姿で走る優花は可愛いなぁ」

「えへへっ……! ありがとうございます!」


 頬をすっかり緩ませ、優花は喜びを露わにする。

 こうも幸せそうな顔を見せられると、俺も思わずにやけそうになってくる。


「もう頭撫でるのはいいか?」

「やっ。まだ足りないですぅ……。もっと、撫で撫でして下さいよぉ……」

「仕方ないなあ。ほれ」

「はわぁっ……! 癒されますぅ……!」

「俺の撫で撫でにヒーリング効果はないけど」

「ふにゅう……気持ちいい……! やっぱり、ご主人様は最高ですぅ……! 大好きですぅ……!」

「ちょっ……!?」


 ふいに優花が俺の左足に頬をすりすりしてきた。全力で甘えてくる優花の勢いに俺は一瞬たじろぐ。


「くぅーん……!」

「いつまで頬すりすりしているんだ! あと犬みたいな鳴き声出すな!」


 でも、こうやって甘えてくれるってことは、俺への好意の証明でもあるんだよな。

 そう考えると、すごく嬉しい。

 それに甘えん坊な優花は、普段のお淑やかな雰囲気とギャップがあって大変可愛い。もう抱きしめたいくらいだ。


 あれ? 今俺、優花のこと可愛いって思った? 俺の犬として甘えてくる優花を?

 これって、俺が犬プレイを楽しんでいる裏返しでは?


 いやいやいや、まだそうと決まったわけじゃない!

 今のは、そう! あれだ! 体操服姿の優花が可愛いと思っただけだ! 決して優花が俺の犬として振る舞ってるから可愛いと思ったわけじゃないはず!


 ●●●


 それからも俺は優花と運動場で遊んだ。ボール以外にもフリスビーを投げて優花に取ってきてもらったり。優花と追いかけっこをしてみたり。そんなふうに遊んだのち、俺達は別荘へと戻った。


 別荘に戻ったあと、先に俺が軽くシャワーを浴び、続いて優花も汗を流すためシャワーを浴びた。

 このあとはお疲れ様会で一緒に料理を食べるので、俺は料理を作らなければならない。なので優花がシャワーを浴びている間、俺はお疲れ様会で食べる料理の準備を進めることにした。


「ふうっ、さっぱりしました」


 シャワーを浴び終えた優花がキッチンとリビングがあるフロアに戻ってくる。服装は私服に戻っていたが、犬耳と犬尻尾は着けたままだった。

 なんでだよ。


「康士郎くん、料理の準備は順調ですか?」

「ああ、今のところ問題はないよ」


 鶏の唐揚げ、フライドポテト、サンドイッチ。これらが今日俺が作るメニューである。食材は優花のほうで用意してくれたので、俺はそれを使って料理を作っているだけだ。


「何か手伝えることはありますか?」

「いや、優花は運動場でけっこう動いて疲れてるだろうし、休んでていいよ。俺は体力余ってるから」

「では、できあがりを楽しみに待ってますね。その間、私は犬の動画を観ながら犬らしい動きを学習しています」

「待ち時間の使い方すらも優花らしいな」

「えへへっ、照れますね」

「褒めてないからな?」


 優花が犬の動画の視聴を開始する一方で、俺は料理の準備を進めていく。

 優花は高1のとき俺が作った弁当を食べている。よって料理を振る舞うのは初めてとは言えないが、それでも俺は緊張していた。


 以前は優花に俺が作った弁当を美味しいと言ってもらえた。でもそれは一回だけの成功であり、今回も美味しいと言ってもらえるかはわからない。それでも優花を満足させられるよう、俺は味付けから丁寧にやっていった。


「ふむふむ。ほほう」


 優花は犬の動画の視聴に夢中らしい。

 実は犬の可愛いところを見るのではなく、犬プレイの参考に見ている。なんてこと、動画の投稿主は夢にも思わないだろうなぁ。


「いずれは康士郎くんにドッグフードを作ってもらうのもありかもですね」


 今不穏な発言が聞こえた気がするんだが。

 いや、俺は何も聞いてない。何も聞いてないからな!?


 ●●●


「どれも美味しそうですねぇ……!」


 お疲れ様会で食べる料理が完成したあと、優花はテーブルに並ぶ料理を見てテンションを上げる。さらに鼻から料理の匂いを感じ取り、「いい匂い……」と呟く。


「それじゃあ、冷めないうちに食べようか」

「あっ、待って下さい。食器を用意しないと」

「んっ? 食器なら用意してあるけど? 取り皿と箸、あとコップも」


 俺の言葉は聞かずに優花は食器棚へと向かう。

 次に、棚の中から犬用の皿を二枚取り出した。

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