第33話 次ボールを取ってくるときは、口でボールをくわえるようにしますね
「ただいま戻りました! って、顔が赤いですけど、どうかしましたか?」
「いっ、いや、何でもない」
優花の胸の揺れに視線を奪われていた。なんてさすがに言えない。
「そんなことより、優花って足速いんだな」
「そうですかね?」
「だってあっという間にボールのところまで行って、すぐ帰ってきただろう。俺ならあんなに速くは走れないよ。あれだけ速く走れれば、運動部のやつともいい勝負できるんじゃないか?」
「さすがに運動部の人には負けますよ」
謙遜してみせたが、優花はまんざらでもない様子らしく頬を緩ませる。
「さあ、どんどん投げて下さい!」
優花に急かされ、俺はもう一度ボールを投げる。今度も優花は素早くボールを拾い、俺のところへ走って戻ろうとする。そして、優花の胸が揺れる光景がデジャヴとなって俺を襲った。
さっきもそうだったが、よく揺れるな。優花が巨乳だってことはもう知ってる。けど生地の薄い体操服用のシャツを着ているから、揺れによって大きさがより伝わってくる。
くそっ、だめだ。目を逸らそうとしてもつい見てしまう。
やっぱり体操服は素晴らし──って、だから感慨にふけろうとするな!
今俺が考えてることが優花にバレてみろ。俺が体操服を好きなのは、走ったとき胸の揺れ具合がよくわかるからなんですねって勘違いされちゃうよ?
「ご主人様! 今すっごく楽しいです!」
ボールを持ち帰ったあと、優花が嬉しそうに感想を述べる。
ボールを拾って戻るだけの何が楽しいんだろう。俺からすればそう思うが、犬プレイを満喫している優花は違うらしい。
「あっ、いいことを思い付きました。次ボールを取ってくるときは、口でボールをくわえるようにしますね」
「それはやめとけ」
「どうしてですか? 犬はみんな、口でボールをくわえてご主人様にボールを返してますよ?」
「四足歩行の件で学ばなかったのか? 犬にできることが人間にできるとは限らない。口でボールをくわえるなんて、人間には無理だろう」
犬は口が大きいからボールをくわえられるだろう。
けど人間の口は犬ほど広がらないのだ。スーパーボールくらい小さければ別だが、基本的に人間の口ではボールをくわえられない。
「やってみなければわからないでしょう。何事もチャレンジ精神は大事です」
「最初から不可能と判断して諦める精神も大事だと俺は思うけどな」
「一回チャレンジしてみますね。はむっ」
「あっ、こら!」
優花はボール遊びに使っていたテニスボールを口でくわえようとする。しかし何度挑戦しても口でくわえられず、ボールをこぼすばかりだった。
「全然くわえられません……」
「だから言ったじゃないか、人間には無理だって。まして優花は口が小ぶりなほうなんだし」
「はあっ……。私の口に犬と同じくらいの大きさがあって、ボールをくわえても離さないような鋭い歯もあれば……」
「頼むからそんなもん欲しがらないでくれ」
犬みたいな口で歯の鋭い優花なんて見たくないわ。人間らしい口じゃなさすぎて怖くなるわ。
優花の口は今の小さくて可愛らしい状態のままで十分魅力的だよ。
「あっ!」
「んっ? どうした優花?」
「今になって気付きました。換えのボールを用意するの忘れたことに」
「本当に今更だな! えっ、ということは、俺は優花が口にくわえようとして唾液が付いたボールを使い続けなきゃならないのか!?」
「いいじゃないですか。私が唾液でマーキングしたボールを使えるんですから。ぬめっとした触り心地が癖になると思いますよ?」
「心の底から癖になりたくないわ!」
いや、しかし。優花ほどの美少女の唾液が付いた物に触れるなら悪くないかも?
って、何危険思考に突っ走ろうとしているんだ俺は!
女子の唾液に触れることに喜び見出そうとするとかただの変態だろうが! よこしまな考えはとっとと打ち消せ!
「四足歩行もできず、ボールを口でくわえることもできない。そんなボール遊びを、どうすれば康士郎くんは楽しんでくれますか?」
「そもそも俺が犬プレイを楽しむことはないんだけど。まあ、でも。楽しむことは置いといて、優花の可愛いところはたくさん見たいかな」
「私の可愛いところ、ですか」
俺が発言したあと、優花はしばし考え込む。
やがて優花はポンと手を叩き、一つ提案してきた。
「では、こうしましょう。初デートのとき、私が康士郎くんに全力で甘えたことがありましたよね? それと同じように、随所に康士郎くんに甘えてみたいと思います。いかがでしょうか?」
「それならいいかな」
となると、今から甘えん坊な優花が見られるということか。
うん。いいじゃないか。
「では、早速甘えていきますね」
前置きしたのち、優花が立っている俺の前でお座りの態勢を取る。それから優花は右手で俺が来ているジャージのズボンをくいっと引っ張る。
「ご主人様ぁ、遊びましょうよぉ」
おおっ、いよいよ甘えモードに入ったか。
ご主人様呼ばわりとお座りしている点はどうかと思うけど、上目遣いで甘えられるのは悪くないかも。
その後、優花は地面に転がっていたボールを拾い、俺に渡そうとしてきた。恐る恐る、俺は優花の唾液が付いたボールを受け取る。
って、本当にぬめっとしている。おまけにちょっと湿っぽいし、すごく変な感じだ。こうなるってわかってたらティッシュかハンカチを持参すればよかった。
「はーやーくー」
「はいはい」
唾液付きボールの感触に戸惑いつつ、俺は遠くへボールを投げる。優花は元気よく走っていき、それを拾って俺のところに戻ってきた。
ボールを俺に渡したあと、優花はまたお座りの態勢になり甘えた態度を取る。
「ご主人様。私、ご主人様に頭を撫でてもらいながら褒められたいです」
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