第30話 それはこの別荘が、康士郎くんの犬として振る舞うための専用ハウスだからです

「へっ?」


 謎の質問が来たな。

 どうして優花はコスチュームの好みなんて俺に聞いてきたんだ? 優花ってコスプレに興味なさそうなのに。


 あっ、犬のコスプレになら興味あるのか。前に犬耳と犬尻尾着けてデートしようとしていたし。

 すぐにこう思ってしまうあたり、俺はだいぶ優花の犬プレイに毒されているな。


「答えて下さい。私は康士郎くんの好みが知りたいです」

「うーん、そうだなあ。……体操服、とか好きかな。それも下がブルマのやつ」

「それはなぜですか?」

「体操服は体のラインがわりとはっきりする。その分エロさが増すのが何とも言えないっていうか。それにブルマだと太ももの付け根辺りまで露出するから、ムチッとした太ももがまるで芳醇な果実のようで──」


 って、俺は何を言ってるんだ! これじゃ性癖垂れ流しているだけだろう!

 体操服を好きなのは恥じることじゃないと思う。思うけど、今のはちょっと喋りすぎた。


「そうですか。康士郎くんは体操服、特にブルマ着用のものが好きなんですね」


 あれ、普通の反応だ。

 よかった。引かれたりしなくて。体操服フェチとは思われただろうけど。


「体操服は体のラインがはっきりする。ブルマは太ももの付け根辺りまで露出するから、ムチっとした太ももがまるで芳醇な果実のよう。だから康士郎くんは体操服が好きと」

「俺の言ったこと復唱しないでもらえる!?」


 そういうの公開処刑って言うんだよ!? 少しは俺の気持ちも考えてくれ。


「康士郎くんも、その……男の子って言いますか。意外と、ハレンチなところもあるんですね……」

「人を変態みたいに言うな!」


 今更主張しても無駄感あるけども。けど優花に変態みたいに扱われるのは納得いかないな。絶対犬プレイしようとする優花のほうがハレンチだろう。


 ●●●


 優花とのお疲れ様会当日。当初の予定通り優花専属の運転手が迎えに来ると、俺は彼が運転する車に乗った。

 車には優花も乗っており、俺達は一緒に移動する形となった。


 優花と会話しながら車に揺られること約一時間、俺達は都内某所にある藤川家所有の別荘へと到着した。

 ちなみに藤川家の別荘は他にもあるらしい。さすが金持ちはスケールが違う。


「なあ、優花。ここって、別荘がある敷地なんだよな?」


 車から降りて別荘の敷地内を移動している途中、俺は優花に尋ねる。


「はい、そうですよ」

「俺の家の敷地より大きいんだけど?」


 別荘って、実家がメインだとすればサブみたいなもんだよね? それなのに俺の家一〇軒分は絶対入る敷地面積なんだが。もうこっちが実家と言われても納得するレベルだよ。


「どうぞ上がって下さい」


 優花は別荘の中へ俺を誘導するようなポーズを取る。

 別荘に入ったあと、俺は優花に付いていく形で室内を歩いていく。

 って、今見なかったことにしたいものがあったんだけど。


「なあ、優花。あそこに置いてる箱形のものは何?」

「えっ? 犬小屋ですけど?」

「だよね! 形がそうだったし!」


 別荘内のリビングには犬小屋が複数あった。


 この犬小屋、犬用じゃないよね? 優花が犬プレイで使うものだよね?


「犬として振る舞うなら、犬小屋の用意もしておく必要があると思いまして。一人で犬として振る舞っていたときは、よく犬小屋に入って昼寝していたものです」

「やばすぎるだろう……」

「犬小屋の中に入るのは楽しいですよ。ただ人間の体には狭いので、出るときとか大変なんですけどね」

「なら入らなきゃいいのに」

「ですが、犬小屋で休まない犬は犬と呼べないですし」

「どんだけ犬小屋で休みたいんだよ!」


 何のために人間が暮らす家があると思っているんだ。もう少し人間らしさを大事にしてくれよ。


「そもそも、どうして家の中に犬小屋とかがあるんだよ?」

「それはこの別荘が、康士郎くんの犬として振る舞うための専用ハウスだからです」

「専用ハウス!?」


 専用部屋みたいな言い方でとんでもないこと暴露したな、おい。


「康士郎くんを好きになってからずっと思っていたんです。いつか康士郎くんの犬として振る舞うときに好きに使える、二人だけの空間が欲しいと。そこであるとき私は犬として振る舞う件を伏せてお父さんに頼み、この別荘を自由に使用する権利を得ました」

「権利を得て、どうなったんだ?」

「許可をもらえて嬉しくなった私は、犬として振る舞うとき用のグッズを次々に持ち込むことにしました」

「その結果がリビングに犬小屋が並ぶこの惨状か!」

「それだけじゃありません。首輪やリード、外で遊ぶときのボールなども取りそろえています。どうですか私の準備の良さは? 褒めてくれていいんですよ?」

「褒める前に引くわ。犬プレイしたい欲がダダ漏れすぎなんだよ」


 どうしよう、帰りたい。この別荘にいたら犬プレイ地獄に巻き込まれそうだし。


 でもなぁ、今日はお金ほとんど持ってないんだよなぁ。だから優花専属の運転手の車で送迎してもらわないと家に帰れない。しかもその運転手は一度藤川家に戻ってしまったから、優花が呼ばないと来てくれない。


 くそっ、こんなことならまとまったお金持ってくるんだった……。


「それでは、お疲れ様会を始めましょう! でもその前に、まずは運動をしたいと思います」

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