第28話 なんつー変態的な夢見ているんだ俺は……

 優花とのテスト勉強以降、俺の頭にはずっと優花の言葉が残っていた。


『つまり康士郎くんは、私が犬として振る舞うことを期待していたわけですね』


 そんなはずはない。俺は犬プレイを期待していないし、受け入れてもいない。そう言い聞かせてはみている。だがそう言い聞かせてるときに限って、犬プレイしていたときの優花の無邪気な笑顔とかを思い出してしまうのだ。

 結果、俺はなかなか優花の指摘を払拭できずにいる。



『卵がセール中だったとはな。いやあお得な買い物だった』


 袋の中の卵パックに目線を向けながら俺は満足げに頷く。

 しばらくして、俺の自宅が見えてきた。岩瀬家の敷地内に入り玄関へと向かおうとする途中、俺はここにいるはずのない人物に呼び止められた。


『あっ、ご主人様! おかえりなさい!』


 声の主は優花だった。

 俺は『なんで優花がいるんだよ!?』と言おうとした。けれども、もっと驚くべき光景が目の前にあったため俺は別のことに突っ込みを入れるはめになる。


『なっ、なんで犬小屋に入ってるんだ!?』


 優花はいつの間にかうちの庭に置かれていた犬小屋に入っていた。お腹を下向きにしてゴロンと横になっており、態勢は完全に犬小屋で休む犬そのものだ。

 しかも優花は、犬耳と犬尻尾が付いた犬のコスチュームを着用していた。もう突っ込みどころしかない。


『ご主人様、もう忘れちゃったんですか? 昨日ご主人様の家で私を飼う話になったでしょう?』

『初耳なんだけど!?』


 どういう経緯で優花を飼うことになったんだ? 全くわからん。

 加えてうちの家族が反対してないのもおかしい。

 人間を犬小屋に入れて飼うなど常識から激しく逸脱している。なのに誰も止めなかったというのは意味がわからない。うちの家族は俺以外優花を犬と思っているとでもいうのだろうか?


『それよりご主人様、帰ってくるのが遅いですよ。私待ちくたびれちゃいました』

『買い物に行ってたんだから仕方ないだろう』

『こうなったら、ご主人様にとことん遊び相手になってもらいます! えいっ!』


 犬小屋の外に出て、優花は勢いよく俺に飛びついてきた。

 俺は優花の力に押され、そのまま地面に押し倒されてしまう。


『いって……! 何するんだよ!』

『ご主人様が悪いんですよ。私をほっといてどこかに行っちゃうから。私、寂しかったんですからね!?』

『だから買い物していたって言っただろうが!』

『覚悟して下さいご主人様! 寂しい思いをさせられた分、いっぱい甘えますから! 甘噛み、頬ペロペロ、ちんちんの豪華なラインナップでいきますよ!』

『ちっ、ちんちん!?』

『あっ、今別のちんちんを想像しましたね? もう、仕方ないですねえ。ご主人様が望むなら、新しいちんちんを発明しちゃいます! 世紀の大発明ってやつですね』

『性器の大発明の間違いでは!?』

『さあ、じっとしてて下さいね、ご主人様……。ふふっ、ふふふふふ……!』

『やっ、やめろ。不気味な瞳向けながら近付いてくるな。やめっ、ぎゃあああ!』



「……うわあっ! はあっ……はあっ……はあっ……。ゆっ、夢か」


 自分の部屋のベッドで目を覚ました俺は、優花に襲われていないことを確認し安堵する。

 それと同時に、俺は思わず両手で顔を覆った。


「なんつー変態的な夢見ているんだ俺は……」


 どんな夢を見るかは指定できないからどうしようもないよ? けどさっきのはやばいだろう。優花が犬小屋に入ってたし、優花をうちで飼うことになってたし。しまいには犬のコスプレした優花に押し倒されて、襲われそうになるし。


 けど、あれだな。優花を犬として飼う夢を見たということは、俺は潜在的に優花をペットとして飼いたいと思っているんじゃないか? 実際に飼いたいくらい、優花との犬プレイにはまっているんじゃないか?

 もしそうだとしたら、俺も犬プレイが好きな変態になったってことに……。


「って違う違う違う! そんなわけ、そんなわけあるかあああっ!」


 俺は優花に『お手』とか命じたり、リードで引っ張るのを楽しいと思ったりしない。好きな子を自分の犬にして快感を得ることはないんだ。

 そのように心の中で主張していると、過去の光景がフラッシュバックする。

 俺に首輪を着けてもらって喜ぶ優花の姿。頬をペロペロ舐めて愛情表現してくる優花の姿が。


「って、何を思い出しているんだ俺は!?」


 俺はノーマル、俺はノーマルなんだ!

 決して、優花の飼い主と振る舞う喜びに目覚めたわけじゃないんだあああっ!


●●●


 中間試験が終わってから数日経ったある日。昼食後、校舎内の児童販売機で飲み物を買った帰り、俺は何やら男子生徒達を叱っている優花を見かけた。優花が男子生徒達と別れたのち、俺は優花に話し掛ける。


「何かあったのか?」

「ああ、康士郎くん。実は、先ほどの男子達が学校に漫画を持参していまして。風紀委員として見過ごせなかったので、漫画を没収したところです」

「そうだったのか」

「はい。あとは没収した漫画を風紀委員担当の先生に届けるだけです」


 優花が行っている風紀委員の仕事は朝の身だしなみ点検だけではない。ときには自主的に校内の見回りもしているのだ。

 見回りの仕事は強制ではないらしい。だが優花は定期的に行い、今回のように校則違反を犯している生徒を摘発しているという。

 こういうところも、優花が教師から評価を集めるゆえんである。


「ところで、没収したのはどんな漫画だったんだ?」

「見たところ恋愛漫画のようです」

「ああ、これは最近流行ってる漫画だな」


 優花が没収していたのはとある少年誌掲載のラブコメ漫画だった。アニメ化もされるくらいだったので、俺でも知ってた。


「学校に来る一番の目的は勉強です。それなのに関係ないものを持ってくるだなんて。不真面目もいいところです……」


 優花は漫画のページをペラペラめくりながら呆れた様子で物を言う。

 そんな中、途中で優花は赤面して漫画を閉じる。


「どうかしたか?」

「いえ、その。ちょっぴりハレンチな描写がありましたので……」

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