第23話(優花視点) はい。犬みたいことがしたいです。それも学校で
「ねえ、美香子。やってることは犬みたいだけど、周りの人には犬みたいと思われない行動って何かありますか?」
「ごめんなさい。優花が何言ってるか全くわからないわ」
私からの質問を聞くと、正面に座る眼鏡を掛けた女子が困惑の表情を浮かべます。
ある日の放課後、私は同級生の
美香子は他のクラスに所属する私の友達で、高校では生徒会の会計を務めています。特徴はショートヘアの黒髪と、下が縁なしになっている黒縁の眼鏡。眼鏡の影響と落ち着いた雰囲気から、多くの人は彼女に賢そうな印象を持つでしょう。
実際美香子は賢くて、テストでは学年二位を取り続けています。さらに生徒会会計としても優秀で、生徒会長に「彼女がいないと生徒会が回らなくなる」と言わしめるほどです。
「一応聞くけれど、優花は犬みたいなことをしたいのよね?」
「はい。犬みたいことがしたいです。それも学校で」
「うん。まずその時点で意味不明だわ」
なぜ私は美香子に謎の質問をしたのか?
そのきっかけは、学校でも康士郎くんの犬として振る舞いたいと思ったからです。
待って下さい! 「あなたは学校でも犬になる気なのか」とか思わないで下さい!
私は真剣に美香子に相談を持ちかけているんです。
康士郎くんと付き合い始めてから、私は学校で犬みたいな行動はしていません。
学校では私が康士郎くんの犬であることは秘密なので、犬として振る舞えないからです。
ただこの制約が一つの問題を生みました。
せっかく付き合ってるのに、あまり学校で康士郎くんと絡めずにいたのです。
私は犬として振る舞わないと康士郎くんに対して積極的に動けない奥手な人間です。ゆえに学校では照れが勝り、彼女らしい行動が取れずにいました。
でもこのままはいや。学校でも康士郎くんと恋人らしく戯れたい。
私は考えました。どうすればこんな私でも学校で康士郎くんと恋人らしく戯れることができるかを。
考えた末に私は決めました。
犬として振る舞っているけど、周りの人には犬みたいに見えない行動をしようと。
これなら私が康士郎くんの犬だとバレない程度に学校で犬として振る舞えます。ゆえに問題も解消できるというわけです。
「そもそも、どうして優花は犬みたいなことがしたいのよ?」
「それは、その……。康士郎くんが犬好きだからです」
美香子は私と康士郎くんが恋人だと知ってます。
ですが私の性癖や私が康士郎くんの犬として振る舞っていることは知りません。
本当の目的を知られるわけにはいかないので、私はそれっぽい理由を述べました。
「へえーっ、岩瀬くんって犬好きなのね」
「そうなんです。私が犬のように振る舞うと、康士郎くんは喜んでくれるんですよ」
実際は喜んでくれませんけどね。それどころか最近は私に犬として振る舞うことをやめさせようとしてきたくらいですし。
「ちなみに、今まではどんなことしてきたの?」
「えーっと、『お手』のポーズとかしましたよ」
言えません。本当は首輪を着けた私をリードで引っ張ってもらうことまでやってもらったなんて。
他にも、康士郎くんをペロペロ舐めたことも過激すぎて口にできません……。この前なんか、酔ってたとはいえ、ぜぜぜ全裸で康士郎くんの頬や首をペロペロと……。
「大丈夫優花? 顔が赤いようだけれど?」
「ふえっ!? だっ、大丈夫ですよ!?」
ううっ、顔が熱いです……。改めて自分がしてきたことを思い返して無性に恥ずかしくなってしまいました。
普段から犬として振る舞うときみたいに図太くなれば、恥ずかしさに苛まれることもないんですけどね。はあっ……。
「自分でも変なこと尋ねたという自覚はあります。ですがどうか、私に知恵を貸してくれませんか?」
「うーん……」
まあ、簡単には思い付きませんよね。単純に犬みたいなことって何と聞いているわけではないんですから。
「頭を撫で撫でしてもらうのはどうかしら? 撫で撫では犬にする行為でもあるけれど、人間相手にやっても違和感はないもの」
「確かに、頭を撫でるのは人間相手でもする場合がありますね」
「それに優花と岩瀬くんは恋人同士じゃない? だから優花が岩瀬くんに頭を撫でてもらっても、周りが犬を連想することはないわ。みんな恋人同士のスキンシップと思うはずだから」
美香子の案を聞き、私は深く納得できました。
頭を撫でてもらうのは『お手』などと比べて犬っぽさが薄いです。なので周りに違和感を持たれる可能性は薄くなります。
いけます。これなら学校でも康士郎くんの犬として振る舞うことができますよ。
「ありがとうございます。美香子の案、使わせていただきますね」
「そう? 役に立ったようなら何よりだわ」
やりますよ私は。絶対康士郎くんに頭を撫でてもらいますよ。
「そういえば、優花と岩瀬くんって付き合い始めてもう三週間くらい経つのよね? 交際は順調なの?」
「ええ、順調ですよ。デートも数回行きましたし、手もつなぎましたし」
まあ、手をつないだ件は『お手』の形式だったので、触れたが正しいかもですが。
「それはよかったわ。二人のことは心配していたもの。特に優花に対してはね」
「わっ、私ですか?」
「だって、優花ってヘタレでしょ。恥ずかしがって恋人らしいことできず、岩瀬くんに不満を抱かせてないか不安だったのよ」
「わっ、私はヘタレじゃありませんよ?」
「じゃあ聞かせてもらうわよ。クラスが同じなのに、岩瀬くんを好きになってから告白まで半年近く掛かったのはどこの誰だったかしら?」
「うっ……」
痛いところ突かれすぎて返す言葉がありません。
ううっ、そうですよ。どうせ私は康士郎くんに思いを伝える勇気が出ず、だらだら半年も過ごした臆病な女ですよ……。
「そんなだから、優花が岩瀬くんと付き合うことになったときあたしは感動したわよ。思わず涙流すほど」
「そこまで感動したんですか!?」
「なんて言うか、手の掛かる娘がようやく結婚して一人前になった、みたいな感動があってね」
「美香子は私のお母さんか何かですか!?」
もう私は高校生で、大人になる日も近いんですよ? 子供みたいに扱われるのは納得いきません。
「まあ何にせよ、これからも岩瀬くんと仲良くやりなさいよ。むす──優花」
「今娘って言いかけましたよね? 言いかけましたよね?」
いつまで子供扱いする気ですか。
美香子の意地悪……。
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