第22話 犬用のお皿が30パーセントオフですって!
「なんで俺の知らないうちにペット用品店寄ってるんだよ! ここはアクセサリーショップじゃないだろう!」
「別にいいじゃないですか。たまたま見つけたので、つい犬の血が騒いでしまったんですよ」
「優花に流れているのは人間の血だろうが!」
人なのに犬の血が騒ぐとかわけわからない。
「今日は犬プレイなしでデートするって言ったじゃないか。ペット用品なんて見なくていいから、さっさとアクセサリーショップに行こう」
「見て下さい康士郎くん! この首輪可愛いですよ! あっ、こっちのリボン付きの首輪もいいですね! いろいろあって目移りしちゃいます!」
「聞けよ俺の話!」
こんなことなら優花を制御できるようリードで引っ張るようにすればよかった。
って、アホか俺はああああああっ!?
なんで優花をリードで引っ張らなかったことを後悔しているんだよ? 犬プレイやめさせようとしている側が犬プレイを必要としてどうする?
「あっ、あちらにはお皿のコーナーまでっ……!」
俺は犬の首輪を物色している優花を捕まえようと動いた。
しかし優花が別のコーナーに素早く移動したため逃げられてしまう。
「えっ!? 30パーセントオフ!? ちょっと康士郎くん、犬用のお皿が30パーセントオフですって! これは買うしかありませんね」
「一応聞くけど、買った皿って自分用に使うの?」
「当たり前じゃないですか」
うん、おかしいよね。この当たり前おかしいよね。
犬用の皿は犬が使う。こっちが当たり前でしかるべきだろう。
「犬用のお皿は一つだけ持っていましたが、そのうち買い足したいなと思っていました。ですので今回のセールは絶好のチャンスです。ここでたくさん買えば主食用、おかず用、ミルク用と分けて使えますし」
「犬用の皿なんてどれも同じようなものだろう」
「それに犬用のお皿をたくさん揃えたら、康士郎くんが作った料理を全て犬用の皿で食べられます。康士郎くんが作ってくれた美味しい料理を、最高の食器で味わう! 想像しただけでよだれが出てしまいます! じゅる……」
「本当によだれ垂らすんじゃない!」
単純に俺が作った料理を食べるのを楽しみにしてくれるのはいいよ? 俺も嬉しいから。
けど犬用の皿に盛り付けてもらう前提で妄想するのは勘弁して欲しいわ。
「康士郎くん。せっかくですから、一皿だけ私が使う犬用の皿を見繕って下さい」
「全力で断らせてもらう!」
「どうかお願いします! 奢って下さいとは言いませんから、せめて選ぶだけでも」
犬用の皿選びとかやりたくなさすぎる。
しかも俺が選んだやつが優花に好評だったら、今後優花が犬用のお皿を買うときいちいち付き添いを頼まれる気が。
でも待てよ。ここで俺に皿選びのセンスがないとわかれば、優花が犬用の皿を買うときに俺に付き添いを頼むこともないのでは?
「こういうのでいいんじゃないか?」
俺が選んだのはステンレス製の皿。凝ったデザインもなく可愛さもない、優花からは不評を招きそうな犬用の皿だ。
けどこれでいい。俺に犬用の皿を選ぶセンスがないと示すのが目的だからな。
「さすがですね康士郎くん! ステンレス製の製品は汚れや熱に強い他、さびにくい分手入れが簡単なんです。そういった性質を踏まえてステンレス製のお皿を選ぶとは。康士郎くんのセンスのよさには驚かされました!」
「いや、そこまで考えてないんだけど」
「しかもステンレス製の製品は長持ちするんです。ステンレス製の皿を選んだということは、私に長くこの犬用のお皿を使って欲しいという証。ご主人様からの思いやりを感じられて、幸せですぅ……!」
なぜだ……。なぜ適当に皿を選んだのに評価が上がってる……? しかも彼氏としてじゃなく飼い主としての評価が上がってるし。最悪だ。
「康士郎くんおすすめのお皿は買わせていただきます。他にもいくつか買いますので、少々お待ち下さい」
それから優花は俺が選んだ皿の他に三つも皿を選び、資金力をバックに購入した。
店を出たあと、優花はウキウキとした様子で俺に話し掛けてくる。
「康士郎くんのおかげで、お買い物デートでペット用品を買う楽しさを知ることができました。ありがとうございます!」
「ちっとも嬉しくないんだけど……」
「いっそのこと、このあとはペット用品店巡りをするのもよさそうですね! ああっ、想像するだけで胸が高鳴りますぅ……!」
「やめろやめろ! 頼むから普通にお買い物デートさせてくれ! まだ当初の目的のアクセサリーショップにも行けてないのに!」
「そうと決まれば善は急げです。さあ、ペット用品店巡りに出発しますよー!」
このあと、俺は優花のペット用品店巡りに付き合わされ心身共に疲弊させられた。
お買い物デートを通じて犬プレイなしのデートも楽しいと感じさせる。そんな俺の目論見は、優花の犬プレイに対する情熱の前に崩されてしまったのだった。
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