第21話 犬として振る舞うのはなし!?

「今回は、前回のデートよりも犬っぽさを高めたいと思いまして。となれば、犬耳と犬尻尾くらい着けるべきだと考えたんです」

「へっ、へえ」

「どうですか犬耳と犬尻尾を着けた私は? 可愛いですか?」


 前傾姿勢になり、犬耳と犬尻尾を強調しながら優花は感想を求めてくる。

 正直に言おう。犬耳と犬尻尾を着けた優花も可愛い。

 可愛いけど、それを素直に口にしたら負けな気がする。


「悪くは、ないと思うよ」

「もう、そこは可愛いって言って下さいよ。ご主人様が望むことを犬がしてくれたら、褒めるのが道理でしょう」

「犬耳と犬尻尾を着けて欲しいと望んだ覚えはない!」

「あっ、もしかして望んでたのは私に首輪を着け、リードで引っ張ることですか? 大丈夫ですよ、今日もちゃんと持ってきましたから!」

「そっちも望んでないわ!」


 この前のデートで俺はいやいや優花に首輪を着け、いやいやリードで引っ張ったじゃないか。そのいやいや具合を忘れたというのか?

 にしても、今回も犬プレイする気満々だな優花は。

 はあっ、なんか頭痛くなってきた。頭痛薬買ってこようかな。


「いいか優花。今日は恋人らしいデートをさせてもらう。よって俺の犬として振る舞うのはなしだ」

「犬として振る舞うのはなし!? どっ、どうしてそんな薄情なこと言うんですか!?」

「俺は優花に犬プレイをやめて欲しいんだ。そのために、犬プレイなしのデートの楽しさを味わってもらいたいんだよ」

「いやです! 私は康士郎くんの犬です! デート中も康士郎くんの犬として振る舞わなければ、犬でいる意味がありません!」

「どんだけ犬として振る舞いたいんだよ……」


 少しは俺の犬ではなく、俺の彼氏として振る舞う姿勢を見せてくれよ。


「とにかく、今日は犬プレイ抜きでデートさせてもらう。そういうわけだから、犬耳と犬尻尾は取るんだ」

「なっ、なんて恐ろしいこと言うんですか! 耳と尻尾を取ったら、そこから出血して死んじゃいます!」

「いやそれ取り外し可能だろう。ただのコスプレグッズだろう」


 人間に犬耳と犬尻尾が生えるわけないし。むしろ今の言葉でよく俺が思い止まると思ったな。


「取り外す気がないなら、俺が取り外すまでだ」

「ちょっ、やめて下さい! きゃあっ!」


 問答無用で俺は優花が着けていた犬耳と犬尻尾を取り外す。また優花がこれらを着けるとあれなので、犬耳と犬尻尾は俺のバッグにしまい、デート終了まで没収することにした。


「あああ耳から、耳から血がドバドバと! それにお尻からも! もうだめです……死んじゃいますぅ……」

「一切出血してないし死にもしないから安心しろ」


 あと本当に死にそうならそうやってペラペラ喋る余裕はないと思う。


 ●●●


 優花の犬プレイを封じた俺は、待ち合わせ場所を出発し付近のショッピングモールへとやって来た。

 洋服店、飲食店、雑貨店など、ショッピングモール内には様々な店がある。この中から優花が興味のある店を選び、優花が気に入った品をプレゼントする。もちろん犬プレイに関連するアイテム以外のものをだ。


「さてと。このあとはアクセサリーショップに行くから、付いてこい」


 優花にプレゼントを贈るのは今回が初めて。どうせなら継続して使えるもののほうがいい。そう思って俺は優花が身に着けられるものを買うことにした。


 身に着けられるものをプレゼントにするにあたって、選択肢は二つあった。それは洋服をプレゼントするか、アクセサリーをプレゼントするかである。

 検討した末に、俺は後者を選んだ。


 最初は洋服がいいかなと思った。

 だがファッションセンスを玲菜に酷評される俺である。下手に自分の感覚で選んで優花に不評だったら意味がない。なので消去法でアクセサリーをプレゼントすることに決めたのだ。


 考えてもみて欲しい。この服似合うと思って優花に買ったのに、「これはちょっと」みたいな反応されたらへこむだろう? しかも俺に服選びのセンスがないことが露見してかっこ悪いことこの上ないし。

 アクセサリーなら服と違って組み合わせを考えなくてもいい。ゆえに選びやすいだろう。

 そう考えて俺は正しい選択をしたんだ。決して逃げではない。


 しばらく歩いたのち、俺達は三階のとあるアクセサリーショップにやって来た。店内にはネックレスやブレスレットなどが陳列されている。宝石をあしらったアクセサリーも多く、全体的にキラキラとした印象があった。


「まずはどういうのがあるか見ようか、っていないし!」


 さっきまで優花は隣にいた。だが今は付近を見回しても優花の姿が見当たらない。


 どこかではぐれたか? だとしたら優花はどこに?

 ひとまず俺はアクセサリーショップ内を探し回る。しかし優花は見つからなかった。アクセサリーショップ内にいないことがわかったので、俺は一度店の外へ。それから他の場所も探していく。だがなかなか優花を見つけられず、俺は頭を抱える。


 こうなったらスマホに連絡するか。もし優花がトラブルに見舞われているのなら早く駆けつけられるようにしたいし。

 そう思った矢先、俺は優花を見つけた。


 ペット用品店で品物を物色している優花を。

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