第18話 いっそ殺して……殺して下さい……

「きゃああああああっ! わわわわた、私……ななななんで……!」

「優花! とりあえず落ち着こう!」


 今度は酔いとは別の理由で顔を真っ赤にする優花。体を隠す布団を握る手の力は遠目からでも強く感じられ、絶対に美しい肢体を晒すものかという必死さが出ている。


「まっ、まさかと思いますが、康士郎くんが脱がせたんですか!?」

「してないしてない! 信じられないかもしれないけど、服は優花が酔ってるときに自分で脱いだんだよ」

「嘘です! 自分から服を脱ぐなんてハレンチな真似、私がするはずありません!」

「でも、事実脱いでたし……。それに俺が酔ってるところにつけこんで服を脱がすなんてゲスな真似するわけないだろう?」

「そっ、それはそうですけど……」


 俺の言い分を聞いて優花は納得する様子を見せる。

 同時に自分から服を脱いだと理解した優花は、両手で顔を覆い自分を責め始める。


「風紀委員なのに服を脱いでぜっ、全裸になった私はとんだ不埒者です……。もう学校のみんなや先生方に顔向けできません……」

「気に病むなって。酔っ払ってる最中に起きたことだから、事故みたいなもんだよ」

「あの、康士郎くん。酔ってたときの私って、服を脱ぐ以外にも変なことしてませんでしたか?」

「そっ、それは……」

「してたんですね!? 目逸らしたってことは、他にも私は変なことしてたんですね!? ううっ……最悪です……。いっそ殺して……殺して下さい……」

「そこまで思い詰めなくていいから!」


 今回のことは俺の確認不足によって起きた事故だ。責任は俺のほうにある。よって、優花は何も悪くない。


「とりあえず、まずは服を着よう。俺は部屋の外に出ているから」

「そっ、そうします……」


 椅子に座っていた俺は立ち上がり、部屋から出て行こうとする。

 だがそのタイミングで、俺の部屋のドアが二度ノックされた。

突然のノック音に俺と優花はビクッとなる中、ドアの向こうの主が呼びかけてきた。


「おにい? いるー?」


 なっ、なんだ玲菜か。びっくりした。一瞬見知らぬ人間が我が家に入ってきたのかと思ったよ。

 考えてみたら時間的には玲菜が部活を終えて帰ってくる頃だもんな。


 って、ちょっと待てよ。

 今この部屋には全裸の優花がいる。そして床には、脱ぎ捨てられた優花の制服と下着がある。


 これ、見られたらアウトだよね?


「おにいー? 聞いてるー?」

「聞こえてるけど、どうかしたか?」

「今って、藤川さん来てるの?」


 ここで俺の部屋の中にいると答えたら、玲菜はこの部屋に入ってくるだろう。

 それはだめだ。そうなっては玲菜が全裸の優花と鉢合わせしてしまう。

 いっそ来てないと嘘をつき通すか? そうすれば玲菜は俺の部屋に入ってこないはずだし。


「何言ってるんだ。優花なら来てないよ」

「でも、玄関に知らないローファーがあったよ? おにいが彼女以外の女の子連れ込むわけないし、あれは藤川さんのものだと思うんだけど」


 そうだった! 優花のローファー玄関に置いてあるんだった。


「それに階段上がってるとき、女の人の話し声が聞こえてきたし」


 くそっ、優花が来てることバレバレじゃないか。これじゃあ言い逃れできない。


「今おにいの部屋に藤川さんいるんでしょ? なら一度会ってみたいから、玲菜も部屋入るね」

「ちょっ、玲菜スト──」

「ストップです!」


 俺が玲菜を制止するよりも早く、優花が大きな声を上げた。

 優花は俺にアイコンタクトを送り、任せろという意思表示をしてから玲菜に呼びかける。


「康士郎くんの妹さん。確かに私、藤川優花は康士郎くんの部屋の中にいます。あなたが私と会いたいこともわかりました。ですが、今部屋に入ってくるのはやめて欲しいです」

「どっ、どうしてですか?」

「私と康士郎くんが、エッチしている最中だからです!」

「えっ、ええええええっ!?」

「何言っとんじゃああああああっ!」


 いやまあ、優花が酔ってたときはある意味していたと言えるけども。全裸の優花が俺を押し倒してペロペロ舐めたり耳たぶ甘噛みしたり。

 でもエッチしている最中って言うのはだめだって! これじゃ俺と優花が恋人同士が交わる例のやつやってると玲菜に思われるだろうが!


「じっ、事情はわかりました。あっ、あの、水差しちゃってごめんなさい。玲菜は自分の部屋に引っ込んでるので、どうぞ……続きをしていて下さい……」

「まっ、待ってくれ玲菜! 今のは誤解で──」


 扉の向こうから声がしなくなった。

 どうやら本当に玲菜は自室に引っ込んだらしい。


「ふうっ。何とか妹さんが部屋に入ってくるのを阻止できましたね」


 ピンチを乗り越えたのち、優花はほっと一息つく。

 だが少しして、自分が言ったことを思い返し顔を青ざめさせる。


「はっ……! よく考えたら私、とんでもない嘘をついてしまったのでは!?」

「今更気付いても遅いからな」

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