第16話 ふくー? そんなのいらにゃいれすよー。だってあついれすもーん

 犬の動画を見せれば、犬は犬、人は人っていうことを伝えやすいと思ったんだが。

 その後も俺は他の犬の動画も見せ優花の認識を改めさせようとした。


 しかし優花の態度は全く変わらなかった。それどころか犬の動画を見ていくうちに犬プレイへの思いが高まり、「今ここで芸の練習に付き合って下さい」とか言い出す始末。

 犬プレイは一般人の常識からずれてると認識させるのは困難を極めていた。


「やっぱり犬はいいですね! こういう動画を見ると、もっともっと康士郎くんの犬として甘えたくなります!」


 生き生きしやがって。こっちの苦労も知らずに。

 ていうかことあるごとに俺の犬である点を主張しているけど、それ以前優花は俺の彼女なんだよ? あんまり犬になりすぎて恋人であること忘れそうになるとかやめてよね。


「ところで康士郎くん。持ってきてくれたチョコレートのお菓子なんですけど、食べていいですか?」

「ああ、もちろん」


 動画視聴の合間、俺の用意したお菓子を優花が一つ摘まみ口の中に入れる。

 じっくり味わったのち、優花が感想を述べた。


「美味しいですねこれ。甘さ控えめで、一度食べ始めると止まらなくなりそうです」

「そうか。そりゃよかった」


 優花はもう一口チョコレートのお菓子を食べる。今度も「うーん!」という可愛らしい声を上げながら満足そうな表情を浮かべた。


「気に入ったなら全部食べていいよ」

「いいんですか?」

「元々優花が気に入ったらそうするつもりだったしね。だから遠慮せず食べて」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


 優花はお嬢様だから高級なお菓子もたくさん食べているはず。

 俺が用意したやつが口に合うか不安だったが、問題なくてよかった。母さんが職場の後輩からもらった以外特にお菓子については知らないけど、もしかしてお高めなお菓子だったりするのかな?


 ●●●


 一度お手洗いに行くと嘘を言ったのち、俺は一階のリビングへと移動。ソファーに座り込み、作戦を継続するか考えることにした。


 現状俺の作戦は九割方失敗に向かっていると言える。というかもう潔く失敗ってことにして諦めたほうがいい気もしてきた。


「けどせっかく立てた作戦だし、もう少し粘ってみても──」


 うーんと低い唸り声を上げながら俺は悩む。

 考えた末に、俺は作戦は失敗したものとして打ち切ることにした。これ以上やっても無駄だろうと結論づけたのだ。

 結論が出たところで俺は階段を上がり二階へ。そのまま自室の前まで移動し、部屋の中へと戻る。


「えっ……?」


 ドアを開けた俺は思わず目を疑った。


 なぜなら、優花が下着姿になっていたから。


「ななななな何しているんだよ!?」


 えっ? 待って。どういうこと? 本当にどういうこと?

 どうして俺がいない間に優花は制服脱いで下着姿になってるの?


「ああ、こーしろーくん、おそいれすよー」

「そんなことどうでもいい! 服を着ろ服を!」


 やばいやばいやばい。優花の下着姿が脳裏に焼き付いてしまった。もう心臓がバクバクなんだけど。


 にしても、優花の肌めちゃくちゃきれいだったな。白くて、透き通った感じで。それに薄紫色のブラとパンツも、なんかこう、大人の色気を感じさせるというか。せっかくの機会だし、視線を逸らさずによーく見るのもありかな……。

 って、何考えてるんだ俺は!


「ふくー? そんなのいらにゃいれすよー。だってあついれすもーん」


 どうもさっきから優花の喋り方がおかしい。ろれつが回っておらず、酔っ払いみたいな喋り方になっている。

 服を脱いでいるのもそうだ。ところ構わず俺と犬プレイしようとする優花だが、いきなり服を脱ぐような露出狂ではない。これは、酔っ払いみたいな喋り方になっていることと何か関係があるのでは?


 でも当然ながらこの部屋にお酒なんて置いてない。

 用意した飲み物はオレンジジュース。お菓子だって普通のチョコレート菓子だ。


 いや、待てよ。俺が部屋を出る前優花はチョコレート菓子を食べ始めて、俺が戻ってきたらおかしくなっていた。

 となると優花に変化をもたらした可能性があるのは──。


 俺は恐る恐るチョコレートのお菓子のパッケージを手に取る。パッケージを裏返し、成分表のところを見て俺は気付いてしまった。

 このお菓子に、お酒が少し入っていることに。


「なんてことだ……」


 つまり俺は、用意したお菓子がお酒入りと知らず優花に食べさせてしまったわけか。お酒が入ってるとは思わなかったから、お菓子に含まれてる成分まで確認できてなかった。

 これは俺の落ち度だ。あとで優花に謝らないと。


「ううっ、まだあつい……。ブラとパンツもぬいじゃいましゅねー……」

「ちょっ、それはだめだって! その二つも脱いだら裸にな──」

「それー」

「ああああああっ!」


 ブラ脱ぎ捨てよったあああっ!

 酔っ払ってるとはいえ何考えてるんだよ!


 って、ああパンツまで、パンツまで脱ぎ捨てちゃったよ。体を隠すものがなくなっちゃったよ。

 まずいって。これはまずいって。


「あれぇ? こーしろーくん、どーしてこっちみてくれにゃいんれすかー?」

「見られるかあああっ!」


 今の優花は全裸なんだよ、全裸。下着すら着けてないんだよ?

 そんなどエロい恰好直視できるわけないだろう。


「むーっ、みてくれにゃいとさびしいれすよー。こうにゃったらぁ、こうしてあげましゅ!」

「ふおっ!?」


 直後、優花(全裸)が俺をベッドに押し倒した。

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