第二章
第14話 よければ俺の家に来ないか?
優花に犬プレイをやめさせ、普通の恋人らしく付き合えるようにしよう。
そう決意した二日後。俺は学校での休み時間で、優花との交際に関する相談を恵太に持ちかけていた。
俺個人の力で優花の性癖を変えるのは難しい。なので周りの人間の知恵を借りようと思ったのがきっかけだった。
人気のない場所に恵太を連れ出したのち、俺は尋ねる。
「なあ、恵太。優花のあれな一面を直したい場合、どうすればいいと思う?」
最初恵太はキョトンとしていた。だが少し経ってあることに思い当たったらしく、俺に尋ね返してきた。
「何だ康士郎。藤川さんのやばい秘密知ったのか?」
「いっ、いや、そういうわけじゃない! あくまで仮の話っていうか……」
恵太には犬プレイのことは秘密にしている。優花の秘密がバレないよう、最後までぼかし続けて話さないとな。
「ああでも。付き合う前は知らなかったけど、付き合ってからあれな一面を知ってしまうことはあるか」
「だろう? 俺が聞きたいのは、仮にそういう事態に直面したとき、どうすれば恋人のあれな一面を直せるのかって話で」
「そうだな……。藤川さんが持つ一面が、一般人の常識からずれてると認識させればいいと思うけどな」
「一般人の常識からずれてると認識させる?」
優花の場合だと、犬プレイをするのは普通じゃないことを教えればいいと?
「これは中三のときの体験談なんだが、オレの元カノが変わったやつでな」
恵太の彼女の話は初めて聞くな。一体どんな彼女だったんだろう?
変わったやつとは言ってるけどさすがに優花ほどではないよな。というかイケメンの恵太のことだし、さぞかしハイスペックな女子だったのだろう。
「その彼女、罵倒されたり放置されると喜ぶドMだったんだよ」
「とんでもない彼女だな!」
ハイスペック感まるでないな! 変態性だけハイスペックなんだけど!
おいおい、恵太のやつそんなやばい彼女と付き合ってたのかよ。
いや、しかし。やばさならうちの優花だって負けていない。
だって、俺の犬になりたいとか言い出すし、本気で俺の犬として振る舞うんだよ? 首輪着けてリードで引っ張ることを要求してくるんだよ? このやばさに勝てるやつなんてそうそういな──って、なんで俺は心の中で張り合ってるんだ!
「当然オレはびっくりしたよ。付き合い始めた頃は普通だったのに、ある日突然ドMだと打ち明けてきたから。『この薄汚いメス豚がっ! って言って欲しいの!』って言われたときは顔青ざめたぜ……」
「それは災難だったな……」
まじかよ。現実でメス豚って言われたいとか要求してくる女子なんているんだな。
「このままじゃオレはこいつの願いを聞いて罵倒したり放置プレイをしなきゃいけなくなる。それはさすがに御免だった。初めてできた彼女でもあるし、普通の恋人らしいお付き合いをしたかったからな」
わかる。わかるよその気持ち。
俺も優花と普通の恋人らしいお付き合いがしたいって思っているし。
「そこでオレが元カノにやったのが、ドMってのが一般人の常識からずれてると認識させることだったわけだ」
「具体的にどんなことをしたんだ?」
それから恵太は「難しいことはしてないぞ」と前置きしてから詳細を語っていく。
まず恵太はオレを罵倒しろと言い、元カノに自身を罵倒させた。それから落ち込んだ様子を見せ、普通の人は罵倒されると傷付くのだと教えたという。
他にも痛いものは痛いことや、放置され続けると寂しいものだということを動画なども使って説明したらしい。
「やばい秘密を抱えてる人間は、そのやばさに気付いていないことが多い。だから康士郎も、万が一藤川さんのあれな一面を知った場合は、それがおかしいことを認識させるところから始めるといいぜ」
「なるほど。すごく参考になった。ありがとう恵太」
「礼なんていらねえよ。オレは彼女がいた身として、自分に言える範囲でアドバイスをしただけだ」
「ところで、例のドMの彼女はどうなったんだ? ドMじゃなくなったのか?」
「ああ、それな」
一瞬遠い目になったのち、恵太は優しい声音で答える。
「全く直らなかったよ。やつのドMは」
「直らなかったのかよ!」
さっきまでさも成功体験かのように俺にアドバイスしていたよね!?
本当は失敗していたのかよ。ドMなのは一般人の常識からずれてると認識させられなかったのかよ。
「むしろ『強引に私をドMじゃなくそうとする意地悪さがくせになる!』とか言ってたから、悪化したとも言えるな」
「だめじゃないか!」
「まあでも、康士郎の場合は上手くいくって。だから安心しろ」
「失敗エピソード聞かされたあとで安心できるかっ!」
本当に恵太のアドバイスに従っていいのか?
けど現状他によさそうな案はないからなぁ。ひとまず上手くいくと信じて恵太のアドバイス通りに動くか。
●●●
その日の夜、自室で俺は作戦を考えることにした。
優花の性癖は、一般人の常識からずれてると優花に認識させるための作戦を。内容は至って簡単。人間と犬は違うということを犬の動画も使いながら伝えるだけだ。
なんでこんな当たり前のことを認識させなければならないのかとは思う。だが優花に犬プレイをやめさせるには、この方法が最善だと俺は判断した。
これまで優花は一切の遠慮なく俺と犬プレイしようとしてきた。首輪着け、リードで引っ張ってもらう犯罪臭がする行為ですらだ。あれすら恥ずかしがらないとなると、優花の中ではとことん犬プレイするのは普通と認識されているはず。
そう考えると、作戦を成功させるのは困難を極めると思う。
それでも俺はやらねばならない。
優花に犬プレイをやめさせ、健全かつ普通のお付き合いを可能とするために。
「さて、あとは下準備だ」
俺は自分のスマホを手に持ち、優花に電話を掛ける。
三回コール音が鳴ったのち、優花が通話に応じてくれた。
『もしもし』
「ああ、優花。俺だけど、今大丈夫か?」
『はい、大丈夫ですよ』
「あさってなんだけど、よければ俺の家に来ないか?」
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