第13話 今後も優花とは、健全なお付き合いを心がけてくれたまえ

「気を付けてもらいたいこと?」

「優花は我が藤川家の大事な一人娘だ。家名に傷が付くようなことがあってはならない。ゆえに岩瀬くん。今後も優花とは、健全なお付き合いを心がけてくれたまえ」

「……きっ、肝に銘じます」


 賢一さんの忠告に返事をした一方で、俺は内心冷や汗を掻いていた。


 いや現在進行形で健全じゃないお付き合いしちゃってるんですけど!?


 初デートなんか優花に首輪着けて、リードで引っ張ったんだよ? これをありのまま伝えたら即不健全認定されるわ。レッドカード一発退場だわ。


「もう、お父さんってば心配しすぎですよ。私と康士郎くんは健全なお付き合いをしていますから」

「そうなのかね?」

「ええ。初デートでも恋人らしく、手をつないで歩きましたから」


 思いっきり嘘ついてるうううっ!

 実際は手をつないで歩いたわけじゃなくて、首輪を着けた優花をリードで引っ張る変態的な歩き方だっただろうが!


 しかもそれだけじゃない。

 他の人も周りにいる中、優花に頬をペロペロ舐められることもあった。

 あれだって健全なお付き合いにはどうやってもカテゴライズできない。


 すごいな優花。よく平然と虚言を吐けるな。


 ていうか、嘘付いたってことは優花は犬プレイのこと親に言ってないのか。

 そりゃそうか。犬として振る舞うのが好きで、好きな人の犬になりたいとかやばすぎるもんな。親に打ち明けたら絶対心配されるだろうし。


「今のところは大丈夫みたいだね。とはいえ、まだ安心はしきれない。とにかく、岩瀬くんには優花と健全なお付き合いをしてもらいたい。私のお願い、聞いてもらえるかね?」

「もっ、もちろんです!」


 念を押されなくても俺は最初から健全なんだけどなぁ。むしろ健全じゃないことしてくるのは優花のほうであって。


「そういえば岩瀬くん。君は普段私が何をしているか、気になるかね?」

「えっ? はい、気になりますけど」

「私はね、警視総監を務めているんだよ。東京都を管轄する警視庁のトップ、と言えばわかりやすいだろうか」

「警視庁のトップ!?」


 警視庁って、刑事ドラマでも出てくる大きな組織だよな?

 そこのトップって、めちゃくちゃ大物じゃないか。そんなすごい人と俺は話しているというのか。


「警視総監として、私は都の警察を監督する立場にある。いつどこで、誰がどんな事件を起こしたか? そういった情報を知ろうと思えばいくらでも知ることができる。岩瀬くんに関しても、それは例外ではない」

「どっ、どういう意味ですか?」

「君が優花との交際で法に触れる行いをした場合、その情報はやがて私の耳にも入るのだよ。現場を押さえた警察官が所属する警察署から、警視庁へと伝わる形でね」

「えっ……?」


 待て待て待て。これ、まずくないか?

 もし優花との犬プレイ、それもかなりやばいプレイの瞬間を警察官に見られたとする。そしたら、俺達は逮捕されて少年院送りとなり、そのことが賢一さんに伝わるってことだよな?


 けど賢一さんは、優花が犬プレイなんてするはずないと思っているだろうし。

となると逮捕されるのは俺だけになるんじゃないか?

 最終的に俺は、「警視総監の娘と淫らな交際をしたクズ野郎」という汚名を背負って生きていくことになるのでは?


「ちょっと、お父さん! 康士郎くんに失礼ですよ! 康士郎くんは法に触れることなんてしませんってば!」

「私とて彼がそんな人間でないと思っているよ。しかし男女交際では間違いが起きやすいそうだ。初めはまともな交際をしていても、どこかで道を踏み外してしまう危険性は十分にある。違うかね?」

「そっ、それは……」


 優花との犬プレイが賢一さんにバレたら大変なことになるのは確実だ。逮捕は大げさだとしても、優花との交際は認めないと言われる可能性だってある。

 そうなったら俺は、優花と別れることに……。


 それはいやだ!


 俺は優花のことが好きなんだ。犬プレイするのは勘弁して欲しいが、別れるなんて考えられない。これからもずっと、俺は優花と恋人でいたい。


 だったら、俺がするべきことはなんだ?

 答えは一つしかない。優花に俺の犬として振る舞うのをやめさせるんだ。

 犬プレイさえなくなれば、俺達は普通の恋人だ。あとは余計なことさえしなければ健全なお付き合いになる。それなら賢一さんに犬プレイがバレるリスクに怯えなくて済むし、何も問題ないのだ。


 賢一さんに俺達の秘密がバレていないうちに、何としてでも優花に犬プレイをやめさせよう。

 そして、優花とは普通の恋人らしく付き合おう。

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