第12話 お父さんに会って欲しい、だって?

「お父さんに会って欲しい、だって?」


 優花との初デートの翌日、のんびりと休日を過ごしていた俺のスマホに優花から着信が来た。その後言われたのが、優花の父親に会って欲しいということだった。


『昨日お父さんに話したんです。康士郎くんとデートしたことを。そしたらお父さん、一度康士郎くんに会ってみたいと言い出しまして』

「なるほど」

『康士郎くんさえよければ、今度の土曜日に私の家に来て、お父さんに会ってくれませんか?』


 今度の土曜日は特に予定はない。いつも通り家でご飯は作る必要はあるが、暇な時間帯であれば優花の父さんと会うくらい問題ないだろう。


「事情はわかった。俺の予定は空いてるから、優花の父さんに会わせてもらうよ」

『ありがとうございます』


 その後、優花とのやり取りで俺が優花の父さんに会う時間が決まった。

 藤川家までは優花専属の運転手が送迎してくれるとのこと。ひとまず俺は黒座高校の校門前に向かい、そこで運転手と落ち合うことになった。


「ところで、優花の父さんってどんな感じの人なの?」

『とても真面目で厳格な人です。ちょっと怖いと感じるかもしれませんが、いい人ですのでご安心を』

「そっ、そうか」


 ちょっと怖いってのが引っ掛かる。けど優花がいい人って言ってるんだし、大丈夫かな。

 にしても、優花の父さんは普段何しているんだろう。お金持ちの家の人だし、大企業の社長か、政治家とかかな?


 ●●●


「ひっ、広すぎだろう……」


 当日、優花専属の運転手に乗せられ藤川家にやって来た俺は敷地の広さに驚く。


 優花の家はお金持ちらしいから、すごい家に住んでるんだろう。そう思っていたが、実際は予想以上だった。

 今は門の前にいるのだが、ここから玄関まで随分長い道が続いている。その道の左右にある庭もとんでもなく広く、俺の家何個分あるんだって感じだ。


 既に玄関の向こうで優花が待ってるので、そのまま家の中に入っていい。そう優花専属の運転手が言ってくれたので、俺は長い道を歩き藤川家の玄関扉を開けた。


「あっ、康士郎くん。お待ちしてました」


 扉を開けると、黒座高校の制服を着た優花が出迎えてくれた。

『お父さんと会うときは制服でお願いします』という優花からの指示だったので、俺も制服を着てここまでやって来た。どうやら優花も俺と服装を合わせたらしい。


「先にお父さんと会ってもらう場所まで案内しますね」

「あっ、ああ」


 ていうか、制服で彼女の父親に会うってガチな対面って感じだけど、大丈夫かな? 空気感が結婚前のあいさつに似ていると思うんだけど。


「それにしても、優花の家って本当に広いな」

「そうですかね?」

「一般人の俺にはとんでもなく広く見えるよ。これだけ広いと迷子にならない?」

「なりませんよ。どの場所にどう行けばよいか、全て頭に入ってます」

「すごいな」


 生まれ育った家でも普通に迷いそうなレベルの広さだというのに。優花は空間把握能力も高いんだな。


「こちらの部屋で待ってて下さい。今お父さんを呼んできますので」


 応接室らしき部屋の一つに案内された俺は、優花に促されその部屋に留まる。先に座って待ってるのもあれなので、立って待つことにした。

 しばらくして、部屋のドアが開き優花がやって来る。その後ろには、長身の中年男性の姿があった。


「君が、岩瀬康士郎くんだね?」

「はっ、はい。そうですけど」

「初めまして。優花の父親の藤川賢一ふじかわけんいちだ。いつも娘がお世話になってるね」


 藤川賢一と名乗った優花の父さんは、おだやかな声音で俺に接してくる。

 黒髪短髪で細い瞳にはどことなく鋭さがあり、この瞳に睨まれると怯んでしまいそう。身長は170センチある俺よりも一回り大きく、着こなしているスーツ越しでも体つきのよさが窺える。もしかしたら日頃から鍛えているのかもしれない。


「立ち話もなんだ。まずは奥の椅子に掛けたまえ」


 賢一さんに促され、俺は出入り口から遠い上座の席に座らされる。それから賢一さんが俺の正面に座った。

 その頃、優花は部屋に備え付けてあった湯呑みにお茶を注ぐ。それらをお盆に乗せ、俺と賢一さんの席の前に置いてくれた。


「君が優花と交際していることは既に知ってる。交際は順調らしいではないか?」

「まあ、それなりにはですけど」


 順調って言っていいのかな? 優花の犬プレイに付き合わされるっていう普通じゃない付き合い方になっちゃってるし。


「君がどういう人物かも聞いているよ。忙しい親の代わりに家の台所を預かっていると聞く。立派にに親孝行しているではないか」

「いえ、親孝行しているってほどでは」

「優しく料理上手で、しかも家族思い。君ほどできた高校生は今時なかなかお目にかかれないだろう。本当、立派だと思うよ」

「あっ、ありがとうございます」


 こうも率直に褒められると照れるな。親孝行しているとか言われたことないし。


「正直父親としては、優花もそういう相手ができる年頃なのかと思うと寂しくもある。だが君といて優花が幸せなら、素直に応援したい。娘のこと、これからもよろしく頼むよ」

「はっ、はい……」


 なっ、なんか賢一さんのセリフが嫁入り前の娘を託すような言い方だな。

 俺達恋人ではあるけど、結婚までは考えてないんだが。

 いやまあ、優花と結婚できたら幸せすぎるけど。仕事から家に帰ったとき「おかえりなさい、あなた」とか超言われたいけど。


「ただし、優花との交際を続けてもらう上で気を付けてもらいたいことがある」

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