第5話 おにいは玲菜がおかわりする分も取っておくこと! わかった!?
『康士郎くん。今度、私とデートしませんか?』
二日後、俺はスマホに電話を掛けてきた優花からデートに誘われた。
恋人になってから、優花とはまだきちんとしたデートをしていなかった。優花とのデートを待ち望んでいた俺は誘いを受諾。それから二人で相談し、デートを行うのは三日後の土曜日に決まった。
ちなみに、優花の連絡先は告白され恋人になったその日に交換した。妹以外では初めて女子の連絡先をスマホに登録できたので、俺が喜んだのは言うまでもない。
「ちょっと作りすぎたな……」
夜、晩ご飯を作り終えた俺はテーブルに並べた料理を見て少し後悔した。
今日のメニューは煮込みハンバーグにレタスとトマトのサラダ、鶏の唐揚げの三種類。一度の晩ご飯としては豪華なメニューと言える。
優花とのデートが決まって俺はテンションが上がっていた。そのテンションが晩ご飯作りに引き継がれたことで、俺は意味もなく張り切ってしまったのだ。
結果おかず三種類、しかもハンバーグと唐揚げは家族全員が食べてもまだ余りそうなほど作ってしまった。
「ただいまー」
とそのとき、帰宅を告げる女子の声が聞こえたので俺はそちらを振り向く。
「おおっ、おかえり玲菜。もう晩ご飯は作ってるあるからな」
「そう。って、何その量……?」
「すまん。ちょっと作りすぎた」
「今日って誰か誕生日ってわけじゃないよね? なのにこんなたくさん作るとか……。何考えてるのおにい?」
大量のおかずが用意されている光景に呆れる女子の名は、
ボブカットにした輝かしい金髪。少し垢抜けた印象を受けるが、表情にはまだ幼さが残っており、芽吹き始めた女性としての魅力と可愛さが同居している。
体型は小柄だが、バドミントン部に所属し日頃から運動しているため貧弱そうには見えない。その証拠に制服のスカートの下から伸びる足にはほどよく筋肉が付き引き締まっている。
「これだけ多かったら、お父さんとお母さんが帰ってきても消費しきれないよ。どうするのさ?」
「とりあえず、ハンバーグと唐揚げの余りそうな分は作り置き用にするよ」
ハンバーグと唐揚げは作り置きとして冷蔵庫に入れておけば日持ちさせられる。そうすれば明日以降の晩ご飯や昼に食べる弁当のおかずに使えるという寸法だ。
「……ちょっと待って。せっかくおにいが作ったんだし、できるだけ今日中に食べられるよう努力するよ」
「んっ? というと?」
「玲菜がおかわりして、作りすぎたおかず減らすのに協力するってこと! そうすればあんまり余さずに済むし、作り置きの準備をする手間も省けるでしょ?」
「無理して食べなくてもいいよ。余りそうな分は作り置きするって決めたから」
「いいから! おにいは玲菜がおかわりする分も取っておくこと! わかった!?」
「あっ、ああ」
協力とか何とか言っているが、おそらく玲菜はおかわりしたいだけなんだろうな。
なら最初からそう言えばいいのに。素直じゃない妹だこと。
●●●
玲菜が着替えを終えシャワーを浴びたのち、俺は玲菜と共に晩ご飯を食べ始めた。
平日父さんと母さんは仕事が忙しく帰りが遅い。そのため俺はもう何年も平日の晩ご飯は玲菜と二人きりで食べている。
「そうだ玲菜。俺、今度優花とデートすることになったんだ」
晩ご飯の最中、俺はデートの件を玲菜に打ち明ける。
「ふーん、そう」
だが玲菜から帰ってきたのは素っ気ない返事のみ。
まるで興味なしといった感じだ。
「俺が彼女とデートする話はそんなにつまらないか?」
「これから露骨に惚気が始まりそうな話を聞きたい人はいないと思うけど?」
「ぐっ……!」
確かに、「あっ、これ惚気くるな」って話には耳を傾けたくないかも。
「言っておくが、惚気ばっかりにはならないからな? 普通に不安とかもあるし」
「不安? デートが上手くいくか心配とか?」
「それもあるけど……」
正直俺が一番不安なのは、デートといっても結局犬プレイになるんじゃってことなんだけどな。
だってデートするのは俺の犬として振る舞おうとする優花なんだよ? 普通のデートができる可能性は低いじゃないか。
「デートでは何するの?」
「映画館に行って映画観て、あとは街中をぶらつくよ」
「ふーん、いいんじゃない? 無難な感じで。下手に背伸びして失敗するよりはいいと思うよ」
「それは、そうかもだが」
デートプランが無難なのは確かだ。けどどうも犬プレイさせられることへの不安が拭えないんだよなぁ。
でも、デートプランを決めるとき優花は一切言ってこなかったんだよな。犬プレイに関連することを。
犬プレイがしたいなら何かしら言ってくるはず。それがなかったってことは、本当に今回は映画鑑賞と街中の散策だけするつもりってわけで……。
だったら、不安にならなくてもいいんじゃないか?
冷静になってみたら、俺は犬プレイを意識しすぎていたかもしれない。
恋人になってから、優花は俺の犬であろうとしている。そんな優花でも恋人らしいことをしたい気持ちくらいあるはず。
今回無難なデートプランを提示してきたのはその表れ。だったら、恋人らしいデートができると信じようじゃないか。
「おにいが彼女と──藤川さんとデートするのって初だよね?」
「ああ、初めてだ」
「大丈夫? 玲菜はおにいがポカやらかして気まずくなる気がしてならないけど」
「心配するな。ちゃんと成功するように頑張るから」
「なら聞かせてもらうけど、デートにはどんな服装で行くつもり?」
デートにおいては服装がとても重要だ。ださい恰好でもしていけば相手に幻滅され、ともすればそのことがのちに破局する原因にだってなり得る。
だが服装に関して俺に抜かりはない。
デートでの服装に関して、俺は優花と恋人になる前から入念にふさわしいファッションを模索してきた。優花とデートする自分を想像し、どうやったら優花に「すごく似合っています。かっこいいです」と言われるか考えながら。
キモイと言うのはなしで頼む。
「俺がたまに着る白のシャツに、青のズボンの組み合わせがあるだろう? あの恰好にするつもりだ」
「ええっ!? あの恰好で行くつもり!? 信じられない……」
おっ、おかしい。玲菜が蔑むような目で俺を見てくる。
何がまずかっただろうか?
「まずおにいが言う白のシャツだけど、意味不明な英文字入ってるでしょ? あれ、はっきり言ってダサいから」
「ダっ、ダサい……!?」
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