第4話 康士郎はあいつらと違って勝ち組だぜ
「おい、岩瀬が来たぞ」
「けっ、リア充が……」
「なんであんなやつと藤川さんが」
風紀委員の身だしなみ点検があった日の二日後。登校し自分のクラスの二年C組に入った俺へと、ほとんどのクラスメイトの男子が嫉妬の眼差しを向けてくる。
なぜ俺が嫉妬の眼差しを向けられているのか?
それは俺と優花が付き合ってることが既に全校生徒に伝わっているからだ。
まず優花が女友達に交際の事実を伝え、その友達づてに他の生徒達へと徐々に情報が伝播。その結果短い期間で全校生徒に俺達が付き合ってることが伝わるまでになったのだ。
最初は付き合ってることを隠すか隠さないかで悩んだ。だが内緒にしていたら、優花が今フリーだと思っている他の男子が優花にアプローチする可能性がある。それは彼氏としていやだったので、付き合ってることは公にしようと決めたのだ。
「ちくしょー、岩瀬のやつ! 僕達の藤川さんをかっさらいやがって! きいいいいいっ!」
「聞いたところによると、藤川さんのほうから告白したらしいぞ?」
「何だと!? 俺は藤川さんに告白しても断られたってのに。許せねえ……」
「へい、MIRI。『海・人を沈めてもバレない場所』で検索して」
嫉妬にまみれた言葉の数々が俺の心に突き刺さる。
ていうか、最後の男子。AIになんてもん検索させようとしているんだ。怖すぎるわ。一人で夜道歩けなくなるわ。
「おーっす、康士郎」
自席に座るとクラスメイトの男子の一人が話し掛けてくる。
彼は俺の友達の
濃いめの茶髪に肩幅が広く男らしい体型。顔は整っており、つり気味の瞳も相まってワイルド系イケメンという印象を受ける。加えて恵太はサッカー部に所属していて運動神経抜群である。このようにハイスペックなため、女子からは大層モテているらしい。
「相変わらず他の男子共の嫉妬がエグイけど、大丈夫か?」
「俺なら大丈夫だよ。さすがに困ったなとは思っているけど」
「そっか。けどよ康士郎。オレは嫉妬の対象が幸せじゃなきゃ嫉妬なんてされないと思っている。そういう意味では、康士郎はあいつらと違って勝ち組だぜ」
「勝ち組、か」
「おう。だからあんまり悲観せず、前向きにいていいんだぜ?」
他の男子達からの嫉妬に晒される俺を恵太が励ましてくる。友達からのありがたい言葉を、俺は胸に刻むことにした。
「でも、よかったな康士郎。ずっと好きだった藤川さんと付き合えるようになって」
「まあ、うん。よかったよ」
「歯切れ悪いな。藤川さんと付き合えて嬉しくないのかよ?」
「そりゃあ嬉しいよ? けど……」
「あれか? 藤川さんとの交際が上手くいくか不安みたいな?」
「まっ、まあ、そんなところかな」
正確には、今後も優花の犬プレイに付き合わされることに不安があるんだけどな。段々プレイが過激になっていく可能性もあるから。
いや本当、犬プレイはないだろう犬プレイは。人間なのに犬として振る舞うとかわけわからん。ドMとかがまだマシに聞こえるレベルなんだけど。
このままじゃ俺の思い描く普通のお付き合いは到底できない。
犬プレイがしたい優花の性癖をどうにか解消して、ちゃんとカップルらしい付き合い方ができるようにするか?
けどその場合、人には言えない性癖があっても気にしないと優花に言ったのが足枷になるよな。
人には言えない性癖があると優花が言った際、犬プレイが好きとは明言しなかった。その事実を盾にこちらの主張を押し通すこともできるかもしれない。
でも優花は犬プレイしたいことも許容してもらえると考えている。俺が犬プレイをやめさせようとしたら、あのとき言ったことは嘘なのかと追及されかねないし。
普通のお付き合いを取るか、優花の望み通りのお付き合いを取るか。
ああもう! 優花と恋人になれたってのに、どうしてこんな面倒なことに!
「ちなみに、二人はなんて呼び合ってるんだ?」
「お互いに名前で呼んでるよ。俺は優花って呼んでて、向こうは俺のこと康士郎って呼んでる」
「おおっ、いいじゃんいいじゃん」
何度か優花が俺を「ご主人様」と呼んだこともあるけど。
「付き合ってそれなりに経つと思うけど、ぶっちゃけ康士郎と藤川さんってどこまでいってるんだ?」
「えーっと……。手はつないだかな」
実際は手をつないだわけじゃなくて『お手』だったけど。
「そこまで進んでるわけじゃないのか。てっきりキスくらい済ませてるもんかと」
「俺と優花は付き合い始めて日が浅いんだ。キスは当分先だよ」
「藤川さんと上手くいってない、ってわけではないんだな?」
「そういうわけじゃないよ。だから安心して欲しい」
「そっか。まあでも、藤川さんとのことで悩みができたら遠慮なく言ってくれ。オレでよければ相談に乗るからよ」
「ありがとう、恵太」
既に優花が俺の犬として振る舞う件に悩んでる、とはさすがに言えないな。
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