✝️武羅苦サイド✝️三村くんの憂鬱
疲れた。最近は本当に喧嘩三昧だ。
マルメンの箱を開けるも一本も残っていない。
俺はイライラしながら煙草の箱を丸め潰す。あの日以来俺と仇は『仏打』の奴等を潰してまわっている。
人数だけは多く統率のされていないチーム。
「努力兄弟をやったのは誰だ、桃野は何処に住んでいる」
そう聞いても皆要領を得ない答えばかり、話しているこっちが頭がおかしくなりそうだ。何人やっても何人やってもゴキブリのように『仏打』の数は減らない。
ただ兎に角リーダーの桃野が変なオッサンとつるんでいる。その情報だけがちょいちょいでてきた。
仇は楽しんでいるが俺はもう飽き飽きだ。
最近仕事も行っていない。もうクビになっているだろう。はやくしろ桃野、はやく全面戦争をして終わらせよう。いくら仇が強かろうとも大人数でこられれば俺達はひとたまりもない。それで終われるんだ。
はやくこんなガキっぽい暴走族ごっこを終わらせよう。
俺はもう疲れたんだ。
垂れ流しているアマプラの映画。
もうどんなストーリーかまったく記憶に残っていない映画のエンドロールが流れている最中、俺のスマホが鳴った。
知らない番号だ。
着信に出てみる。
「こんにちは」
高くも低くも無い、特徴も無い大学生のような若い声が聞こえてくる。
「誰だよ」
「誰だと思います?」
この糞みたいな電話クイズが一番嫌いだ。
「殺すぞ、二度と掛けてくるな」
電話を切ろうとすると相手が慌てた声で
「あ、まってください桃野です」
俺は吃驚した。あの大所帯のレーシングチームを取り仕切る人間の声がこんなに弱々しいとは。
見たことは無かったし喧嘩の強さじゃなく政治力、経済力でチームを支えてきたとは聞いていたがちょっと力が抜けるような声だ。
「三村さんでしょ?『武羅苦』ナンバー2の」
「なんで番号しってるんだよ」
桃野は朗らかに笑った。
何の用だろう、俺は警戒する、今は仇が何処かに行っていて決定権は俺に無い。
しかももし大人数でこの家を襲撃されたら俺はひとたまりも無い。
緊張で喉が渇く。
横に置いていた飲みさしのペットボトルのお茶を口に含む。
「終わりにしませんか?」
桃野は穏やかな声で言った。殺してやると同義な発言だが声のトーンからそんなに切羽詰まったものは感じられない。
終わりとはなんだろう。
俺も終わりにはしたい。こんな生活を続けられるほど俺は元気じゃない。
糞みたいな元不良のユーチューバーみたく金が有り余り車自慢し続けられるよおうな人生であれば一生不良気取って居ても良いが、俺はそんな事は出来ない。
じゃあ終わりとは何だ、やはり俺達を潰すつもりなのか。
さんな舐めたことを言われても俺はもう頭に血も上らない。もう滾らないんだ。
「もう暴走族を終わりにしたいんです、今仇さんそこに居ないでしょ?正直にいってください。大丈夫です、俺も終わりにしたいんですよ。ここらでうまいこと区切りをつけて俺達の代は引退にしたいんです。三村さんもそうでしょう?話は聞いていますよ」
確かに俺は幹部の何人かには引退をほのめかした事がある。メンバーに裏切り者がいるのか。いや、もういいか。
引退。
その響きに俺は甘美さを感じた。
「・・・どうすんだよ仇はもう止まらんぞ、アイツは俺達とは違う。根っからの狂犬だ」
「知ってます、俺も怖いっす。仇さんと喧嘩するの。でもエンディングが有ればどうでしょう。ゲームでも漫画でもラスボスが倒されればその物語は必ず完結します」
「アイツか!あの殺し屋!」
「そうです、二人がお探しの。そいつと仇さんをぶつけて終わりにしましょう!仇さんが勝てば俺達は引退。ライバルチームも居ないんじゃ張り合いが無いと三村さんが仇さんを誘導してください。もちろんこっちが勝てれば二人を引退させます。まあ仇さんが負けるとこはあんまり想像できないですが」
完璧だ。
俺は思った。
完璧な作戦だ。
俺の頭の中はもう桃野側に付いてしまっていてこれ以上何か言えるような状態じゃ無くなっていた。
桃野と色々話す内にやはりチームを辞めたい気持ちが高まってきた。
仇は嫌いでは無い。
なんとかふたりして後続にチームをまかせていけるように仕向けよう。
俺も桃野も仇も。
みんなで引退しよう。
桃野と一通り話した後電話を切り俺は外に出た。
冬の透き通った空が広がっている。
俺は家にあった最後の一本のジョイントに火を点け作戦の成功を祈りながらいがらっぽい煙で肺を満たした。
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