✝️世界で一番偉い佐世保市議様✝️
「なんやああ」
俺は家に押しかけてきた阿呆の警察をパルタガスのシガーを銜えながら睨みつけてやる。
俺を誰だと思っているんだ。
かの佐世保市議、山下こうだああい様だぞ。
「いや山下さん、なんでそんなにお怒りなんですか?私たちはただ話を聞きに来ただけなんです。市議の耳にも入っているでしょう?最近、烏帽子岳で沢山の人が行方不明になっているんです。市議も烏帽子に別荘に経営する建設会社の資材置き場もあるでしょう?何かお知りでは無いかと尋ねただけなんです」
この慇懃な態度、笑顔の裏でコイツラ本当は知っているのだろう。この最近の烏帽子の行方不明の原因が俺にある事を。
そう俺は十数年前、烏帽子の山にクマを捨てたことを。
あの頃娘が生まれた。
何となくはらませた女と結婚して子供が出来たと聞いた時は何の感慨も無かった。
別に面倒を見ないつもりでは無かったが俺は遊びたかったし他に愛人も居たので兎に角金だけ出して嫁にすべて見させよう、そう思っていた。
そうして産まれたと連絡があり産婦人科の門を潜り疲弊した嫁と対面。
ノーメイクの嫁は疲れ切ってはいるがつやつやとした顔をこちらに向けてだっこしてあげてと微笑んだ、それは俺が知っている女の顔じゃ無い。母の顔になっていた。
ひと目がある手前しかたなく看護師に連れられ保育器の前に。看護師の尻にしか目が行ってなかった赤子の前に来たときに身体が勝手に注目した、我が子に。
我が子を見る。その時本当に電流が走った様な気がした。
それ以来俺は娘命となった。
毎晩飲み歩くのも辞め俺は子供と遊ぶようになり嫁ともよく話すようになった。
周りからの評判も何故か良くなり人生がさらにうまく回り出す。
どれもこれも娘のおかげだ。
さらに俺は娘を溺愛した。
子供の成長ははやい言葉らしき物を発し歩き出しそして個性が産まれる。娘はぬいぐるみが好きだった。
特にクマ。
はじめは小さい物。
そのうち娘はどんどん大きなサイズをほしがりだし強く自我も芽生えた娘はこう言い放った。
「ほんもののおおきいくまがほしい」
俺は迷ったこんな住宅街でクマを飼う訳にはいかない、しかし山には俺が経営する建設会社の資材置き場がある。そこでなら飼えるかも知れない。
ネットでクマについて調べる。
まあ凶暴かも知れないがロシアの動画などを見ているとどんな巨大なクマも小さい頃から飼育していればおとなしくなついてはいるようだ。
そしてどうせ正攻法では手に入らないものなので一発目から親父の知り合いのヤクザに電話をしてクマを飼いたいとつたえる。
一週間も待たなかった。
深夜呼ばれて資材置き場に行くと檻に入った黒く小さなけむくじゃらのクマが囲まれた車のヘッドライトに照らし出されていた。
なーなーと情けない声で鳴いている子熊は愛らしかった。
抱き上げると鼻をふんふんさせながら甘えたようになあなあ鳴き続ける。
値段を聞くと百五十万だとふっかけてきたがはやく娘の喜ぶ顔が見たくてポンと払ってやった。
毎日の世話は建設会社の若い奴にまかせる。
兎に角清潔に、娘が厭がるような獣臭い状態にはしないようにと強く指導した。
それからは毎週、俺が休みの時は烏帽子にある資材置き場に娘と遊びに行くようになった。
ただ蜜月の時は短かった。
娘は飽きなかった。
大きくなったクマに毎回抱きつき楽しそうな声を上げていたしクマもクマでべつに厭がるそぶりも見せず甘噛みこそはすれど本気で攻撃もしない。
俺は安心して見ることが出来た。
もちろん部下に銃は持たせていつでもクマを撃てるようにはしていたが。
最初の被害者は娘では無かった。
会社の若い奴だった。
ある夜バーで酒を飲んで良い感じの時に熊を持ってきたヤクザから資材置き場に呼び出され、イライラしながら出向くと会社のやつら、そしてクマを俺に売ったヤクザ全員が真っ青な顔をしていた。そんな様子を見て俺の苛々は霧散した。
檻の中は真っ赤だった。
食欲旺盛なクマは俺が来る間、たったの一時間で二十歳の若者を髪の毛だけしか残さないくらいに綺麗に平らげてしまったのだ。
さすがに俺の会社の専務は怒っていたが俺は箝口令をしくことにした。
どちらにせよ俺が捕まればオマエラも捕まるわけだ、そう言って無理矢理黙らせた。
その舌の根も乾かないまま第二の被害者が出た。
また餌遣り担当の若い奴が食われたのだ。
クマは人の味を覚えると何度でも襲うようになる。どこかで見たのか聞いたのかそんな台詞が頭に浮かんだ。
しかもその時クマは逃げた。
この佐世保の烏帽子岳に。
その後は知らない、俺は知らない。
クマなんて飼ってないし見たことも無い。
だから警察に言ってやったんだ。
「なんの話をしているのか!!まったく解らなねぇ!!俺を誰だと思ってる!佐世保市議山下こおおおおおおうだああい様だぞ!」
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