✝️松本サイド✝️ 翔べ!ヒトシ!!


松本は思った。



三上じゃない、参上の間違いなんじゃないのか?



しかし暴走族の馬鹿どもは馬鹿丸出し雁首揃え三上なる人物についてあーだこーだ言っている。


 馬鹿+ガキ+暴力=死


簡単な方程式だ。馬鹿と付き合ってはいけない。

待っている結末は間違いなく死だ。

逃げるしか無い。


俺はこんな馬鹿どもに付き合って死にたくない。


煙草に火を点けながらさりげなく出入り口を確認するもガキ共が居て出られそうにない。無理矢理でも外に出るべきか考えた結果、とりあえず待つことにする下手に目立てば何を言い出されるかわからないからだ。チャンスを待て、いつか必ず何て思っていたら。



「さ、行きましょう!」



あっという間に車に乗せられてしまった。まったく話を聞いていなかった。どこに連れていかれるんだ。


 車の中の馬鹿共の喧噪、趣味では無い音楽。意味のわからない言葉の波。


唯一救いは桃野の車と違い煙草は吸えそうだ。


運転している奴が吸っている。俺も煙草をスパスパしていたら唐突に


「松本さんてケンカ強いんスよね」


と尋ねられすぐに



「強かばい」



と条件反射のように答えてしまった。俺はただただ自分の情けなさに辟易する。


しかもどうやらコイツら敵対する暴走族の縄張りに向かっているらしい。完全に怪我するコースだ。


俺はもう気が狂いそうだ。



変な動悸まで起きてきている内にその目的地らしき場所に到着。


車から降りて俺は驚く。ガキ共のたまり場なんか糞汚いボロプレハブみたいなものを想像していたが目の前にあるのはそれはそれは大きく瀟洒な一軒家。


窓も建物もなにもかも大きい。


最近のガキはどうなってんだ。


桃野の野郎もすごい外車に乗っているし。


そう考えると貧しいのは俺だけなんじゃないのか。


やる気も何も無くなってくる。真面目に働いても佐世保の給料は知れたもの、そう考えるとコイツラ暴走族にへつらって生きていったほうがマシなんじゃないのか。


このガキどもも良い車に乗っているし桃野は何店舗も経営しているなんて嘯いていた。


うまいこと取り入れば俺に仕事を回してくれるかもしれない。



俺は俄然やる気が出てきた。


「さあ行こうぜ!」


俺は先頭を切って玄関を開いた。


まず開いたことに吃驚した。

鍵でも掛かってるんじゃないのかと思っていたからだ。


電気は付いていた。開けて直ぐの靴脱ぎ場もそこから伸びる廊下も何故か泥だらけ、壁には赤黒いペンキを所々ぶちまけた様な。


それにこの臭い。獣臭。吐き気がする。俺は足が竦んで動けなくなってしまった。



「うおおっ!くっせ!」


名前も知らない三人の馬鹿は土足のままズカズカと室内に進んでいった。



「うっわ!泥だらけじゃん!」

「くっせ!くっせ!」



最初の方は元気一杯だった三人も静かになってきた。臭いし誰も居ないらしい。


その後は無音の空間となる。


俺はこんな臭くて不穏な空間から一刻も早く逃げ出したかったが自分の車が有るわけでも無くどうすることも出来ずにただ立ち尽くしていた。 


暇なのでわざと煙草の灰を落とさないようゆっくりとすっているとバキバキ、枯れ木を折るような音がした。



「ヒイイイ」

「な、何だオマエ!」


急に騒がしくなる。誰かがいるのか。身構えるもバシャッと廊下の奥で水を撒いたように赤い液体が飛び散る。



「ヒヤアアア!助けてぇええええ!」


誰が何故叫んでいるのかだなんて関係ない。


俺は猛ダッシュで逃げた。


ホラー映画みたいに原因を探るなんてことはしない。

全力で走り乗ってきたサーフに飛び乗る。

ラッキーなことに鍵は差しっぱなし。



キーを回しエンジンをかけると俺はバックミラーを確認することもなくアクセル全開、その場から離れ烏帽子岳を降りた。


 その後、コンビニの駐車場にて震える指で桃野に電話した。


誰かが居た、あいつらは。




あいつらは全員死んだかも知れない。


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