✝️仏打サイド✝️ 桃野からみた松本の哀れさ

枯れ葉は地面すれすれをくるくる舞い公園の隅に溜まっていくのを俺はぼんやりと見ている。



暇だ。



世の中は超不景気らしい。


学歴だ運だコネだが必要らしい。


たしかに俺は学は無いがコネだけはある。


親父は金持ちで俺もそのコネに預かり悠々自適な経営者ライフを送っている。


金さえあれば金も人間も寄ってくる。


親父も俺を重宝し道具の様に使っている。


キャバの女集め客集めマリファナのルート販売。


俺がやっている暴走族『仏打』でそれらは楽にこなしていける。


若い女を集めるのにも薬を売るのにもすべてにおいて最適解だ。


俺はほどほどに勉強し今大学生。

もう二十歳になった、俺が普通のキャンパスライフを過ごしている間にもチームの人間は増え今はもう百人を越えているはずだ。


リーダーの俺の顔を知らない奴さえいる。この間、佐世保に帰った時にミーティングでため口を聞かれ吃驚した。


もちろん念入りにヤキをいれたが。


しかし・・・・。


そろそろこんな馬鹿な事をするのも限界かも知れない。


人数が増えすぎた、馬鹿がふえすぎた。


もう足がつくのは目に見えている。こんな金目当てのしょうもない寄せ集めチームにはほとほと愛想が尽きた。


内部の抗争も少し起きていると聞く。


くだらない。ケンカも出来ねえ奴等が寄せ集まってだんだん粋がりが止まらなくなっている。


俺はもう引退したい。


それに比べて『武羅苦』のオールドスタイルな暴走族は本当にカッコいい。


十人くらいしか居ないが全員ケンカが強い佐世保のファイター達だ。


シノギを邪魔されるのは茶飯事だが、その見事な暴れっぷりは本当に憧れすら感じる。



チームの前では何時か潰すと息巻いているが嘘だ。



仇や三村に俺達偽物が勝てるわけが無い。



この先が見えているへなちょこチームを後腐れ無く辞めるか潰すか。


ぼんやり街を歩きながら考えているとチームの農家から連絡が入った。



「この間の新作、花が咲きました。お試ししませんか?」



大麻は良い。


吸ってもいいし金にもなる。


最近は旅行代金をだして本場から質のよいフェミニンな種を仕入れている。


今は老いも若きもマリファナブームだ。



さっそく役得として試飲に向かう。


磨かれたオールデンのつま先を見ながらメンバーのアパートに急ぐ。


人はまばらで枯れた街だ。


だからこそ俺達のマリファナが飛ぶように売れる。


宿敵がいないのだ。


福岡だとそう簡単にはいかないのかもしれない。



 足早に歩いていると目の端に何かが映った、視線を向けると公衆便所の壁際に誰かが倒れて居るようだ。死んでいるのかと近づくと寝ている奴が動く。


酔っ払いの類いか。



興味を失いかけるも便所からのっそり出てきた奴が倒れた人間に近づき掏摸をしている。


おお、迷わず盗むんだな。


近づく俺に気づきもせず、へっぴり腰で倒れている爺の腰をまさぐり財布を取っていた。


「なにしてんすか」


男が驚いて振り向く。



なんて貧相な男。


伸びきってシミのついたスウェット。

安そうなジーンズ。



そしてただ切っただけの短い髪に無精髭。


無職そのものだ。今現在世の中の人間が無職を思い浮かべるとき彼の姿を想像するだろう。



そしてなぜか強い糞の臭いがする、コイツ漏らしてねえだろうな。



小さい一重の目、その中のさらに小さい黒目がぐるぐる動く。何か逡巡している。そして男の口から驚くべき言葉が発せられた。


コイツをケンカで倒した。


すごい、完全なる嘘だ。



コイツが便所から出てきて掏摸まで見ていたのに、、しかも平然とではなく目を泳がせながら小心者丸出しで。


こいつは中々の馬鹿だ。少し喋り掛けてやると次から次へと何かを継ぎ接ぎしたような武勇伝を語り出す。


そんな嘘の話を聞きながら何故かコイツには痛い思いをして欲しい。そんな考えが浮かんだ。




しかも名前が松本仁示て。




声を出して笑いそうだ。


とにかく何故か強くコイツに痛い目にあって欲しくて名刺交換をした。


用心棒を依頼すると足を震わせながら二つ返事で承諾。


兎に角これで何か暇つぶしになりそうな、そんな気がしながらこのウンコ臭い男を仲間に引き入れた。



今度必ず大変なことに巻き込んでやろう。



わずかな金を恵んでやる。



松本も俺もニコニコしながら再会を約束しその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る